103話 不穏な語り
葉王から預かったとされる謎の指輪、その指輪の意味するもの……葉王が託されたというその相手についてカズキは語ろうとする。
一体誰なのか、カズキが語ろうとする人物が気になるヒロムが真剣な表情で聞こうとする中カズキは明かしていく。
「その指輪を葉王に託した人物の名は《ハート》、葉王が《姫神》の家を組み上げてから1年が経過した頃に出会った異国の男らしい」
「らしい?」
「あくまで葉王の話を聞いたレベルでしかオレは知らない。だから細かいことは気にするな。約500年前の葉王には華乃という妹がおり、華乃が街で野盗に襲われかけた時にハートが助けたのが出会いのきっかけであり華乃の紹介で葉王は出会った。500年前は能力者というものは妖の類とされており危険視されていたため能力を持っている葉王や華乃は能力があることを隠しながら生きていた。そんな中で出会ったハートは2人の能力を見抜くと自分も能力があること、異国の地では能力者という存在がいることを明かした」
「能力者って昔からじゃないのか?」
「葉王の話では能力者というのは新選組や坂本龍馬のいた時代……幕末の頃から異国から伝わってきた流れとその時代から能力を持った人間が確認されたことから浸透し始めたらしい。そして……葉王の話では織田信長は能力を所有していたらしい」
「まさか……ノブナガが言っていた奇妙な力を使うあの男って葉王のことか?」
「ノブナガ……と戦った時に何か聞いたのかは興味無いが葉王は織田信長と戦ってはない。戦ったのはハートの方だ」
「ハートってヤツが?」
「ハートは葉王と出会うと気があったのか葉王と華乃と暮らしながら街の平和のために野盗の悪事を止めていたらしい。野盗狩りと呼ばれるハートの行いに目をつけた織田信長は野盗に変装させた部下に足止めさせると自身の目でハートの力を試そうと戦いを挑んだらしい。ハートは何とかして部下を一掃しながら撤退しようとするも織田信長は執拗に攻撃を繰り返し、ハートは穏便に済ませようと躱しながら話し合いを求めるも失敗したらしい」
「それで?」
「埒が明かないと悟ったハートは能力を使って織田信長を負傷させて撤退するも織田信長の一撃を受けて負傷してしまった。葉王は織田信長に目をつけられたハートを助けるため、そして能力の呪いで死ねなくなった自分を表舞台から消すために華乃に後を託して遠方に行った」
ちょっと待って、とカズキが話しているとアキナは戸惑いを隠せない顔でカズキに質問する。
「葉王って人……何歳なの?」
「姫神ヒロム、話してなかったのか?」
「ああ、コイツ記憶力ねぇから忘れてるだけだ」
「ヒロム!?」
「……葉王は強すぎる能力の悪影響による呪いで歳も取れない不老の体になったんだよ。これでいいかバカアキナ」
「ひどい!!ひど……」
「話がズレるから黙ってなさい!!」
ヒロムの冷たい態度にアキナが騒いでいるとユキナとエレナが彼女の口を塞がせ、アキナが大人しくなるのを待つとカズキは続きを話した。
「葉王と遠方に行ったハートは華乃と出会った時から恋仲にあったらしく、華乃には子の命が宿っていたらしい。傷のせいで抵抗力の低下したハートは葉王と向かった先で流行病に侵され先が長くない状態となったらしい。もう先は長くない、それを悟ったハートは葉王にその指輪を託したんだ。その指輪……始まりの霊装の指輪である《ファースト》をな」
「霊装!?この指輪が!?
つうかハートの能力って……」
「ハートの能力、それは姫神ヒロムと同じだ。精霊を宿しその力を受け取り戦うという力だ」
「精霊使いがオレの……ん?先祖?
待て、葉王は《姫神》の家をつくった張本人だろ?ハートは精霊使いだろ?つまり……オレは……葉王とハートの間に出来たガキの子孫……!?」
「ヒロムくんが急にバカになった!?」
「ユリナ、ヒロムさんは混乱されてるんですよ多分!!」
急にバカな発言をするヒロムにユリナがツッコミを入れエレナがフォローしようとしているとカズキは咳払いをして空気を整えると話を戻していく。
「オマエは華乃とハートの息子の子孫……つまりは華乃の方の血を強く流している。そして華乃はハートと同じく精霊を宿していた。オマエはその加護を受けたようなものだ」
「……いや、でも母さんや母さんの姉や兄は精霊宿してねぇしあの人らの反応からして《姫神》で精霊宿してるのってオレくらいらしいぞ?」
「……オマエ、誕生日は4月8日だろ?」
「え?おう。つかなんで誕生日?」
「華乃の誕生日は4月8日、そしてハートの誕生日も4月8日だ」
「は?」
「そんな偶然って……」
「偶然では無いかもしれないぞ咲姫サクラ。2人の祖先と同じ生誕の日に産まれた姫神ヒロムが精霊使いとしての素質を持つ2人の祖先の恩恵を強く受け精霊を宿した。これは何かの運命だと葉王は語っている。だから葉王は自分の存在を明かすことになろうとオマエを影から支えながら敵と勘違いされることになろうと愛した妹と助けられなかった友と同じ素質を持つオマエを助けたかったんだ」
「アイツが……」
「まぁ、やり方については問題しかないがな。というかアイツが話せばいいのにアイツは自分から語れば余計なことも話すとかで嫌がりやがるんだよ」
「……葉王は他にも何か預かってるのか?」
さぁな、とヒロムの質問にカズキは冷たく返すと続けてヒロムに伝えた。
「少なくとも葉王はその指輪をオマエに渡してこのことを伝えて理解させたかったらしい。オマエの持つその力は立派な能力であり、先人たる2人の祖先がオマエに何か託したに違いないってな」
「……そうか」
葉王の思い、それをカズキの口から聞いたヒロムはどこか納得したような落ち着いた雰囲気で指輪を握り締める。葉王の出会ったハート、そして葉王の妹であった華乃何かを託したかもしれない、それを深く受けるヒロムは指輪を握り締めながらカズキに問おうとする。
「……この指輪が霊装なら何か秘密がある。それを解き明かすのが決闘までにオレがやることなんだな?」
「そう考えてくれて構わない。もっとも実技指導がほしいなら用意してやらんでもない」
「まさか……」
「ああ、オマエを……」
失礼する、とカズキの言葉を遮るように赤い髪を後ろで軽く束ねた青と赤のオッドアイの青年が音も立てずにカズキのそばに現れる。
「……アリス、ここは姫神ヒロムの屋敷だ。不法侵入をするなとは言わんが行動を弁えろ」
「悪いが事態は急を要する」
「……何があった?」
「それは……」
「ねぇヒロム、この人は?」
青年がカズキになにか言いたそうな中でサクラは青年が誰なのかヒロムに問い、サクラが気にしていると青年は自らの名を彼女やユリナたちに名乗る。
「双座アリス、カズキに仕えてる能力者と覚えておいてくれ」
「あら、ご丁寧に」
「……アリス、何があった?」
「内偵からの情報が入った。大淵麿肥子が《フラグメントスクール》のエリート30人とチームを組ませる10人の能力者の選定を終えたらしい」
「やはりもう決めてきたか……」
「まだ2週間はあるんだろ?早過ぎないか?
こっちは……」
「向こうとしては《フラグメントスクール》のエリートの養成をさせるために現段階で決めたらしいぞ姫神。あの男は本気でオマエを潰したいらしいからな」
「それで……それの何が急を要するんだ?」
「……10人の能力者の中に1人、厄介なのが選ばれた。
《聖王》アーサー・アスタリア、あの伝説の騎士王のアーサー王の名を持つ天才能力者である英国から軍に派遣されているあの男が選ばれた」
「……大淵麿肥子め、そこを選ぶか」
「他にも賞金稼ぎとして現在名を馳せる《砕王》東条竜樹、特殊部隊のエースである《神刃》太刀神剣一、北を拠点に活動している《軍妃》神門アイシャ、他にも腕危機が選ばれている……大淵麿肥子はとにかく確実な戦力となる能力者を揃えている」
「……東条竜樹と神門アイシャは想定できたがアーサー・アスタリアはルール違反ギリギリじゃねぇか。日本人どころか日本国籍取得者でもない英国から力を借りてる人間までえらぶとはな……」
仕方ない、とカズキはため息をつくとヒロムに告げた。
「オマエは不服かもしれないがもう一度オレの弟子になれ。オレが鍛えてやる」




