104話 先生
「オレが鍛えてやる」
弟子入りしろ。鍛えてやる。そう言ったカズキ。その言葉を受けたヒロムは返事を返そうとしないが、話を聞いていたユリナたちは驚きしかなった。
「ヒロムくん、《一条》の当主の人の弟子だったの?」
「……半年前に数日だけな」
「なんでやめたんですか?」
「数日だけって話だったからだよ」
「何で今まで……」
「それよりも。オレが弟子入りして鍛えられなきゃまずいのか?」
ユリナたちの質問攻めを強引に躱すようにヒロムはカズキに問い、問われたカズキはヒロムに話せる範囲で話していく。
「大淵麿肥子の選定した能力者の1人のアーサー・アスタリアは英国が国最強と豪語するほどの逸材だ。類稀な剣術、卓越した身のこなし、そして高い魔力量……どれを取ってもここにいるアリスや葉王に匹敵するレベルの能力者だ。本来ならば自衛隊員の戦闘訓練の協力のために遠路遥々来て指導者の役を買ってるアーサー・アスタリアを参加させるのは国内の問題に国外の人間を巻き込んだとして問題になりかねない。それを分かりながら大淵麿肥子は話を進め、アーサー・アスタリアはそれを受けた」
「ルール違反なら異議を唱えるのは出来ないのですか?」
「それをするとこちらが不利になるんだ咲姫サクラ。
大淵麿肥子はこちらが異議を立てることを想定した上でアーサー・アスタリアを選定している。もし借りにこちらがアーサー・アスタリアを参加させるのはルール違反だと異議を唱えれば姫神ヒロムがアーサー・アスタリアに負けるのを避けようとしてるなどとデタラメを撒かれる可能性がある」
「では……あえてヒロムの苦戦する相手をルール違反ギリギリで雇ってこちらの発言権を潰しているということなのですね?」
「そうなるな。だからこそオレは姫神ヒロムをもう一度オレの弟子にして鍛えてアーサー・アスタリアに潰させたい。この決闘でアーサー・アスタリアを姫神ヒロムが倒して起きる国際問題は選定した側の責任、こちらには何の非もなく終わるからな」
なるほど、とカズキの話を理解したヒロムはソファーにもたれかかって深く座ると深呼吸し、しばらく思考を働かせるとカズキに伝えた。
「……弟子になれってんならなってやる」
「そうか。なら……」
「ただし……弟子にして鍛え直すってのは決闘の3日前からの話だ。それまではオレのやるべき事を優先させてもらう」
「おい、姫神。カズキの話を……」
「悪いがアリスちゃん、そのアーサー・アスタリアって野郎と戦うのはオレだ。そのオレがそうすると決めたんだからアンタは黙ってろ」
「オマエ、オレのことをちゃん付けで……」
「いいのか、姫神ヒロム?余裕があるのか知らないがそれでオマエは……」
構わない、とヒロムはカズキの言葉を最後まで聞かずに答えると続けて自分の意思を伝えていく。
「アンタの今日の話で基礎知識を改めて身につけれた。そして霊装の意志、葉王の妹と葉王の守れなかった友人の思いがオレに宿ってるならオレはまずこの指輪に込められてるものを理解しなければならない。理解してオレが向かう先を明確にした上で……オレはアンタに今の自分の全てをぶつけて実力を確かめたいんだ」
「……ッ!!
なるほど……そういう考えか。理解した、ならば決闘の3日前から弟子としてその腕前を見てやる」
「カズキ!?これは遊びじゃ……」
「アリス、落ち着け。姫神ヒロムの目を見ればオマエも分かるはずだ。コイツは本気だ。本気でアーサー・アスタリアを倒せる強さを身につけるために自分の意見を言っているんだ。師事する側としてやるべき事はその思いを汲み取り尊重することだ」
「だが……」
「それに姫神ヒロムの言う通り、やるからにはある程度自分の力で完成させてから行うのは最適なやり方かもしれない。吉と出るか凶と出るかは分からないにしてもやる価値はある」
「……カズキが言うならオレは止めねぇが、後悔だけはするなよ?」
するつもりは無い、とハッキリとアリスに言うとカズキはヒロムに告げた。
「やるからには全力……オマエが血反吐を吐こうがオレは手を止めんぞ?」
「上等だ。いつまでも影から守られる立場でいるのはごめんだ。やるからには本気でアンタの度肝を抜いてやるよ」
******
その頃……
都内のとあるホテル
そのホテルの一室にはヒロムの《センチネル・ガーディアン》の立場を否定しようとする大淵麿肥子がおり、この男の前には金髪の青年がいた。
「いやぁ、引き受けてくれてありがとう!!
キミの存在は我々に希望をもたらしてくれるよ、アーサーくん!!」
「……オレは大金を出してまで頭下げるアンタの頼みを聞き受けただけ。アンタの言う姫神ヒロムとかいうのがどんだけ強いかは知らないが、《聖王》の名を授かるからにはオレは最強である必要があるからそいつを倒したいだけだ」
「いやいや、それで十分だよ!!それで報酬の額は……」
「オレは金に興味はない。金を払いたいなら賞金稼ぎにでも渡しとけ」
じゃあな、と青年……アーサー・アスタリアは冷たく言うと部屋を出ていこうとする。部屋を出ようとするアーサーを大淵麿肥子は慌てて止めようとするが、アーサーは部屋の扉を開けると大淵麿肥子に冷たく告げた。
「勘違いするなよ、オッサン。オレが興味あるのは姫神ヒロムってガキ1人だ。ガキに守られるなんてクソ甘なこの国の防衛戦力の力を試したいからオレは引き受けただけ、他のことをオレに期待するならそんな考えは捨てろ」
アーサーは冷たく告げた後すぐに出ていき扉を閉め、扉が閉められると大淵麿肥子はアーサーの言葉が気に食わなかったのか眉間に皺を寄せながら拳を握る。
するとアーサーと入れ違うように部屋に男が入ってくる。黒いスーツに身を包み、スーツの上から白衣を羽織った黒髮の眼鏡の男。その男が部屋に来ると大淵麿肥子は慌てて笑顔になり手の力を抜くと男に歩み寄る。
「先生!!よく来てくださいました!!
例の件、どうなりました?」
「……ご心配なく、大臣。
アナタが私のアドバイス通りにアーサー・アスタリアに交渉して引き受けてもらえたからこそ私はアナタのために裏方として全力を尽くせるのですよ」
「じゃあ……」
「例の依頼されていた件は無事に手配出来ました。
あとは決闘当日までにアナタの手に届けばアナタの采配による勝率は100に近づくでしょう」
「有難いかぎりですよ先生。
アナタが私の前に現れ私の計画に賛同してくださり、私の計画のために裏方として色々手引きしてくださってるおかげでこちらの準備は順調そのものですよ」
「そうですか。それは嬉しい限りですよ。
それより……私のお願いした件はどうなっています?」
ご心配なく、と大淵麿肥子は先生と呼ぶ男の言葉に返すとある資料を手渡して彼に説明していく。
「アナタのお願いを快く思わないものもいますが、私はアナタの考えに賛成です。悪を断つために悪の心理を知る……アナタの意見は一理あるものです。ですのでアナタのお望み通りあの男に面会できるように手配しました」
「ありがとうございます、大臣」
「先生のことは信頼しております。決闘当日に《センチネル・ガーディアン》などというものを潰すために何卒お力をお貸しください」
構いませんよ、と男は笑顔で言うと続けて大淵麿肥子に伝えた。
「アナタは……私が怖くありませんか?」
「怖い?とんでもありません!!
私はアナタを信頼しております!!」
「そうでしたか……私は一部からはマッドサイエンティストなどと呼ばれてるんですがね。アナタが信頼してくれているなら……私はアナタに尽力しますよ、大臣」




