1037話 似て非なるもの
灰斗が《ソウルギア》を発動させた。目の前の呪具使いがヒロムの技を使用したという事実にガイたちが驚く中、技を利用されるヒロムは呑気に敵を見ていた。
ガイたちの反応は予想通り、一方でヒロムの反応は予想外だったらしい灰斗は不満がある顔を見せるとヒロムへの不満をこぼした。
「悔しがれって何?ふざけてんのか?オレは今オマエが考案した《ソウルギア》を発動してんだ。『どうしてオマエがそれを!?』とか『どうやってオマエが会得した!?』みたいな反応してくれねぇのか?」
「別に。オレが編み出したって点は認めてはいるがガイやソラにイクト、ナギトも使えるようになってんだから敵側に使える人間が出てきても不思議はねぇよ」
「はぁ!?本気で言ってんのか!?他の能力者の技を発動出来るようになるってのは……
「四条貴虎に使えるように調整されたんだろ?」
あまりにも度の越えたヒロムの無関心さに灰斗は驚くべきだと敵ながら諭そうとするが、ヒロムは敵が《ソウルギア》を発動出来たその要因を端的に突きつけた。
端的に……《世界王府》に属する人間の1人の存在があれば可能だろうと結論を出しているヒロム。彼ならばその結論にすぐ到達出来た。
四条貴虎、脱獄のために人造の肉体を用意し遠隔操作による機械作動に伴う魂の転移などという非人道的で現実離れも度が過ぎている事を成し遂げた強さと力に囚われた男。
ヒロムの持つ強さを自らも手に入れるために霊装を人為的に作り出し体内へ埋め込む事を行い、自らの願望のために堕ちる所まで堕ち、そして今も堕ちる事をやめないあの男ならばやりかねないとヒロムは考えていた。
「どうして、オマエが……!?」
「図星……つうか、やっぱオマエはその程度だな」
四条貴虎の名をヒロムが出した事で灰斗は自らがヒロムに求めていた反応を取ってしまい、灰斗の反応など予想するまでもなかったらしいヒロムは彼の安直さに辟易していた。
「オマエが『閃血』を持ってる可能性に気づいた時点でこの可能性も容易に予想出来ていた。どうせ呪具生成も四条貴虎が絡んでるだろうし、オレたちに特効性能ある組み合わせで構成したのはサウザンの野郎が絡んでるのも予想出来ていた。だからこそ……面倒で鬱陶しかった」
「鬱陶し……!?」
「とくに鬱陶しいと思ったのはオマエの態度だ。『閃血』の力程度で適応できると思ってるのもだが、その程度の力でオレを出し抜けるとか勘違いしてるのは余計に腹が立つ」
「はぁ?ふざけんな……形はどうであれオレはオマエが編み出した技を使ってんだぞ!!オマエの技を、オレが使っ……
「その《ソウルギア》はオレの《ソウルギア》とは違う」
「……は?」
敵の態度が鬱陶しく気に食わず腹立たしいと語るヒロムに何が何でも食いつこうとする灰斗は彼の気を引くために反論しようとした。
形式はどうあれ結果として《ソウルギア》を使えている事実がある旨を口にしようとした灰斗。その灰斗の言葉を消すように放ったヒロムの一言は灰斗の理解を遠ざけ思考させる事すら躊躇わせてしまう。
「は……え、何言っ……」
「言葉の通り、残念ながらその《ソウルギア》はオレの《ソウルギア》をベースにしたものじゃない。オマエが手に入れたその《ソウルギア》、ベースになってるのはガイたちが会得した技……要するにゼロがガイたちが会得出来るよう改良したものを参考にしてるんだよ」
「馬鹿言うな、同じ事だろ?形は何であれこの力は……
「なら聞くがオマエのそれは何段階目なんだ?」
「……は?」
せっかく《ソウルギア》を発動させたのに期待した反応もされず、挙句には戦闘を再開させる事もなく無駄に話を聞かされる灰斗はヒロムの言葉にただ聞き返す他なかった。
おそらく、本当に言葉の意味が分からないからなのだろうが、敵の反応を受けたヒロムは呆れたようにため息をつくと敵の使う《ソウルギア》と自らが編み出した《ソウルギア》の決定的な違いを語り始めた。
「オマエが今発動してる《ソウルギア》には段階は設けられていない。発動させてしまえば強化作用が常に機能してる状態だろうからな。けどオレのは違う。《ファーストライド》、《セカンドライド》、《サードライド》……段階を経て出力の解放率を高めさせる仕様になってんだよ」
「そんなもん、編み出した張本人の特権みたいな感じで雰囲気で付けてる名前だろ?その程度、後付けで……
「そう思うならやってみるか?オマエの使うその《ソウルギア》とオレの語る《ソウルギア》が同じかどうか……をな」
「面白ぇ……やってやるよ!!」
別物なのか同じなのか、それは試せば分かると煽ってみせたヒロム。その煽りの言葉に簡単に乗せられた灰斗は闇の力を高め自らの力をも高めさせると地を蹴り駆け出す。
駆け出した灰斗は先程までとは比べものにならないスピードを発揮してヒロムの背後へと素早く回り込むと攻撃を仕掛けようとするが、灰斗の動きを認識出来ているヒロムは白銀の稲妻を全身に纏うと敵の攻撃を簡単に躱してみせた。
攻撃を躱された灰斗は闇の力をさらに高めさせるとヒロムから反撃されないように拳の連撃を放ち、放たれる連撃は目にも止まらぬスピードでヒロムに襲いかかろうとする。
が、しかしだ。
灰斗の目にも止まらぬスピードで放たれる連撃に対してヒロムは迫り来る連撃と同程度のスピードと成ってその全てを躱してみせ、連撃を躱したヒロムは意趣返しと言わんばかりに灰斗の背後へ回り込んでみせた。
「なっ……
「そういうのは見飽きた」
ヒロムの動きと速さに驚きを見せる灰斗のその反応について『見飽きた』とヒロムは吐き捨てると拳撃を叩き込むとその力で殴り飛ばし、殴り飛ばされた灰斗は勢いよく倒れた。
殴り飛ばされ倒れた灰斗、だが敵はその勢いを逆手に取るように転がる事で流れるように立ち上がってみせ、立ち上がりに成功した灰斗は自身を殴り飛ばしたヒロムのもとへ迫ろうとした。
性懲りも無く攻めてくる灰斗。向かってくるなら迎え撃つ他ないヒロムが拳を構えようとすると灰斗は闇の力を劇的に高めさせるとヒロムが構えるよりも先に懐へ入り込むよう接近して一撃を放ってみせた。
「もらったぁぁぁあ!!」
ヒロムの行動より先に仕掛けた、流れに乗る絶好のチャンスを掴み取れた灰斗は拳に闇を強く纏わせた一撃をヒロムに叩き込み、灰斗の一撃が叩き込まれると拳が纏う闇は強く爆ぜてヒロムを吹き飛ばそうとした。
一撃が決まる、灰斗は勿論の事ながらガイやノアルもそう思っていた。そしてそれはヒロムの勝利を信じるユリナたちも敵の攻撃が決まってしまうと思わされるものだった。
「……見飽きたって言ったろが」
灰斗の攻撃が命中する瞬間を目の当たりにした全員がその一撃が決まると思う中でヒロムはそれを覆すように敵へ冷たく告げる。
ヒロムの言葉の意味が分からない灰斗が自らが一撃を叩き込んだ拳に視線を向けて確かめようとし、そして彼は自分の拳がヒロムに当たっておらず、爆ぜた闇もヒロムが纏っていた稲妻が阻む形で彼へのダメージにならずに終わっているのをめにしてしまう。
「なっ……!?」
手応えと確信があったはずの一撃が決まっていなかった。あまりに予想外過ぎる事に灰斗は思わず後ろへ大きく跳んでヒロムから離れ、距離を取るも理解が追いつかぬまま灰斗動揺しているとヒロムは……
「仕方ねぇ、見せてやるか……オマエには到達不可能な原点の領域を」
動揺する灰斗を追い詰めるように語るヒロム。そのヒロムの纏う白銀の稲妻が変化を起こそうとし、そして彼の赤い髪は一瞬で白銀に染まり纏う衣類までもが瞬間的に白へ変化を遂げる。
「な、何だ……それは……!?」
「せっかくだから見せてやるよ……本物の《ソウルギア》をな!!」




