1044話 覆される認識と暴かれる真相
精霊は下等、そんな風に見下しフレイとラミアを格下と侮っていたアウロラ。だが事態は予期せぬ方向へ傾き始めた。
ヒロムが施したであろう『何か』、その何かの効果を受けたフレイとラミアはこれまでにない力を発揮してアウロラとの攻防を見事に成立させてみせ、そしてこの結果を受けたアウロラはヒロムが何かしたと確信して彼の口から吐かせようと叫んだ。
「アナタ、そこの精霊に何をしたの?そいつらが私にの力に対抗出来るのもおかしいけど……何よりもおかしいのはそいつらが纏っていた力よ。紅い闇と蒼い光……どうしてアナタが内包する魔人の因子と天霊の因子の力をそいつらが扱えたのよ!?」
「それがオマエの素か?だとしたら化けの皮剥がされて急に余裕無くなってやがるな」
「答えなさいよ……!!アナタが何かしたのは明白なのよ!!そいつらに何をしたのかを……
「奪い取り独占するしかして来なかった悲劇を演じる事に長けてるオマエじゃ理解が追いつかねぇってか?至極簡単で分かりやすい話なのにな……オマエがこれまで手放してきたものをオレが持ってるってだけだ」
「人を馬鹿にするような言い方……アナタが何をしたかを聞いてるのよ私は!!」
「……ったく、うるせぇな。オレただ、フレイたちへ《セレクトライズ》の力を強制的に発動させるよう誘導しただけだ」
「……は?」
ヒロムが何をしたのか、声を荒らげる形になろうと意地でも彼に真相を吐かせたいアウロラがしつこく聞いてくる事に鬱陶しさを感じるヒロムは面倒そうにため息をつくと自身が何をしたのかを明かす。が、ヒロムが明かしたその内容を受けてもアウロラの理解が追いつく事は難しかったらしくヒロムから求めていたはずの返事が来てもアウロラは聞き返す事しか出来なかった。
「は?何言ってるのかしら?苦し紛れの言い逃れ?にしては苦しいわよ?私が《セレクトライズ》の効力を知らないと思ってるの?その力はアナタが霊装をそいつらから借り受けるための力、そいつらに対して働く力じゃないのは私は知ってるのよ?」
「いつの話だよ、ったく。行き遅れの魔女様は情報収集下手くそか?」
「何ですって……!!」
「結論だけ言うならオレがフレイたちから『借り受ける』って事しかしてなかっただけで元々は可能だった事、それを今使っただけだ」
「ありえない……!!仮に使えたのだとしてもアナタがそいつらに与えられるのは力の象徴である白銀の稲妻だけのはず!!それなのにどうして……」
「短絡的思考、ご苦労さま。生憎、オレがその『だけ』で終わるような男だと思ってたのか?」
「まさか……アナタ自身に何かをしたとでも!?」
ヒロムの言葉が信じられないアウロラは何を言われても疑いを持って聞き返す他なく、そんな敵に対して親切に答えるヒロム。
戦いの中とは思えぬ会話の中でフレイとラミアは自身の身に起きた変化について今になって理解が追いついたらしく混乱に似た反応を見せ始め、敵はともかく味方側が混乱するのは流石に困ると考えたヒロムはため息をつくと自らの固有技とも言える《セレクトライズ》について更なる事実を明かし始めた。
「オマエの言うようにオレは魔人の因子と天霊の因子を内包する。加えて幻霊の因子も……当然、精霊の因子もな。『破壊』も『創成』も『干渉』も『先導』も出来るなら……四条貴虎とのクソみたいな殺り合いの果てに同時発動するきっかけを掴めた感覚を試したんだよ。好奇心程度で試しに《セレクトライズ》を能力者の覚醒と同じように覚醒させられるか、をな」
「単なる好奇心で……!?」
「ああ、色々試行錯誤したおかげでフレイたちを驚かせるビッグサプライズなものに変わった。条件付きではあるがフレイたちを精霊として格上げ出来るようになった点だけ見れば成功って言えるものだ」
「条件付き……まさか、そのための《ソウルギア》!?」
「そういう所に回る知恵はあるようだな。察しの通り《ソウルギア》はトリガー、オレ自身を霊装を持つ精霊として《セレクトライズ》に認識させる目的がある」
「そう……無駄に性能差が生まれるだけの《ソウルギア》を発動させたままそいつらと連携しようとしていたのは引き金を引けるようにしていたって事なのね」
「まっ、そんな所だな。4種族の因子の開花に伴って《ソウルギア》の性質も多少変化してオレへの恩恵も修正されたからな。それはそれで利用する価値はあると思った。単純な個人としての性能強化はもちろん、フレイたちの性能を引き上げるための動力として併用可能な力としてのな」
アウロラを驚かせたヒロムが仕掛けたもの、《セレクトライズ》に対しての覚醒を促したという彼の発想と行動の結果が先程の2人の精霊の力だとするヒロムの解説、そしてそこに要として関係性をもたらす《ソウルギア》の存在を知らされるアウロラ。
どこまでを狙っていたかは定かでは無いがヒロムの用意していた『手札』の1枚は相手を驚かせるだけの成果を披露するだけでなくそのその力の存在の大きさを見せつけられたアウロラ。
優位に立っていたつもりが驚かされる一方の状況の中にあるアウロラに対してヒロムほ咳払いをすると敵に向けてある話を語り始めた。
「そろそろ解明するとするか……オマエの正体、オレがオマエを魔女と呼ぶ理由をな」
「私の正体?」
「オレがオマエを見ても大して驚かなかった理由でもあるな。その辺をハッキリさせておかないと後ろで心配そうに見てるユリナたちが安心出来ないし、多少なりは残ってるオマエへの感情も消してやりたいからな」
「……そういえばさっきも色々言ってたわね。それで、どこまで気づいてるのよ?」
「結論を言うならオマエを悪意に染めたっていうクロムはオマエに利用された被害者、サウザンを堕天へ陥れたのはオマエ、アインが悪意に触れるよう仕向けたのもオマエ……て事くらいだな。あとは葉王の親友だったハートを追い詰めた織田信長を悪意の化身に変えたのもオマエだろうって事、そして……オレの精神世界の中で現れた歴代の精霊の王を名乗ってたコバルトやらホワイトやらの意識がオマエの仕込みだろうって事くらいだな」
「……はっ、何よそれ。ほとんど見抜いてんじゃない」
「否定しないんだな。クロムの件は肯定するにしても始まりの存在がいた時代の事を否定しないのは意外だった」
「否定して何になるの?アナタの精霊として宿っていた時期がある私がアナタのカンの良さを知らないとでも思ったのかしら?」
「そのカンの良さを把握しておきながら油断して格下扱いしてたフレイたちに追い詰められるなんて……笑えるな」
「笑いたければ笑えばいいわ。ただ、アナタがどれだけ苦労して答えに辿り着こうと関係ない事、私の事なんて……
「悪意に堕ちるという概念を生み出した最悪の存在……現代において精霊の存在の認知が浅かった原因、それがオマエだろアウロラ」
真相に辿り着くための話を進めようとするヒロムが自らが気づいた過去の出来事とアウロラの関係がある要素を挙げていく中でそれについて敵はひていしない。否定してもヒロムを相手にする以上は意味が無いと語るアウロラだったが、そんな敵にヒロムはこの話を聞いている者全員がその考えに至る事がない衝撃の内容を口にする。
ヒロムのために呪具使いを相手にするガイたちも戦いの中でその内容に驚かされ、そしてユリナたちも彼の言葉に驚きを隠せなかった。
何よりも……
ヒロムの明かした衝撃の内容を切り出されたアウロラは禍々しい闇を纏い宙を優雅に舞いながら笑い始めた。
「ハハハハハハハ!!あ〜、本当にアナタはスゴいわねぇ……嬉しいわぁ♪そんなアナタをこの手でグチャグチャに出来るなんて、昂るわ!!」
「ようやく本性出したかクソ魔女」
「あー……最高よ♪こんな感覚はシャリオに追い詰められたあの日以来、だから久しぶりに名乗るわぁ……私の名を、『堕滅の精霊』のアウロラを!!」




