1041話 悪意纏う悲劇を欺く魔女
《ソウルギア》を発動して敵を完膚なきまでに追い詰める流れを掴んでいたはずのヒロム。
だが一度抱いた違和感が綻びとなり、その綻びを待ち侘びていた灰斗が呪具の力を発動させ、敵の発動した呪具が闇と共に巨大な門を出現させる。出現した門が開いたその時、その開いた門の先からヒロムにとって……いや、ヒロムやガイたちにとっては信じられない者がその姿を現した。
「オマエ、は……!?」
「どうして……!?だって……」
「あの時、アイツは……!?」
ヒロムを始め、ガイとノアルは驚愕と困惑、動揺を隠せず動転してしまう。何よりヒロムたちのその反応の理由を知るユリナたちも驚きと困惑に襲われていた。
「ひ、ヒロムくん!!」
「待ってくださいユリナ!!気持ちは分かりますが危険です!!」
ヒロムを想い慕い続けるからこそ彼の心情を理解出来るユリナは彼のもとへ向かいたくて仕方なかったが、危険しかない戦いの場に向かおうとする可能性がある彼女をフレイは身を呈して止める。
フレイに行動を止められるも彼を心配する気持ちは止められないユリナがヒロムを想うがあまり辛そうな顔を見せる中でフレイは事の真相を確かめるべく門より現れた人物に問い始める。
「何故アナタがいるのです!?それに……何故アナタが敵の力と共に現れたのです!?」
「……あら、この状況で宿主のために働くなんて立派ね。そこは変わらないみたいねフレイ」
「質問に答えなさい!!」
「答える必要ある?」
「答える気が無いなら……
「無理にでも答えさせるだけよ!!」
フレイの問いを答える価値があるのかと聞き返す門より現れた人物に何が何でも答えさせるつもりのフレイの言葉を奪うように強く言い放ちながら精霊・ラミアが現れ、現れた彼女は紫色の刀を構えると斬撃を飛ばして門より現れた者を仕留めようとした。
が、ラミアが飛ばした斬撃を門より現れた者は指2本で当たり前のように弾いた上で消滅させてしまう。ラミアの飛ばした斬撃を当たり前のように消した敵は不敵に笑っており、敵はヒロムの方を見ると嬉々とした表情で話し始めた。
「アナタも頑張るわよね、本当に。精霊の王としての自覚?それとも1人の人間としての責任感?それとも、もしかして……慕ってくれてる子たちの期待に応えるためかしら?理由は何でもいいのだけど、アナタが無駄に頑張る姿は見てて面白かったわよ」
「……」
「あら、言い返す気にもならない?楽しみたいのに残念ね」
ヒロムを馬鹿にするような言葉、それに対してヒロムが反論することもなく無反応を通すと残念そうにため息をつく敵。門より現れた者、ただ1人の出現で空気も戦いの流れも変わろうとしている。
この異常な状態を何とかするべくガイは……
《煌翼甲》の6枚の翼型の鞘を出現させて《折神》を抜刀すると敵に切っ先を向け構えて戦いに介入しようとした。
「あら……天霊の王、何か用かしら?」
「オレには興味無しってか?生憎、オマエがヒロムの邪魔をするって言うなら止めるしかないんでな……ここで斬らせてもらう」
「やめなさいよ、冗談は。アナタ程度で私を斬れるとでも?ナメられたものね……アナタは精霊の王の彼より弱い、そんなアナタに私が負けるはずないのよ」
「敵う敵わないは関係ない。オマエの存在と行動がヒロムにとっての害となるのならオレは排除するための力になる。オマエが強かろうと引き下がる気はない」
「あー、お得意の友情ごっこ?そんなもの、この世界に満ちる悪意の前では綺麗事でしかないわ」
「綺麗事だとしても構わない。オレは……
「勝手に盛り上がんなよガイ……はぁ、せっかく好きに話させてたのが台無しじゃねぇか」
門より現れた者に対してガイがやる気を見せ、敵の言葉に対しても真剣な表情で言葉を返していた……のだが、そのガイの言葉を止めるように遮ったヒロムはため息をつくとガッカリした反応を見せる。
ヒロムの反応、彼の今の反応が理解出来ないガイは唖然としてしまい、それはユリナたちも何事なのかと言葉を失う事だった。
当然、それは敵も同じだった。
「……何その反応?私、そんなの求めてないわよ?」
「だろうな。ったく……そこのロン毛共の言ってた『あの方』がオマエなのか別のやつなのかを探りたくてオマエが求めてそうな反応してやっただけだ」
「最初から演技だった、と?」
「そういう事だ。最高のタイミングで出てきたつもりが下手打ったな……アウロラ」
ヒロムの予想外の反応に門より現れた者……否、彼に『アウロラ』と呼ばれた敵は不敵に笑うと闇を纏い、そして敵は……門より現れた女はヒロムを睨むと舌打ちをする。
禍々しい角を2本生やした黒い髪、黒衣のドレスを身に纏い骸骨の意匠を各所に施した女。ヒロムが『アウロラ』と呼ばれたその女……かつて闇の中に囚われていたところをヒロムに救われながらも白神導一との戦いの中で消滅したと思われていた精霊・アウロラ張本人が新たな装いで現れた事についてヒロムは驚いたりしていたわけではなくその『フリ』をしていたと言う。が、アウロラは信じなかった。
「ありえない、アナタはあの時確かに私の喪失で心に傷を負ったはずよ。それなのに私が再び現れた事に何も感じず冷静でいられるなんておかしいわ」
「別におかしくねぇよ。たしかにオマエが消えた後、それなりに悲しみを感じて折れかけた。けど……いつまでも目を逸らして立ち止まってられねぇ。守るべきもの、頼るべき仲間の前では強い覇王として振る舞い道標になってやらねぇといけねぇ。だからオマエの事をいちいち気にするのをやめた」
「そんなの、口では何とでも言える。現に……
「オマエの消滅を経てオレも精神的に成長出来たって事だ。おかげで……これまでの事を振り返って色んな事に気づけたからな」
「気づけた?」
「あぁ、色々な。何故導一がレプリカを通してオレの力を取り込もうとしたのか、何故蓮夜はサウザンとしての顔を隠しオレたちを欺き続けられたのか、何故蓮夜は導一を簡単に闇に落とせたのか……そして、何故オマエは宿主の悪意に飲まれた被害者の演技をしていたのか」
「……そう、そうなのね。本当に……オマエは鬱陶しい男だ!!」
ヒロムの言葉、彼が気づけたといういくつかの事柄とアウロラの真実が語られた直後だった。ヒロムたちの知るアウロラとは全く異なる一面を見せるが如く強い口調で言葉を吐く彼女は禍々しい闇をその身に強く纏いながらヒロムの睨む。
敵が殺る気になる、その一方でガイはヒロムの言葉が理解出来ずさらに困惑してしまい、困惑する彼らに向けてヒロムは今言える確かな事を伝えてみせた。
「過去に接点があろうと忘れろ。アイツはその過去のアウロラとは別人……この世界を悪意に染める敵だ。迷わず構えろ、迷わず信じ続けろ……オマエらが不安から抜け出せないならオレだけを見てろ!!」
「ヒロム……!! 」
「ガイ、オレの後ろ……任せるぞ」
「っ……!!あぁ、任されてやる!!」
「……さて、そろそろ1人で頑張るのも疲れてきた。流石に手を借りたいな……頼れる家族の手を」
「マスター……!!」
「……いくわよ、フレイ!!」
「ええ……はい!!」
これまでと変わらず後ろをガイに任せる旨を伝えたヒロム。彼は一息つくように優しく語るとフレイとラミアを見ながら言葉を伝え、彼の言葉を聞き取った2人の精霊は彼のもとへ駆けつけ武器を構えようとする。
「束になろうと無駄だと教えてやるわ……覇王!!」
「束になる?違うわ……これは単なる結束なんかじゃない!!」
「これはアナタが居た頃にはなかった……いいえ、私たちだからこそあるもの!!」
「いくぞアウロラ……こっから先のオレたちは、簡単には止まらねぇぞ!!」




