1035話 round2
灰斗、雅蓮、雅麗。ヒロムを倒そうと構える呪具使いの3人を単身で相手にしようと殺る気になるヒロム。
ガイたちの加勢をあえて断り1人で戦う事にこだわるその裏には万が一の備えとして最悪の事態が起きれば彼らを信頼し全て託すという意思があった。
ヒロムの考えを聞かされ理解したガイたちは彼の意思を尊重して手を出さずに見守ろうとし、彼らの後ろで今も尚心配を隠せないユリナたちが見守る中でヒロムはその身に纏う白銀の稲妻の力を高めながら歩を進め始める。
ヒロムが動き出す、それを目にした雅蓮と雅麗はそれぞれが持つ呪具を構え、ヒロムに攻撃されてばかりの灰斗もようやく殺る気になったのか拳を構えようとした。
灰斗を殺る気にさせる、屋上で先に仕掛けたヒロムの望みであったそれは達成されたわけだが、敵が2人増えたからかヒロムは少し面倒そうな表情を浮かべていた。
いや……
むしろ、今のヒロムは灰斗を見ながら何かを気にしているようにも見えた。
「さて……」
(アイツを殺る気にさせるって点についてはこの際どうでもいい。アイツが殺る気になったらなったで面倒でしかないし、殺る気にさせるってのも元々が『閃血』を持ってない前提での狙いだったから……今となってはクソ面倒でしかない。それよりも、問題はアイツがオレの何を攻略するために呪具を与えられたかだ)
「第2ラウンドとは言ってくれるじゃないか覇王。オレたち相手に余裕なのは分かるけど、その余裕がいつまでも続くと思ってるわけ?」
「少なくとも今の状態ならオレが上だ。理解してないならさっさと上書きしとけ」
(あの2人の呪具使いの連携……アレはおそらくフレイたちのオレとの連携を想定したものだ。仮にここでオレがフレイたちを呼び出しても対応は可能なんだろうけど……そうなるとアイツの呪具とアイツ自身のスペックの方が気になってくる。アイツはオレの何を攻略する想定で……)
3人の呪具使いを相手に戦おうとするヒロム。相手にする3人の呪具使いのうち、加勢に来た姉妹の呪具使いが何を想定して呪具を与えられているのかを推測し、その上でヒロムは灰斗の呪具について思考を深め始める。
現れた敵が《天獄》の各能力者を攻略する前提で呪具を与えられている事、その上で敵は該当する能力者の前に立ち塞がったとした上で灰斗は自分の何を攻略するために呪具を与えられたのかを思考するヒロム。そのヒロムの思考など気にする事などない雅蓮と雅麗は闇を纏うと動き出した。
「雅麗を痛めたアンタは……私が殺す!!」
「雅蓮姉を怪我させた罪……償わす!!」
「はぁ……仕方ないね」
ヒロムに攻撃され傷を負ったという結果に対して怒りを爆発させている雅蓮と雅麗は纏う闇の力を高めながらヒロムに迫ろうとし、姉妹がヒロムに迫る中で灰斗はやれやれと言いたそうにため息をつくと闇を軽く纏いながら動き出そうとした。
3人の呪具使いが動き出す、それに対するヒロムは迎撃するべく動く……かと思われたが、灰斗が動き出そうとしたその時だった。
灰斗が動き出そうと一歩踏み出す瞬間、突然彼の足下が白く光り、足下が光るのに気づいた彼が視線を落とすと大地から白銀の稲妻が勢いよく現れると共に炸裂して灰斗を襲い負傷させる。
「がっ……!?」
「「!?」」
突然の稲妻の出現と炸裂に襲われた灰斗が負傷し、灰斗が稲妻に襲われ負傷した事を認識した姉妹はヒロムに迫ろうとする足を止めて彼の方に体を向けてしまう。
ほんの一瞬の出来事、その一瞬に起きた事で動き出した敵の足は止まってしまい、姉妹が灰斗の方を向くと同時にヒロムは白銀の稲妻を纏いながら2人の間を駆け抜け灰斗に向かっていこうと加速していく。
ヒロムが間を駆け抜けて行った、つまりは自分たちをスルーして灰斗を優先したという事実を素直に受け入れる事など出来ない雅蓮と雅麗は灰斗の方を向いていた事もあってヒロムを追いかけようとした。
が、2人がヒロムを追いかけるために動きを見せようとすると2人の間に白銀の稲妻の球が現れて爆発し、爆発した稲妻の球の内部から球を形成していた稲妻が衝撃と共に解き放たれ姉妹を引き裂くように吹き飛ばしてみせる。
「「きゃぁあ!!」」
「この覇王……こっちに『閃血』が備わってんの把握してて攻めてくる気なのか!?」
戦闘種族の《月閃一族》の血筋にのみ宿る力たる『閃血』での戦闘中の適応と成長を可能としている事を看破しながらも攻撃する事を躊躇う気配の無いヒロム。
ヒロムが迫る中で稲妻の炸裂に襲われ負傷した灰斗は闇の力を強くさせて傷を治すと左右一対の手甲の呪具を装備した両拳を構え迎え撃とうとした。
屋上ではなかなか殺る気を見せなかった灰斗がここに来て殺る気を見せ呪具を装備した拳を構えた。呪具にどのような力が施されているのかは分からない、だが……
ヒロムに躊躇いも何もなかった。
「今更過ぎるんだよ、ボケが」
今になって殺る気を見せた灰斗を侮蔑する言葉を吐いたヒロムは瞬間で敵との間合いを詰めると連撃を素早く叩き込み、ヒロムは白銀の稲妻を強く纏わせた拳を構えると強く踏み込み渾身の一撃を叩き込もうとした。
「……残念っ!!これは学習済みだよ覇王!!」
連撃を叩き込まれた灰斗。だが連撃を受けたという経験は既に屋上で経ている灰斗はヒロムの連撃の威力に耐えると渾身の一撃が放たれるよりも先に闇を纏わせた拳で反撃しようと考えた。
が……
灰斗が反撃に乗り出そうとしたのを狙ったかのように彼の体の内側へ次々と衝撃が駆け抜け、肉体の内側を駆け抜ける衝撃に襲われる灰斗はその痛みに耐えるしかなく、反撃に転じようにも行動を起こせずにいた。
「な……んだ、これ……!?」
肉体の内側を駆ける衝撃。自身の身に何が起きているか分からない灰斗が痛みに耐え続ける中でヒロムは白銀の稲妻を強く纏わせた一撃を叩き込んで敵を殴り飛ばしてみせた。
本来ならば反撃してヒロムの攻撃を妨害していたか、最低限の行動として防御を行い直撃を避けたかもしれなかった灰斗。
だが彼はヒロムの一撃を為す術なく受けるしか出来ず、一撃を受け殴り飛ばされた灰斗はその勢いのまま地に倒れるしか無かった。
「がっ……は……」
殴り飛ばされた先で倒れた灰斗。まだ動けるらしく血を吐きながらも立ち上がろうとし、まだ完全には倒れようとしやい灰斗の姿にヒロムは少し意外そうな反応を見せた。
「思ったよりも根性あるんだな、オマエ。便利な力と道具与えられて頼ってるだけかと思ったが、それなりに頑丈みたいで安心したぜ」
「……オマエが、やったのか……覇王!!」
「あん?体を突き抜ける衝撃の事か?それならオレだな。オマエに叩き込んださっきの連撃で打撃との時間差で炸裂する衝撃が付与しておいた。油断してまともに受けてくれた事に関してはこっちとしては感謝したけどな」
「まさか、『閃血』の効力を逆手に……!?」
「バカか、こんなもん逆手に取るとは言わねぇよ。オマエの慢心を利用しただけ……オマエらが分かりやすい人間だったから踊らせたってだけだ」
敵の持つ力を利用したのではなく敵の人間性を利用したと語るヒロム。
今の彼には敵のどこまでが見えているのか。そして、彼は今どこまでを想定して動こうとしているのか……?




