1039話 不安生む語弊
目の前で起きた出来事だけでも理解が追いつかない。
なのにそこへ追い打ちをかけるように明かされたヒロムの《ソウルギア》の恐るべき真実。
それらを見聞きさせられていたガイ、ノアル、タクト、シャウロンは驚きのせいか黙ってしまい、ケンゴとハルキも4人ほどの理解は無いのだろうが見聞きした現実に対して驚愕していた。
彼らが驚こうが何だろうと関係なくヒロムが優勢だと認識しているアキナは観戦者となっている彼らが何故驚いているのか分からず空気も読まずに尋ねる他なかった。
「ねぇ、どうしたのよ?あのロン毛が《ソウルギア》使えたのには驚かされたけどヒロムが勝ってるわよ?」
「……そうだな」
「え?元気無くない、ガイ?」
「……アキナ、1つ聞くがオマエの目にはどう映ってる?」
「どうって……《ソウルギア》を発動させた敵に対してヒロムが本物の《ソウルギア》を披露して返り討ちにしてるんでしょ?」
どう映っているのか、ガイからヒロムと灰斗の戦いの現状がどのように見えているのかを問われたアキナはありのままで答えた。
そのアキナの答えを聞いたガイは静かに頷くと彼女が……いや、もしかしたらアキナと同じような感覚になっているかもしれない他のものたちにも分かるように自分たちが驚いていた『事実』について明かし始めた。
「ヒロムの《ソウルギア》……ヒロムが話していた内容が事実ならアイツの《ソウルギア》は発動すれば確定で力が2倍か3倍まで増幅される」
「聞こえてたわよ。だから現にヒロムの力が増して敵を返り討ちにしてんでしょ?」
「単なる2倍か3倍への増幅ならオレたちは驚かなかったさ。ヒロムが言ってたようにゼロが改良してオレやソラに教えた《ソウルギア》とイクトとナギトが自力で会得に至った《ソウルギア》と中身が変わらない事になるからな。ただ……問題はその増幅が1度で終わっていない事の方だ」
「1度で終わってないって何よ?」
「ヒロムの話が本当ならアイツの《ソウルギア》は発動と同時に2倍か3倍の増幅を引き起こした後に霊装の数だけ同じ増幅をさらに繰り返し引き起こす事になる。霊装が1つの状態で2倍か3倍だとした時、霊装が2つなら4倍~9倍、3つなら8倍~27倍……」
「は!?ま、待って!?ヒロムの霊装ってブレスレットと指輪とチョーカーと首飾りの4つだから……最低でも16倍、最大で81倍になるっての!?」
「単純な計算ならそうなる。けど、問題はそこだけじゃない」
「ま、まだあんの!?」
ガイの解説からヒロムの《ソウルギア》の増幅の倍率の値が異常な数値を算出させる事を思い知らされ驚きを隠せないアキナ。話を聞いているサクラたちも理解出来ているらしく同じように驚きを見せるが、ガイはまだ問題があるとして更なる事実を伝えた。
「ヒロムの霊装は4つだが、この霊装のうちの2つ……《レディアント》と《ユナイト》は左右一対の霊装だ」
「……って何よ、そんなの知ってるわよ。名前として挙げるなら4つになるけど実質的な数は6個なん、だか……ら……って嘘よね?」
「……そのまさかだ。アキナの考えた通り、今のヒロムの霊装を『4種類』ではなく左右一対を別個体と仮定しての『6個』として認識するなら増幅の倍率は変動する。仮定したとしても最低で64倍、最大で……729倍になる事になる」
「う、嘘……よね?」
「あくまでヒロムの話した内容の全てが事実だった場合の例え話だ。2倍か3倍ってのはあくまで敵を煽って現実を叩きつけるための方便だろうけど、霊装の数だけ倍率が乗算されるって要素だけは間違いないはずだ……」
ヒロムの霊装、名前として挙げれば4種類で済むが実際の数として数えた時に左右一対の霊装2種を個別でカウントするなら大きく変動するとして最低の値と最大の際の値を伝えたガイ。
流石の数値にアキナや他のものが驚きながらも信じられずにいるとガイはあくまでヒロムの話全てが事実である際の例え話だと伝える。が、目の前で敵を圧倒してみせたヒロムの強さを目の当たりにした後ではガイの言葉など安心に至る要素にもならない。
ガイの話が途絶えたその時、ユリナは恐る恐る……体を震わせながらヒロムについて彼に尋ねようとした。
「ねぇ、ガイ……今の話、ヒロムくんの体は大丈夫なの……?」
「ユリナ……」
「さっき、ヒロムくんは魂がどうって言ってたけど……大丈夫だよね……?」
「それは……」
(断言出来ないのに安易に大丈夫とは言えない。けど……トウマへの復讐を目的にしていた1年前のヒロムが能力を持たぬ部分を埋めるためにフレイたちとの繋がりを深めようと自分の魂を3分の2まで精霊のものへ変異させていた状態をユリナは知っている。もし今のアレがあの時のと同程度かそれ以上に深刻なものだったら……)
「大丈夫ですよユリナ」
ユリナの抱く不安、それを取り除きたい一方で不確定要素を無視した断言は無責任でしかないと迷いを抱いてしまうガイ。そのガイの手助けをするかのようにフレイがユリナの傍に現れて彼女に優しく語り掛けた。
「マスターのあの《ソウルギア》はガイの話したような数値を出す程の強化は行えません。先程の発言はただのハッタリですから安心してください」
「ハッタリ……てことは嘘なの?」
「ええ、そうです。流石のマスターもユリナを悲しませた過去を忘れていませんから自分を危険に晒す事はしませんから安心してください」
「う、うん……!!」
ヒロムの発言はただのハッタリであると語った上でガイの推測したような事にはならないとフレイは伝えた上でかつての過ちを忘れていないが故に悲しませる事はしないとユリナに伝える。
フレイからユリナに伝えられた言葉は聞いていたエレナたちの不安をも取り払ってみせるが、不安を掻き立てるこの話の流れをつくるきっかけになってしまったアキナはまだ何か気になる事があるような顔をしていた。
そのアキナの様子に気づいたフレイは咳払いをすると彼女やユリナたち……そしてガイたちに改めてヒロムの《ソウルギア》の本質を語り明かした。
「言葉にするのは少々難しい内容なので説明の不足はあると思いますが……マスターの《ソウルギア》は《レディアント》、《ユナイト》、《レゾナンス》、《シンフォニア》の4種の霊装を用いることでマスターの力となっている白銀の稲妻の力を高純度高濃度のエネルギーに変化させ、マスターはそれを体内で駆け巡らせ発動中は常に循環させています。加速や移動、攻撃、防御……マスターの起こす行動に対してマスター自身が必要に応じそのエネルギーを急激に増幅させる事で爆発的な出力強化を引き起こして先程のような圧倒的な強さを発揮しています」
「そ、その急激な増幅って……どのくらいなのよ?」
「軽く見積もって10倍くらいです」
「「10倍!?」」
「とは言っても常に10倍ではありません。必要なタイミングで10倍まで引き上げさせる事が可能、というだけですからね」
「例えば、だけど……全力出してる状態のヒロムが自分のタイミングでその全力の10倍の力を出して戦えるって事なのよね……?」
「次元が違い過ぎるな……」
フレイの説明、彼女は前置きとして『言葉にするのは難しい』、『説明に不足があるかもしれない』とした上で語ったが、語られた内容にアキナとタクトは愕然としていた。
2人だけではない、他のものたちも同じような反応を見せていた。
そんな皆の反応を気にする事の無いフレイは戦闘の最中であるヒロムに視線を向けると続けて語った。
「どれだけ強くなっても……変わらないんです。マスターはマスター、そして……マスターは1人で突き進もうとするのですから」
ヒロムに向けられるフレイの視線、彼女がヒロムに向ける視線は何やら悲しさを感じ取れた。そのフレイの視線に秘められた悲しさに気づいたトウカは……
「あっ、もしかして……」
何かに気づいたトウカ。果たして彼女は……




