1036話 覇王の裏を行け
雅蓮と雅麗を容易く吹き飛ばし、馬鹿の一つ覚えが如く灰斗に連撃を叩き込んだヒロム。
何の警戒もなく『閃血』で適応し耐える事が出来ると考えた灰斗が避けることも防ぐこともせずに全て受けた事でヒロムの本命打が炸裂した。
打撃との時間差で生じる衝撃、その衝撃に襲われた灰斗に一撃を叩き込み確実なダメージを与えたヒロム。
彼は敵の持つ力ではなく敵の人間性に注目して行動を起こしたと主張した。
「どうせオマエの事だ。オレの攻撃を受ければ耐性がつくとでも思ったんだろ?浅はかだよな、ホントに……クソブス低能女共もそうだが、詰めが甘い。経験と適応がノーリスクで実現可能とでも思ったなら胎児からやり直せ」
「何言ってる……!?この『閃血』は戦闘の中で学習して成長を促す力、だったらオマエの攻撃を受けて適応してオマエの攻撃手段を削るのは……
「愚策中の愚策、脳みそ置き忘れてきたのか?その適応するオマエら人間側の耐久性が成長しようが元々の性能が低けりゃ話にならねぇだろうが」
「……その言い方、要するにもう『閃血』を盾にしても怯むわけないって事か」
「最初から怯んでねぇだろ。どんだけ自己採点甘いんだよ」
「へ、へぇ……なら、仕方ないね。それならそれでやり方を……
「その判断が遅いんだよ鈍足」
戦いの中で経験を重ね成長を引き起こさせる『閃血』に頼る戦闘方法に固執していた灰斗はヒロムがその力を警戒する事もなく既に算段があると今になって理解したらしくやり方を変えようと考えた。
が、灰斗の思考がその域に達するための判断が遅すぎると冷たく告げたヒロムは敵の言葉を途切らせるように頭上に移動を終え、白銀の稲妻を纏った蹴りを叩き込んで灰斗を地に倒れさせる。
まだ言葉を言い終えてなかった灰斗は蹴りを受ける瞬間に認識するも蹴りを受けた事でそのダメージを受けながら倒れてしまい、倒れた灰斗に更なるダメージを与えようとヒロムは全身に白銀の稲妻を強く纏いながら追撃しようとした。
だが、ヒロムの追撃を敵が許すわけがなかった。
正確には追撃を許すわけが無いのではなく……
「「殺す!!」」
散々ヒロムに攻撃されて思い通りにいかず苦戦を強いられてばかりの雅蓮と雅麗が空中を駆けながらヒロムに挟撃を仕掛けようと迫り、鬼気迫る勢いで向かってくる姉妹を認識したヒロムは鬱陶しそうに舌打ちをした。
「クソ女共が……」
「これ以上バカにされてたまるか!!」
ヒロムへの怒りが抑えられない雅蓮は大鎌に闇を強く纏わせながら斬り掛かろうとし、雅蓮が攻撃してくるとヒロムは当たり前のように足裏に稲妻を集め足場代わりにした動作を混ぜたアクロバティックな動きで躱してみせた。
攻撃を躱された雅蓮。だが、彼女はここで終わるつもりなどなかった。
「呪具解放……!!『凶伐』!!」
雅蓮が叫ぶと彼女が纏う闇が瞬く間に雷のように変化し、雷のように闇が変化する中で雅蓮の顔の右半分に痣が浮かび上がっていく。
外観的な変化と闇の形状の変異、視覚から得られる情報だけで敵が何かしらの強化を行ったと判断可能な中でヒロムは白銀の稲妻を纏いながら敵の動きに対応出来るよう視界に雅蓮を捉えているだけで仕掛ける気配など見られなかった。
何も感じていないのか、それとも何かしら考えての行動なのかは分からない。
だが、雅蓮にとってヒロムの仕掛ける気配のない『何もしない』という行動の選択が自らへの侮辱と等しいものと捉えられていた。
「私を甘く見るのもいい加減にしろぉぉぉ!!」
ヒロムに見下されている、ナメられている事が気に入らない雅蓮は大鎌に雷のように変異した闇を強く纏わせた一撃を放つ事でヒロムを両断して自らの力を理解させようとした。
が、雅蓮が一撃を放とうと勢いよく大鎌を振った直後……
ヒロムは右手に紅い闇を稲妻と共に強く纏わせると雅蓮との間合いを詰めた上で自ら大鎌を掴みに手を伸ばし、そしてヒロムは2つの力を纏わせた右手で勢いよく振られる大鎌を掴み止めてしまう。
形状を変異させる闇を強く纏いながら勢いよく振られる大鎌を掴み止めるヒロム。ヒロムが軽く力を入れると大鎌が纏っていた闇は跡形もなく消えてしまう。
何が起きたのか理解出来ない雅蓮が反応する事も何も出来ずにいるとヒロムは大鎌を掴む手を離すと素早く回し蹴りを放って彼女を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた雅蓮が倒れるとヒロムは次に彼女と自分を挟撃しようと企て反対側から迫っていた雅麗を視界に捉えると白銀の稲妻と共に蒼い光を纏い始める。
「よくも雅蓮姉を……呪具解放!!『乱雀』!!」
ヒロムに迫る雅麗は姉の敵を取ろうと闇の力を強くさせると烈風と鎌鼬を纏い始め、さらに顔の左半分に痣を浮かび上がらせながら鉈に力を纏わせ連続斬りを放とうとした。
が、しかし……
「遅い」
雅麗が連続斬りを放とうと力を高める中でそれを『遅い』の一言で一蹴したヒロムは稲妻を纏いながら蒼い光の剣を装備した状態で彼女のそばを駆け抜け、ヒロムが駆け抜けた瞬間、雅麗の全身に数多の斬撃が襲いかかって彼女を負傷させていく。
「あぁぁぁぁあ!!」
ヒロムの刹那の攻撃を受け負傷した雅麗は姉同様に倒れ、ヒロムが姉妹を倒した一方で気づかれぬように立て直していた灰斗がヒロムから離れた位置に闇と共に現れると両拳の手甲に闇を強く纏わせ始める。
「覇王……ッ!!」
「いちいち呼ぶな鬱陶しい。次はオマエだクソザコ勘違いロン毛」
「はっ、勘違い?それはオマエだ覇王。そこまで言うならオレも本気になってやるよ……オレの持つ力でな!!」
「オマエの持つ力……?」
姉妹を倒したヒロムが次の標的として灰斗を狙いに定める中、これ以上彼の好きにさせる気の無くなった灰斗はついに本気を出そうとした。
呪具の力を使うのかと思われたが、『オレの持つ力』と発言した彼の言葉が気になったヒロムが無意識に聞き返すと灰斗はその『聞き返す』という反応が嬉しかったように笑みを浮かべる。
そして……
「躍動開始……ソウルギア、開動!!」
声高々に灰斗が叫ぶと闇は荒れ狂うが如く力を高め始め、闇が力を高める中で灰斗の全身に蛇にも見える紫色の痣が無数に浮かび上がっていく。
無数に浮かぶ痣、痣の浮上に加えるかのように灰斗の瞳が妖しく光り、次第に高まる闇の力は彼の周りの大気を震わすような異質な力を放ち始める。
「嘘だろ……!?」
「敵が《ソウルギア》を……!?」
「発動させたっていうのか!?」
灰斗が発動させた力に驚きを隠せないガイ、ノアル、タクト。彼らが驚くのも無理はない。ソウルギア、敵が声高々にそう発したその言葉を彼らはよく知っていたからだ。
何故なら灰斗が発動させた《ソウルギア》、その技を編み出したのはヒロムだからだ。
ヒロムが編み出した技、その技を敵が発動させた。
事実として目の前で起きている事にガイたちが驚く中、考案者兼使用者と言えるヒロムは……
呑気に欠伸をしていた。
「ふぁ〜……」
「おいおい、余裕かよ覇王。仮にも今のオレはオマエが編み出した技を纏っている状態だ。もっと驚いてくれよ覇王……そうでなきゃオレがこれを使う意味がないだろ?」
「あ〜……そうか、なら驚かれなかった事を悔しがれ」
灰斗が発動させた《ソウルギア》を前にしても欠伸をする余裕のあるヒロム。彼は今、何を考えているのか……




