1042話 魔女劇場開戦
悲劇など今の今のヒロムには何の影響も与えない過去の出来事の1つでしか無かった。
悪意の象徴と言えるだろう禍々しい闇を纏うアウロラを信頼する精霊・フレイとラミアと協力して倒すために構えるヒロム。
信頼する精霊と共に悲劇を演出した敵を倒そうとする彼のやる気を理解し、その上で彼らの全てを壊し倒し終わらせようと考えるアウロラは闇を纏いながら彼に迫ろうとゆっくりと動き始めた。
が、アウロラが動き出したと同時に彼女の出現のきっかけとなった門を呼び出した灰斗が進路を塞ぐように立ち、進路を妨げられるアウロラは小さくため息をつくと優しく微笑みながら灰斗に告げる。
「どきなさい、灰斗。アナタの役目は一旦終わりよ」
「待ってくれよ。覇王を倒すのはオレだ」
「我儘は困るわ灰斗。私がここに来た時点でアナタの役目は一旦終わりの予定だったはずよ?」
「気が変わった。あの覇王に好き放題されたまま引き下がるなんて出来ない……どうせなら一矢報いてアンタに繋げたい」
「ダメよ灰斗。アナタの役目は私をここに呼ぶための『座標』とあの男の潜在能力の『測定』だけじゃないのだから。それに、私たちの……とくにアナタに呪具を与えた『あの方』の考えに背くことになるわよ?」
「あの方には悪いが譲れないものが出来た。罰なら受けるからもう一度チャンスを……
「そのチャンスは追々与えるから待ってなさい灰斗。アナタにはまだ重要な役割があるんだから」
何やら不満があるらしい灰斗を宥め諭そうと優しく語りかけるアウロラ。敵2人の言葉の節々には気になる要素が聞き受けられるが、そんな事はどうでもよかった。
蒼炎を身に纏い、《煌翼甲》の鞘を6枚の翼として背面に展開したガイは《折神》による一閃を敵に向けて放って無駄な会話をする敵を滅しようとした。
ガイが一閃を放った直後、彼の攻撃に気づいた灰斗はアウロラを守るように立ち構えるとヒロムには到底及ばなかった《ソウルギア》の力を高めながら迎撃しようとした。が、そんな灰斗の行動を邪魔するようにアウロラは静かに彼の前へと移動を終えると禍々しい闇を纏わせた右手をかざすだけでガイの放った一閃を消滅させてしまう。
「まだ話が終わっていないのにせっかちなのね、天霊の王。焦らなくてもそこの男を倒した後にアナタも倒してあげるわよ」
「……随分と余裕なんだな。オマエにとってこの状況は想定の範疇って事か?」
「ええ、もちろん。強いて言うなら私を思い描いた通りにそこの男が力に飲まれていない事くらいかしらね」
「ヒロムが?どういう……
「考えるだけ無駄だろ」
アウロラの言葉の意味を知るために聞き返そうとするガイのその言葉を遮るように言葉を発したヒロムは白銀の稲妻を纏いながら敵を睨み、ヒロムに睨まれるアウロラはどこか嬉しそうに笑みを浮かべながらヒロムを煽るように話し始めた。
「アナタも天霊の王と同じでせっかちなのかしら?少し離れてる間に辛抱が足りなくなったの?そういうの、大事な子たちに嫌がられるわよ?」
「オマエみたいな敵を野放しにして苦戦する方が嫌われる。つうか、人間でもないオマエが偉そうに人間について語るな。語るなら他人を不幸にしたいオマエの自己満足のための悲劇だけ騙ってろ」
「はぁ、冷たいわね。何?私について悲しんでくれたアレは嘘だったの?」
「過去は過去……オマエがそっち側じゃなかったら今も心の悲痛として残っていたが、今となってはそんな事もあったな程度の過ぎ去りし事象でしかない」
「そう、案外アナタは冷酷なのね」
「敵に情けをかけるような優しさは持ち合わせていない。オレの良心を利用しようなんて思うな」
「良心とかそんなのは期待していないわ。まぁ……アナタは存在に利用価値がある事は認めてあげるけど、ね」
アウロラの煽りを当たり前のようにあしらうヒロム。敵として対峙する彼女の言葉に当然の如く冷たく言い返すヒロムの言葉に対してアウロラは何やら含みのある言い方で返すと不吉な笑みを浮かべ始める。
何かあるのは間違いない、彼女の不吉な笑みを見たからこそ断言出来ると考えたガイは早々に敵を仕留めようと考えるが、そんなガイの考えを読んだであろうヒロムは首を鳴らすと彼に1つの依頼を持ち掛けた。
「ガイ、急で悪いんだがあのクソロン毛の相手を頼んでいいか?」
「決着をつけたいんだろ?分かってる、それにあの男の方も傍観に徹する気は無いらしいし、動くなら間違いなくヒロムの方へ行くはずだからな」
「任せていいんだな?」
「無駄な確認だな。その代わり……しっかり決着つけてユリナたちを安心させろよ」
「はっ……言われるまでもねぇ!!」
アウロラとの決着をつけるために邪魔になるだろう灰斗の相手を頼まれたガイは快諾した。そして彼はヒロムにケジメをつけてユリナたちを安心させろと要求し、最初からそのつもりのヒロムは強く返すとフレイ、ラミアと共に駆け出す。
ヒロムが動き出した、これに対して灰斗だけでなく雅蓮と雅麗も彼を倒そうと動きを見せようとする。
「やっぱオマエらも来るか……!!」
灰斗の動きは予測通り、だからこそガイを頼ったヒロム。しかし、雅蓮と雅麗まで動く所までを含めてはガイに頼っていない。こうなるとヒロムが自らで対応するしかない、彼はそう考えていた。
だが……
ヒロムが呪具使いの姉妹の対処について思考しているのを察知したかのように水流の矢がいくつも飛んできて雅麗に襲いかかり進行を妨害し、さらに紫色の炎と青い風からなる一撃が雅蓮に迫り彼女の前で炸裂してみせる。
「「!?」」
水流の矢が飛んでくると雅麗は烈風と闇を纏いながら躱して後方へ軽く跳んで立て直し、雅蓮も紫色の炎と青い風からなる一撃の炸裂による衝撃を避けるべく大きく跳ぶとヒロムから大きく離れた位置へ着地し構え直す事で姉妹揃って無傷で事なきを得てみせた。
が、この姉妹の回避行動はヒロムへの接近を阻止し、姉妹の妨害を実行したとされるノアルとタクトはそれぞれが妨害の一撃を放った敵へ向けて駆け出す。さらに、彼らのこの動きに乗じるようにガイは身に纏う蒼炎の力を高め加速すると灰斗に接近して敵をヒロムとアウロラの戦いから遠ざけるべく勢いそのままで蹴り飛ばしてみせた。
そして、彼らは……
「ここは任せてくれヒロム!!」
「行ってこいよ、天才!!」
「ヒロム……行け!!」
ノアル、タクト、そしてガイが切り開いた決着を付けるべき敵への道筋の前に立つヒロムを後押しする3人の言葉。彼らの言葉を受け止めたヒロムは目を閉じ静かに息を吐く中でアウロラを宿していたかつての出来事を思い返していた。そして同時にヒロムの中で思い返される彼女との『思い出』とも言える出来事の全てが彼の中で砕け散っていくとヒロムは目を見開き白銀の稲妻を強く纏うとフレイ、ラミアと共に敵へ向けて駆け出した。
決着をつけるべくやる気になるヒロム。彼が精霊と共に迫ってくる事を視認しているアウロラも彼と同じ考えなのか迎撃しようと禍々しい闇の力を高め始める。
「決着をつけるぞ……アウロラ!!」
「アナタがどれだけ抗っても私には敵わない。私の前に跪き……絶望しなさい!!」
「絶望はしない……オレがオレである限り!!」




