1032話 殺る気を見せろ
少し遡る……
呪具使いが4人現れ戦いが幕を開けた直後。
ヒロムは灰斗を相手に戦おうと敵に迫り、敵もまたヒロムを倒すべく迫っていた。
ヒロムと灰斗の距離が縮まり会敵……いや、開戦するのも時間の問題。だが、その2人よりも先にガイが朧波との戦いが始まろうとする流れと気配をヒロムは感知していた。
ガイと朧波の開戦の気配、その直後に続けて起きるであろうノアルと打剛の開戦、さらにはタクトとキャンティアの戦いまでもが始まる可能性があると感知するヒロム。
敵も自分の仲間3人が戦いを始める流れを感知したのか、それとも何かの思惑があるのかはヒロムには分からないが、敵はヒロムに迫ろうと走る中で何故か数歩程歩幅を小さくさせ、何かしらの意図があると睨んだヒロムは敵に迫る自らの動きを止めようとせず思考した。
「……」
(4人の呪具使い、主観だけで判断するなら……おそらくあの4人はオレとガイ、ノアル、タクトを相手にする前提で対応する呪具を持たされたオレたちを一方的に追い詰めるために手配された能力者だ。校舎の方から視線向けてるのがイクトを相手にする前提の呪具使いだったとして……コイツらは間違いなくオレたちの攻略前提で用意された刺客って事になる。都合よくオレたちを攻略出来るよう呪具を与えられるのは2人しか考えられないが……同じ組織に属してるとはいえあの2人が組むのは想像出来ない。何より気になるのは……)
「さっきの盲目野郎の『あの方』って発言が誰を指すのか、だな。そこを探りながらアイツらの全力を引き出させるには……」
敵について思考するヒロム。その思考の中で朧波が口にした『あの方』という発言を気にするヒロム。
敵が自分たちの攻略を前提に呪具を与えられ仕掛けて来た刺客であり、それが可能な人間は2人該当する旨を導き出しつつもその点を気にするヒロムはガイたちの戦いが始まろうとする中で1つの選択肢に注目すると更なる加速を引き起こして敵との間合いを先に詰めた。
間合いを詰めたヒロムは地を強く踏み込むと敵の首を掴み、そして……
「あ!?」
「黙ってろ」
突然のヒロムの行動に灰斗が驚くもヒロムは黙れと冷たく告げると地を強く蹴り敵の首を掴んだまま高く跳び、地を強く蹴り高く跳んだヒロムは敵を連れたまま校舎の屋上を容易く越える高さに到達してみせる。
「は!?嘘……」
ヒロムの行動だけでなく当たり前のように屋上を越える高さに達した事に思考と理解が追いつかない灰斗の事など気にしないヒロムは敵を乱暴に投げて屋上へ不時着させるように勢いよく倒れさせる。
灰斗を投げ倒したヒロムは大気を強く蹴って方向転換すると屋上へと難なく着地を決めて敵に視線を向けながら首を鳴らした。
余裕を見せるヒロム。彼に投げ倒された灰斗が立ち上がろうとする中でヒロムをため息をつくなり灰斗含む呪具使いに関して情報を引き出そうとした。
「オマエの仲間……こっち側の天才剣士が相手を引き受けてる盲目野郎が言ってた『あの方』ってのは誰だ?《世界王府》の人間か?それとも別の組織の人間か?」
「何言うのかと思ったら……キミ、殺る気あんの?」
「その気がないならオマエなんざスルーしてる。こうして邪魔の入らない場所に案内してやったんだ……殺る気云々気にする前にオレの問いに答えろクソロン毛」
「はぁ?口悪いなキミ。まぁ……凄まれても教えないけどね」
「そうか、ならいい。それならオマエを殺して知ってるやつから聞き出すまでだ」
『あの方』とは誰なのか、それをヒロムが聞き出そうとするも灰斗に答える気はなく、彼に答える気がないなら早々に始末して他の呪具使いから聞き出すと告げたヒロムは敵を倒し事を進めるために自らの殺意を表すように白銀の稲妻を強く纏い始めた。
殺る気は十分にある事を見せつけるヒロム。
白銀の稲妻を強く纏うヒロムの殺る気を前にした灰斗は……
ため息をついて面倒そうな顔を見せる程度の反応しかなかった。
「はぁ……やめてほしいよ、そういうの」
「あん?」
「流れ的に殺るしかないってのは分かるよ?けど、オレが殺る気になってない中で勝手にそっちだけ殺る気になられても困るんだよね」
「何だ、殺る気ないのか?」
「殺る気ないわけじゃないよ、オレも。ただ、一方的な殺る気の提示はこっちの殺る気を削がれるだけなんだって」
「そうか。なら、仕方ないな……」
ヒロムの殺る気を見せつけられて戦意喪失に近い殺る気の無さを見せる灰斗。
灰斗に殺る気がない事を理解したヒロムは仕方ないの一言で済ませるような態度を見せるが、その直後……
ヒロムは姿を消し、灰斗の頭上に現れると素早い身のこなし共に灰斗へ連撃を叩き込み敵を怯ませた。
「がっ……は?何……
「オマエに殺る気ないのは理解した。だからオマエを殺る気にさせてやるよ……オレに殺されたくないと思えるように痛めつけてな!!」
突然のヒロムの連撃に反応出来ずに受ける他なかった灰斗は連撃を受けて怯まされる流れで理解が追いつけず、敵に殺る気がないのならばその殺る気を出させるだけと語ったヒロムは白銀の稲妻の力を高めさせると更なる連撃を放って灰斗に直撃させる。
理解が追いつかぬ中で更に放たれた連撃を受けるしかない灰斗。2度に及ぶ連撃の全てを受けた灰斗は当然ながら負傷して膝をつきそうになるが、ヒロムは敵の状態など問答無用で白銀の稲妻を纏う蹴りを敵に叩き込む。
「がっ……!!」
「消しとべ」
蹴りを叩き込んだヒロムの脚が纏う稲妻が炸裂して敵は勢いよく蹴り飛ばされ、吹き飛んだ灰斗は屋上に設けられているフェンスに衝突する形でどうにか止まる事が出来たものの稲妻の炸裂によるダメージで出血を伴っていた。
彼の意図してなのか、それとも敵の悪運の強さなのかフェンスに止められた灰斗が血を吐く中でヒロムは両脚に稲妻を強く纏わせるともう一度間合いを詰めて敵に一撃を叩き込もうと考えた。
全ては敵を本気にさせるため、本気の敵を追い詰める事で『あの方』が何者なのかを吐かせて倒すため。
自らの目指す結末を掴むため、未だに殺る気を見せる気配のない灰斗を追い詰め本気にさせようと動くヒロム。
フェンスに衝突した状態から体勢を直し、稲妻の炸裂によるダメージで追い詰められる灰斗を追い詰めるべく迫るヒロム……だったが、灰斗に迫る中でヒロムは何かを察知したらしく駆ける脚を止めると同時に後ろへ大きく跳んでしまう。
敵を追い詰めようと迫っていた中で引き返すような行動を取ったヒロム。そのヒロムの行動が接近を妨げた一方でこれによって難を逃れた灰斗は不吉な笑みを浮かべた。
「へぇ……意外とやるな」
「……なるほど、オマエが殺る気にならなかったのは『それ』が狙いだったからか。上手く乗せられてたとは……流石はオレを相手に戦う前提で用意された能力者ってか。自分で自分の首を絞めるなんて情けねぇな……」
「それを言うならオマエへの攻略方法があるオレを追い詰めようとした力は流石と言うべきだよ。まぁ……オレたちが相手になるなら話は変わるけどな」
灰斗に何かしらの企みがある事を見抜いたヒロム。そのヒロムの強さを評価する灰斗が指を鳴らすと新たな敵が彼の傍に現れる。
大鎌を手にした女と2本の鉈を手にした少女。灰斗のもとへ現れた2人の敵、彼女たちは……




