1031話 天才の煽り
ガイが朧波を倒し、ノアルが打剛を倒し、2人の勝利の流れと勢いに乗って自身も勝利を掴み取ろうと戦ったタクト。
激昂するキャンティアを煽りに煽って怒りを高めさせ、敵の最大の攻撃を引き出させ、それを打ち破った上で自らの力を示し敵を倒したタクトは見事な勝利を収めた。
タクトの戦いを観戦していたガイとノアル、ユリナたちを守るための後方支援を担いながらの観戦をしていたシャウロンとケンゴ、ハルキはタクトの新たな武器・流閃刃に注目していた。
何よりも、ガイは彼が戦いの中で口にしたある言葉について注目していた。
「タクト、オマエがさっき言ってた指導担当って……」
「ん?あぁ、気になるのか?」
「一応、な。タクトがその武器を手に入れられたのはその指導担当者のおかげだろうとは思うんだが、オレの中で浮かんでるやつが素直に教えてる姿を想像出来ないんだよ。一応……確かめたいってだけだ」
「あぁ、そういう事か。多分、ガイがイメージしてる人物で合ってるよ」
「て事は……シオンなのか?」
「あぁ、シオンだ。つっても指導担当って言っても感覚的な助言してくれたくらいだけどな」
タクトは新たな指導担当者、それが誰なのかを当事者の彼から聞くまでもなくシオンがそうなのだろうと見当がついていたガイ。
予想通りタクトはシオンが指導担当者として助言した旨を語り、彼の返事を受けたガイはシオンに関して何やら思うところがあるのか少し考え始めた。
「やっぱりか……」
(チノたちの霊装の件といい、ソラの手助けの件といい……《ソウル・ブースター》しか披露してないなんて余裕があるような振る舞いまでしてくれる今のアイツならタクトに手を貸すくらい不思議じゃないけど、理由が気になる。シオンは煉獄島で何かを知ったからオレたちに助言してるだけなのか、それとも別の目的……ユリナたちをヒロムから引き離そうと考えてるゼロが絡んでる目的があるのか、その辺は本人に聞くしかないのか……?)
「ガイ、どうした?」
タクトの新たな指導担当者がシオンだと予測出来ていたガイは彼の指導担当を引き受けたシオンが何を考えているのか、何を目的に何を画策してるのかを考えてしまう。
そんなガイの考えている事など知る由もないタクトは何かあったのでは無いかと感じるだけ、彼を心配してタクトが声をかけるとガイは考えるのを一旦やめてタクトから話を聞こうとした。
「悪い、タクト。それより……どうしてシオンが指導担当を引き受けてくれたんだ?」
「オレがシュミレーションルームで色々試してたら声掛けて来たんだよ。で、今のオレの状態を色々聞き出されて、そしたらオレの戦い方の改善点とオレ自身の能力者としての改良点を提案してきたんだよ。最初は聞き流すかくらいで聞いてたんだけど、詳しく聞いてたら理にかなってる内容だったからさ」
「聞き流すくらいの興味しかなかったのか……」
「最初はな。まぁ、頭に入れておくのも悪くないと思ったし聞いてたし、それに……シオンの話を実現に向けて動いたのはあの天才のおかげだしな」
「天才?それってヒロムの事か?」
「あぁ、あの覇王だよ。シオンの話を聞いた後に色々考えてたらアイツ、煽ってきたんだよ。『メイアとの想いの力をただ使うだけなら三流にも満たない五流止まり、《天獄》じゃ役に立たねぇから個性を見せつけてオレを驚かせろ。いつまでもオレを追いかけるだけの人間はナギトや真斗だけで十分、追いかけっこが好きなら白丸たちと戯れてろ』ってな」
「……煽ってるというか単なる悪口じゃねぇか。それを真に受けたのか?」
「言い返したさ。シオンの助言で新しい自分の方向性が見えたって。けど、言い返されたよ……『オレの知る勇波タクトは正しく努力出来る適応の天才、他人のアドバイスに満足してるようなら見当違いだった事になる』ってな」
「アイツ……タクトをどうしたいんだよ」
「けど、そのおかげで流閃刃が完成したんだ」
シオンの助言に加えて天才と認めているヒロムから悪口に等しい煽りを受けたと報告するタクト。彼の話からヒロムの態度と言葉の悪さにガイは呆れるしかなかったが、タクトはヒロムのおかげで薙刀・流閃刃の完成に至ったと語った。
話の流れから彼の言葉の意図が分からないガイ。彼だけでなくノアルも不思議に思っているとタクトは彼らにヒロムの言葉を受けた後の経緯を語り始めた。
「オレはヒロムに言われるまで想いの力を得てアイツの強さに到達できるかもって思っていた。シオンの助言を受けた時もヒロムの強さと並ぶためのプラス要素に出来る……なんて甘い考えを持ってた。でも、アイツがあんな風に煽ってくれて気づけたんだよ。オレが目指すのは姫神ヒロムに並ぶ能力者じゃなくて、姫神ヒロムを越えて倒せる能力者になる事……そして、オレを見放し先に強くなったナギトを越えて見返せる強い能力者になる事だってな」
「タクト……それは良いように捉えすぎだぞ?」
「強くなるためにはどんな事も喰らわないと、て考えだよ。おかげで流閃刃を……迫り来る敵を薙ぎ払い自分の道を切り開き仕留める力を射つ流れを閃く力を手に出来たんだしな」
「そう、か……」
(きっと、タクトはシオンの助言だけでも時間をかければ何とか辿り着けたかもしれない。けど、ヒロムはそれを拒んだ……いや、自分の求める理想の強い能力者にさせるためにタクトを理想に向かわせるための言葉を遠回しに伝えた。不器用なのか、意地が悪いのか……タクトが強くなる、その結果のためだけにアイツはタクトを導いたってのか)
ヒロムの言葉をポジティブに解釈し自分の発展へと結びつけたタクト。彼の言葉に納得出来ない部分を感じるガイはタクトが強くなった経緯について、ヒロムがそう成るよう導いたと結論を出した。
ガイの出した結論がどうであれタクトは強さを得てヒロムたち強者に近づいたのは確かだ。結果だけを見ればプラスしかない現状、あえて下手な事は言わない方がいいかとガイは自身の出した結論を自らの中で留めようとした。
タクトの話が一旦収まりを見せたその時だった。
天高くから地上へと何かがかなりの勢いの落下し、落下した何かが地に叩きつけられた事により生じる衝撃と轟音にも等しい音を前にしたガイ、ノアル、タクトは敵の存在を警戒して身構え、敵の可能性を危惧したシャウロンとハルキ、そしてケンゴもユリナたちを守るべく警戒心を強めた。
ガイたちが警戒心を強める中で落下してきた何かがその姿を見せる。
天高くから彼らの前に落下してきたのは……ガイとノアル、タクトが倒した呪具使いと現れ今ヒロムが相手にしているはずの青年、傷だらけになった灰斗だった。
「アイツはヒロムが……」
何故、ヒロムが相手にしていたはずの灰斗が傷だらけになって落下してきたのか?
疑問を隠せないガイが不思議に思っているとヒロムが音もなく敵と自分たちの間の地点に現れ、彼が現れるとガイは全容を聞くべく声をかけようとした。
が、その時だった。
ヒロムが現れると同時に彼に挟撃を仕掛けるかの如く大鎌を手にした女が左側から、鉈の二刀流の少女が右側から彼に襲いかかろうと現れた。
ヒロムに迫る2人、間違いなく敵だ。その2人の接近に対してヒロムは当たり前のように対処しようと動き始めるが、ガイたちは目の前で何が起きているのか理解が追いつかなかった。
「一体、何が……!?」




