1045話 吹き抜ける想定外
ヒロムの口から次から次に明かされるアウロラにまつわる事実。
そして、アウロラの存在が精霊の存在そのものを脅かし認知の低さの原因となっていたとヒロムが明かすとアウロラは恍惚とした表情を見せ闇を纏い踊るように宙を舞う中で『堕滅』という精霊として自らに与えられたもう1つの名を明かした。
これまでにない反応と態度を見せるアウロラ。その豹変ぶりから本性を表したと認識したヒロムは面倒そうにため息をつき、ヒロムがため息をつくと彼やフレイ、ラミアの3人の連携に参加しようと彼のそばに精霊・マリア、テミス、ティアーユ、セツナが現れて各々所有する専用の武器を構えようとし、一度はアウロラを驚く動きを見せたフレイとラミアも武器を構え敵の動きに備えようとした。
そんな中……
アウロラは面白可笑しく楽しそうに笑った後、静かに地上へと降りると不敵な笑みを浮かべながらヒロムに視線を向け、敵の視線が向けられるヒロムは再び舌打ちすると白銀の稲妻を強く纏い直していく。
「1人で気持ちよくなって楽しかったか?見てるこっちは気分悪かったけどな」
「そうねぇ、私が満足出来ればいいだけだから仕方ないわ。でも……私の正体に辿り着けたアナタと本気で殺り合えるってのは興奮を抑えるには無理のある事だと思わない?」
「思わねぇよ。むしろオマエみたいな魔女と感覚を共有してるとか思われんのは心底迷惑だ」
「ふふっ、恥ずかしかってるの?」
「自己評価改めろクソ魔女が。オマエと何かを共有するくらいなら死んだ方がマシだ」
「そう、なら……殺してあげるわ!!」
敵の言葉に不快感を隠せないヒロムの返した言葉、『死んだ方がマシ』と発言した彼の言葉を実現してやろうとアウロラは禍々しい闇を無数の矢に変えながらヒロムに向けて乱射していく。
アウロラが乱射した闇の矢はその全てがヒロムを標的に射抜こうと迫っていくが、敵の攻撃が迫り来る中でヒロムは軽く息を吐くと何を思ったのか自らを仕留めに飛んでくる闇の矢の中へ突っ込むように走り出す。
何か策があるのか、それとも無策なのか……ヒロムが相手な以上、前者である事は確定だろうと考えるアウロラは禍々しい闇を右手へ集中させ、その力を高めて迎撃しようと用意を進める。
迫り来る無数の闇の矢へ自ら接近しようとするヒロム、たとえ闇の矢を全てどうにか出来たとしても迎え撃つための力を放って仕留める。そんな風にヒロムを倒すための手筈を思考するアウロラの放った無数の闇の矢の方へ勢いよく突っ走るヒロムを助けるかのように双銃を構えたティアーユと銃剣を構えたテミスが弾丸を速射・連射して闇の矢を次々に破壊させていく。
「ちぃっ……クソ精霊が!!」
「口が悪いですよ、アウロラ!!」
闇の矢を破壊される事に苛立ちを見せ乱暴な言葉を口にするアウロラの口の悪さを指摘するティアーユの構える双銃が蒼い光を纏い、ティアーユが引き金を引くと蒼い光を纏った無数の水色の光弾が撃ち放たれて敵に襲いかかろうとする。
さらに……
「訂正しても許す気はないけれどね!!」
ティアーユが無数の光弾を撃ち放つとテミスは高く飛び上がると同時に銃剣を構えると全身に紅い闇を纏いながら炎熱の放射させて敵に直撃させようとする。
テミスが撃ち放った炎熱の放射攻撃が迫ってくるとアウロラはそれを防ぐためにヒロム迎撃のために蓄積させていた闇の力を解き放って相殺を試みようとする……が、アウロラが撃ち放った闇の力と炎熱の放射攻撃がぶつかる瞬間、ティアーユが無数に撃ち放った光弾が蒼い光の力を高めながら炎熱の放射攻撃に加勢するように闇の力に直撃していく。
光弾が次々に直撃した事により徐々に力を削がれる闇の力はテミスの炎熱の攻撃に押され始め、放たれた全ての光弾が直撃を終えると炎熱の放射攻撃は闇の力を吹き飛ばしてアウロラに襲いかかろうと迫っていく。
「バカなっ……!?」
「単純な火力で押し切れるって思ってたろ?生憎、そんな簡単には行かねぇよ!!」
迎撃のために放った闇の力が2人の精霊の連携を前にして打ち破られた事にアウロラが驚く中でヒロムは駆ける足を止めようとせず加速し、ヒロムが駆ける中でテミスの炎熱の放射攻撃は力を高めながら敵へ向かい続けていた。
本来ならヒロムを迎撃する手筈で用意を進めていたアウロラだが、ティアーユとテミスによってその用意していた力を削がれて振り出しに戻されたがために禍々しい闇の力をもう一度高めさせながらテミスの放った炎熱の放射攻撃を躱してヒロムを倒す事を優先しようと動きを見せた。
が、その時だった。
テミスの攻撃を躱してヒロムへ迫ろうと動きを見せ始めるアウロラのそれを予測したかのように翠色のオーラを纏い残像を生じさせるほどの超速となったマリアとセツナが現れて敵への攻撃を仕掛けようとした。
「なっ……!?」
「驚くでしょ?少し前までなら考えられないくらい体が軽くて私も驚いてるわ!!」
「これならば私たちはまだお役に立てる!!」
「っ……黙りなさい!!」
アウロラへ迫るマリアとセツナは敵を倒すべく琥珀色と黒色、両者が宿すそれぞれの色の稲妻を纏い翠色のオーラと共に一撃を叩き込もうとするが、攻撃を叩き込もうとする2人に対して激情に駆られるアウロラは禍々しい闇の力をより高めさせる過程で自らの激情を具象化するが如く闇を雷や炎へ変異させながら無差別に解き放っていく。
無差別に放たれる闇の変異したアウロラの力に対してマリアとセツナは超速を維持したまま全て見事に躱し、敵の攻撃を躱したマリアは天高く跳躍すると琥珀色の稲妻を獅子の形で翠色のオーラと共に放ち走らせ、さらにセツナは自らの武器である黒い太刀に黒い稲妻と翠色のオーラを強く纏わせると超速で駆け抜け敵を一刀両断しようと仕掛けた。
2人の精霊が放つ攻撃、それに対してアウロラは禍々しい闇を螺旋に渦巻かせ槍のように変化させると琥珀色の稲妻の獅子を穿ち壊し、そしてセツナの一刀両断を狙う一太刀を禍々しい闇の一撃を解き放って防ぎ止めてみせ、さらにアウロラは闇を爆ぜさせる事でセツナを押し返して立て直しを試みようとした。
「くっ……!!この私が、精霊如きに……!!」
「その認識を改めるべきだなアウロラ」
ティアーユたち4人の精霊の連携と言える多段攻撃の対処に労力を使わされた事に腹を立てるアウロラの精霊への考え・認識の在り方を改めろと告げるヒロム。白銀の稲妻を強く纏いながら敵へ迫ったヒロムは稲妻を纏わせた拳の一撃を叩き込むべく力を高め拳に力を込めていく。
「オマエの考えだの感情だのはどうでもいい……ただ、オレの家族を否定するような言葉を許す気は無い!!」
フレイたちを散々見下され蔑まれた事への怒りを一撃と共にぶつけ過去の因縁の体現と言える敵を殴り倒すために一撃を放つべくヒロムは力を解放しようとした。
ヒロムが一撃を放つ瞬間を待ち望んでいたかのようにアウロラは不敵で不気味な笑みを浮かべ、敵の浮かべるその怪しさしかない笑みに気づいたヒロムは何かある事を理解しながらも一撃を放つ動きを止めず勢いで決めてみせようとした。
が、その時だった。敵の動きを警戒せず強引に攻めようとするヒロムのその強行を良しとせぬ者が烈風と共に大地を駆け抜けて来るとヒロムの攻撃を妨害するように彼を敵から突き放すように吹き飛ばしてしまう。
「!?」
何が起きたか分からず受け身を取る他ないヒロム。ヒロムが唐突に吹き飛ばされた事は敵にとって想定していたものではなかったらしく、そんな状況の中で彼を吹き飛ばした烈風と共に駆け抜けてきた者がヒロムの前に立ち現れる。
「やっほ、天才」
「オマエ……何のつもりだ、ナギト!!」
因縁の相手への一撃を叩き込む瞬間を妨害された事に怒りを見せるヒロム。そのヒロムの前に立つ妨害の実行者……ナギトは少し申し訳なさそうに片手で「ごめん」とジェスチャーをするとヒロムの目を見ながら真剣な顔で伝えた。
「安心しなよ天才……ここからはオレも手を貸すから」




