1030話 激流よ、討て!!
タクトとキャンティアの戦闘。
遠距離攻撃を主体とする2人の戦闘は攻撃が相手へ命中せずに優劣のつけ難い均衡した状態を維持していた。
が、あくまでそれは戦況だけを見た場合だ。身体的、精神的な面で見るならば少し話が変わる。
タクトの数々の煽りと蔑みを受けたキャンティアは怒りを露わにし、それを表現するが如く炎と闇の力を増幅させていた。状態的には冷静さを失って怒りに囚われていると言えるキャンティアに対して敵の怒りを増幅させた側のタクトは冷静に流蓮弓を構えていた。
そんな冷静なタクトの態度が気に食わないであろうキャンティアは全身に纏う力を高めると周囲に1m程の大きさの火球を複数出現させて自身の周囲を浮遊させる。
敵の周囲を浮遊する複数の火球、それを視認したタクトは火球の動きを気にかけながら水流の矢を装填させ、タクトが水流の矢を装填するとキャンティアは火球に業火を纏わせながら相手に向けて飛ばした。
業火を纏った火球が飛ばされるとタクトは流蓮弓を構え水流の矢を射ち放って火球を射ち抜き破壊しようとする。が、タクトが放った水流の矢は火球を貫こうと真っ直ぐ向かい直撃しようとすると火球が纏う業火が妨害に入り、水流の矢は業火と衝突すると為す術なく力負けして弾けてしまう。
水流の矢が弾け消えた事実にタクトは驚く事もなく水流の矢を新たに4本生み出すと束ねながら流蓮弓に装填させ、束ねて装填された4本の水流の矢は流蓮弓の装填に際して一体化を起こして水流の槍へ変化を遂げる。
水流の槍と成った4本の矢をタクトは流蓮弓から勢いよく射ち放って火球を射ち抜こうとし、放たれた水流の槍は敵の火球が纏う業火を模倣するように水流を渦巻かせながら加速を起こし、加速する水流の槍は渦巻く水流で業火を相殺させながら火球を射ち抜き破壊してみせた。
「コイツ……ッ!!私の真似を……!!」
「真似も何も能力を纏わせる基本技能はオマエの専売特許じゃねぇだろ間抜け」
「ッ……黙れ!!たかが1つ壊せたくらいで……
「なら他も壊してやるよ」
火球に業火を纏わせる攻撃方法を取るキャンティアに対抗するように水流の槍に水流を渦巻かせ力を高めさせたタクト。彼の攻撃を敵は自分の真似だと非難しようとするも彼は基本的な技能だと反論した。
タクトの反論に返す言葉がないのかキャンティアは叫び他の火球で彼を潰そうとするが、そんな敵の攻撃と態度……そして何もかもを壊そうとタクトは素早い動きで水流の槍を複数生成すると瞬時に装填・発射を繰り返し生成した全ての水流の槍を射ち放って敵の業火を纏う火球を射ち抜き破壊してみせる。
「まだだし!!」
タクトが当たり前のように対応して火球を破壊するとキャンティアはまだ手があるのか炎と闇を強く放出するとそれらを交わせて業火の嵐に変化させながらタクトに向けて解き放った。
先程までの火球とは異なる新たな攻撃、単なる炎ではなく闇の力が合わさった事により生まれたと思われる業火の嵐は激しく燃え盛る中でタクトに向かっていき、その道中にあるものを熱波で焼き払うが如く大地を焦がしながら彼に近づいていた。
タクトに迫る業火の嵐、その力は彼に迫る中で高まる事をやめない。荒ぶり燃え盛る業火を前にしたタクトは水流の矢を数本束ねて槍に変えながら装填して射ち放ってみせるも業火の嵐の前では無力となってしまい、水流の矢を乱射させても何の足止めにもならなかった。
「無理無理、無理て分かれよ!!無駄な足掻き、私のこれはアンタの射撃じゃ止められない!!矢を飛ばすしか能のないアンタには防げない!!だから終わんのよ!!」
タクトの行動を無駄な足掻きとして笑うキャンティア。敵に笑われ見下される中でも業火の嵐の接近は止まらず、止められないのであれば逃げるなり考える道もあった中でタクトは水流の力を高めさせる。
「はぁ、ったく……ブレイヴ・リンク」
業火の嵐が迫る中でタクトは水流の力を高めながら右手中指に装着した指輪の霊装から光を放ち輝かせ、高めさせる水流を光と共に武装に変えながらその身に纏っていく。
青を基調とした黒のラインが渦巻くよう描かれたロングコートに身を包み、両肩・両腕両脚に翼を模したようなアーマーを装備したタクトが右手を薙ぐように振ると羽根の形をした魔力が無数に現れて水流を纏いながら業火の嵐を止めようと突撃していく。
しかし、それでも及ばない。
タクトの空間認識能力と彼の宿す精霊の力、そして彼に向けられる1人の少女の想いが集い力となっている《ブレイヴ・リンク》による強化を経た魔力の羽根の一斉突撃でも業火の嵐は止まらない。
抗うように力を高めながらタクトを飲み込もうと迫っていく。
「所詮アンタにはその程度の事しか出来ないのよ!!アンタの手の内は分かってる……そのアンタが止められない方法を実行出来た時点で私の勝ちなのよ!!」
タクトが何をしようと無駄、彼の手の内を把握してるからこそのこの攻撃だと自信満々に語るキャンティア。敵の自信を表すように業火の嵐は力を強めながらタクトを飲み込んでいく。
勝負あり……とキャンティアは笑みを浮かべる。
その時だった。
タクトが業火の嵐に飲まれた直後、業火の嵐を内側から壊すように無数の斬撃が引き裂きながら現れ、無数の斬撃の出現に伴い業火の嵐が引き裂かれ消滅すると飲み込まれていたタクトが姿を現す。
そして、そのタクトの右手にはキャンティアが知るはずのないものが手にされていた。
「何よ……それ!?」
キャンティアが困惑を隠せないタクトの手にしたもの……それは青黒い薙刀だった。
翼を彷彿とさせる形状の刃を持つ薙刀を右手に持つタクトがそれを構えると水流を強く纏い始め、薙刀が力を纏うとそれは大気を揺るがす程の力を発し始める。
「な……何なのよ、それは!!」
「コイツは流閃刃、オレがメイアとの間に出来た想いの力の繋がり、スピットとの戦いで得た《破壊修正》と《ブレイヴ・リンク》を最大限活かすためにオレの中の魔人の力を具現化させて完成させた薙刀……トリスの使う薙刀をベースにした武器だ」
「あ、ありえない……アンタは弓術使えるくらいの取り柄しか……」
「オマエみたいなやつを見返すために完成させた。オレを甘く見たら痛い目を見る……それを証明させるための力だ」
思い知れ、とタクトは流蓮弓を構えると共に青黒い薙刀……流閃刃を矢の如く装填させ、流閃刃が流蓮弓に装填されるとタクトの前に青黒いエネルギーが光と共に蓄積されていく。
蓄積された青黒いエネルギーは巨大な力と成り、タクトが敵に狙いを定めると彼の周囲に羽根の形をした魔力が無数に現れて水流を纏い掃射しようと力を高めさせていく。
「う、嘘よ……!!こんなの……
「さよならだ……女!!」
タクトが流蓮弓に装填させた流閃刃を射ち放つが如く解き放たせると流閃刃は鳳凰の形の激しき水流となって高められた青黒いエネルギーと共にキャンティアへ向かっていき、羽根の形の魔力はそれに続くように水流をビームのように撃ち放つ。
タクトの放った攻撃に抗おうとキャンティアは炎と闇を乱射していくが羽根の形の魔力から放たれた攻撃が彼女が乱射する力の全てを相殺させ、抗うも為す術なく無防備に晒されるキャンティアにトドメをさそうと青黒いエネルギーを纏いし激しき水流の鳳凰がキャンティアを襲う。
「あぁぁぁあ!!」
青黒いエネルギーを纏う激しき水流の龍に襲われその力が直撃したキャンティアは防ぐ事も出来ずに全身負傷しながら倒れ、倒れた彼女が纏う力の全てが消えるとタクトは纏う力を全て消し、敵を倒した激しき水流の鳳凰が舞い戻り流閃刃へと戻るとそれを掴み取って敵へ背を向け去ろうとした。
「……慢心は己を滅ぼす、今後の教訓にしろクソ女」




