1046話 吹き抜ける前の接触
時を少し遡り……
時間としてはヒロムの前にアウロラが現れた瞬間……
夕暮れ時の街を歩くゼロ。とくに目的はないのかただただ歩いていた。
街中を歩くゼロ、だが……
「っ……!!この感じ……!!」
《叛逆の悪意》の存在による最悪を避けるべく周囲と道を違えてでも最善を尽くそうと考え行動するゼロは何かの気配を感じ取ると足を止めて気配がした方を向き、周りの人間が当たり前のように日常を生きる中、ゼロは不安を感じているような顔で舌打ちをしてしまう。
「クソが」
(アウロラが悪意として顕現したか。オレが不在の戦いで消滅したと聞かされていたが……やはりヒロムたちを欺くための芝居だったってわけか。あの件がもしアイツの仕組んだ事だとすれば、何も知らないヒロムは間違いないなくアイツを信じていた分の不信で心に陰りを生むに違いない。そうなったら《叛逆の悪意》が動きを見せるに違いない)
「こんな事なら最初からシオンに期待したりするんじゃなかった。手っ取り早く終わらせておけば……
「それは聞き捨てならないね」
感じ取った気配……ヒロムたちの前に現れたアウロラの気配と存在を察知したゼロは最悪の事態を危惧し、同時に行動を起こさなかった事に対する後悔近い感情を抱きながら強引にでも行動を起こそうと考えヒロムのもとへ向かおうとした。が、そんなゼロの前へとヒロムのもとから離れ単独行動を取っていたナギトが現れ、現れたナギトは彼の行く手を塞ぐように立つと唐突に質問をした。
「邪魔して悪いんだけど、教えてくれる?天才の事……《叛逆の悪意》の事を」
「急に何だ?悪いがオマエの好奇心に付き合うつもりはないぞ」
「ごめん、好奇心とかじゃなくて単純に疑問に思った事を聞きに来たんだよ。どうして同じ場所に行った3人の考え方が2人と1人で分かれる事になったのかが」
「はっ、言い方が違うだけで個人的な好奇心じゃねぇか。悪いが本当に付き合ってる暇はない。邪魔するなら……
「ナギトがダメなら、オレたちの質問に答えてくれるかゼロ」
ナギトが自身の抱く疑問について尋ねようとするも好奇心に応える気はないと冷たく突き放そうとするゼロ。そんなゼロのナギトへの態度を見かねたようなタイミングで風の魔人・ゲイルが海の魔人・トリスと共にナギトのそばに現れる。
原初の魔人が2人、この2人の出現にゼロは何かを察したらしく溜息をつき、溜息をつくゼロの反応を見たゲイルはナギトに代わって話を進めようとした。
「ゼロ、オマエには悪いが今ここでオレたちの質問に答えてもらう必要……いや、責務がある。手間を取らせる気は無いし、何なら見返りも提供可能だ」
「見返り?何の真似だ?」
「情報提供に対しての対価……と解釈してください。私とゲイルはナギトの意思を尊重してアナタのもとへ来ています。そして見返りというのも彼の発言によるものです」
質問に答える責務があると語ると同時に何やら思惑があるような事を口にするゲイル。明らかに怪しい彼の発言に疑いを向けるゼロ、そんなゼロを納得させようとトリスは自分たち原初の魔人はナギトの意思を尊重していると語り、見返りの提案もナギトが言い出したものだと彼女が明かすとゼロはナギトに視線を向けて説明を求めようとした。
説明しろと言わんばかりにナギトに視線を向けるゼロ。彼の視線を受けるナギトは向けられる視線の意味を理解するのに時間を要してしまうも何となくで察すると説明を求める相手へ意図を語り始めた。
「この状況……というか、今のゼロの孤立無援の状態が長続きしたら《世界王府》の思う壷だよね?単にシオンとゼロの意見の対立なら仲違いしてるくらいでスルー出来ッけど、その仲違いの渦が広がって色んな人間の関係にまで影響与えるようなら何とかしたいと思ったんだよ」
「前置きが長い」
「アンタが何をやるつもりかはさておいて、それをアンタ1人で実行出来るほど現実甘くないだろって話。煉獄島に行ってた3人の関係が冷戦状態になるように分かれてる現状……それもシオンとクローズが組んでガイやソラを取り入り始めてる流れでアンタが全部何とか処理するのは不可能じゃない?」
「ふん……要するにオマエはオレを止めに来たってわけか?このままじゃアイツらの考えが実行されてオレのは無駄に終わるって言いたんだな?」
「いいや、違うけど」
「何?」
ナギトの言葉から彼が自分の考えと計画を止めに来たと解釈したゼロ。そんなゼロの言葉にとくに間を置くこともなく言葉を返したナギト。彼の口から返された言葉が意外だったらしいゼロは思わず聞き返してしまい、聞き返してきたゼロに対してナギトは彼が誤解しているであろう部分について補足を始めた。
「別に止めたとしてもアンタは是が非でも実行するだろ?ねら止めるだけオレの労力無駄じゃん?そんな無駄な事はやらないって。どうせやるなら合理的な方が賢明だろ?」
「ならオマエはオレに何を求めるんだ?」
「オレが求めるのはオレたち3人の疑問について知ってる事を包み隠さず明かしてもらう事だけ。アンタが知ってる情報でオレたちの疑問が解決すればそれだけで十分だ」
「で、一応聞くが……オレのその情報提供に対してのオマエからの見返りとやらは何なんだ?」
「簡単な話だよ。ゼロ、アンタへの見返りは……オレだ」
自分たちの疑問について知ってる情報を開示してくれるだけでいいと話すナギト。ナギトの求めるものに対してゼロは彼が何を見返りとして寄越してくれるのかをハッキリさせようと尋ねた。見返りについてゼロに尋ねられたナギト、尋ねられたナギトは自らが見返りだと答えた。
言葉の意味が分からない……いや、というよりは理解出来るような内容ではない彼の言葉を受けたゼロは馬鹿にされていると思ったのか彼を睨みつける。
「オマエ、ナメてんのか?見返りがオマエ?オマエに何の価値があるって言うんだ?」
「そう言いたくなるのは分かるよゼロ。コイツ急に何言ってんの、て思うよね?でも……言葉の通りなんだよ」
「回りくどくて理解出来ないな。結局の所、オマエは何が言いたいんだ?」
「ゼロ……オレをアンタの計画の共犯者にしろってことだよ」
「共犯者、だと?」
ゼロは耳を疑った。
普通、この場合用いられる言葉としては『協力者』が適切だろう。それはどこの誰が聞こうと間違いなくそう思うはずだ。だがナギトは違う。彼はこの場で、この状況において不適切とも言える『共犯者』という表現を用いた。
その言葉の真意が何なのか、ゼロはナギトに何かしらの企みがある事前提で彼にその意図を話させようとした。
「オマエの言うそれは何を意味する?」
「文字通り、ゼロがやろうとしてる計画のためにオレも嫌われ役になるって事さ。アンタの計画は天才の事を敵に回しかねないようなものなんだろ?その計画に天才の弟子のオレが加担するんだよ」
「嫌われ役になるのかどうかはさておいて……オレに手を貸した後の責任は取らねぇぞ?」
「いらないよ、そんなの。計画を成功させてあの天才を驚かせるためなら汚れてやるよ」
「なるほど、そうか。それがオマエの見出した……」
「因子の守護者のゼロならこの提案の意味が分かるはずだ。だから、オレをどうするのかを決めなよ」
ナギトの持ち掛けた『共犯者』という提案。その意図を彼の言葉を聞く事で理解したゼロは……
舌打ちをするとナギトの提案に不愉快だと言いたそうな顔で返答した。
「ふざけた提案を生意気にしてくれた所悪いが断る。情報が欲しいならくれてやるがオマエらの手を借りる気はない」
「強がり?状況を考えて……
「ただ、利用される覚悟があるならオレからオマエへ頼み事くらいしてやる。オマエにもオレにも損のない内容でな」
「それ、共犯とは何が違うの?」
「オレの話を聞けば分かる、としか言えないな。どうする?オレもオマエもヤツらに一杯食わされた経験のある身だ……引き受けるなら、オマエの手を取ってやる」
ナギトの提案を拒絶しながらも何かを企てるように頼みを聞けと強気に言うゼロ。果たして彼の思惑、そして彼の計画とは……




