1029話 爆熱女子VS水流野郎
朧波を撃破したガイ、打剛を撃破したノアル。
2人が敵を撃破し勝利を掴んだ流れの中で3人目の勝利を掴むものを決めるかのようにタクトとキャンティアの戦いが本格的に開幕しようとしていた。
得意の武器の弓・流蓮弓を構え水流の矢を装填し狙いを静かに定めようとするタクト。
対するキャンティアは炎を右手に纏わせながらゆっくり降下して地上に降り立ち、キャンティアが着地するとタクトはガイたちに迷惑がかからぬように数歩前に出た。
彼の戦いの邪魔になるかもしれない、そう考えたガイとノアルは目を合わせると静かに頷き、2人のこの静かなアイコンタクトに気づいたシャウロンはひとまずユリナたちを安全な所まで下がらせようとした。
シャウロンが気を利かせてユリナたちを移動させるとガイとノアルは敵の不意打ちに警戒をしながらゆっくりと後退し、ガイたちが下がり離れるとタクトは地上に降りたキャンティアの頭に狙いを定めて敵意を向けた。
だがその直後、タクトは矛盾を感じさせる言動を取ろうとした。
「……女、失せろ。今黙って失せるなら見逃してやる」
「は?私の事ナメてんの?アンタみたいなガキンチョに負けるわけないし。てか私が勝つし、アンタみたいな《天獄》の下層の能力者に負けるわけないし」
「下層、ね。その下層にいる能力者を倒すのに苦戦してお友達2人倒されてるオマエは4人の中で弱いって事でいいよな?」
「は?違ぇし、オッサンとアフロが弱いだけで私は強いし」
「口だけだろ?奇襲もミスるし観戦状態のガイたちも仕留められないし……挙句がオマエの見下してる相手に今に至るまで一切攻撃当てられないのがいい証拠だ。オマエは……弱いんだよ」
「は?何?黙って聞いてたら好き勝手にさ……煽ってるアンタこそ弱いんじゃないの?」
「そう思うならさっさと殺しに来いよ流行りに乗り遅れた化石ギャルが」
「流行りに乗り遅れた?化石ギャル?てかアンタ……さっき私の事、アバズレとか言ってたろ!!」
タクトを見下す発言を繰り返すキャンティアだが、敵に見下されるタクトは意に介する事なく当たり前のように反論する。ただ反論するだけではなく敵が言われたくないであろう事を当たり前のように口にして煽り続けた。
徐々にタクトの言葉に対しての返しが弱くなってきた敵に対してタクトはこれでもかと次から次に罵倒し、彼の罵倒と侮蔑の言葉を受けたキャンティアは少し前に言われた言葉も含めて彼に言われた言葉に我慢ならなくなったのか怒りを表すように叫ぶ。
彼女が叫ぶとその体は闇を強く纏い始め、それだけでは終わらず彼女の右手首の気味の悪い色の数珠が怪しく光を帯び始める。
そして……
「呪具解放……『蝶蘭』!!」
キャンティアが叫ぶと彼女の右手首の数珠が不気味に光り始め、呪具であったことが明らかになった数珠が光を放つと彼女の髪は炎のように荒れ、その背中には闇と炎が異質に混ざり合った蝶の羽が纏われる。
呪具の力を発動させた、その象徴と言える姿の変化を視認したタクト。敵の呪具の力を前にして警戒する……のかと思われたがタクトは流蓮弓に装填した水流の矢に回転を加えると勢いよく射ち放ち水流を渦巻かせながら敵を貫こうとした。
迷いもなく放たれたタクトの渦巻く水流の矢は螺旋に回転する動きから得るエネルギーで力を高めながら敵に迫っていく。
が、キャンティアが右手をかざすと無数の火球が現れて水流の矢に襲いかかり炸裂する。
火球の炸裂は爆発となって水流の矢を破壊し、水流の矢を破壊されたタクトは敵の攻撃を警戒してか右側から敵の後ろへ回り込もうと素早く走り出した。
「逃げんなし!!」
タクトの行動を逃げと判断したキャンティアが乱暴に右手を振ると彼女の手の動きに連動するかのように無数の火球が現れてタクトへ向かって飛んで行き、出現と共に向かってくる火球に対してタクトは火球の動きを横目で観察するように見ながら水流の矢を流蓮弓へ新たに装填させていく。
水流の矢を装填させたタクトは走る中で軽く跳びながら迫ってくる火球の方へ体を向けながら水流の矢を射ち、射ち出された水流の矢はタクトへ迫る無数の火球に向けて飛んでいく中で弾けると無数の水流の刃となって火球を切り裂いていく。
当然のように火球を対処したタクトは続けて水流の矢を生み出して流蓮弓へ装填しようとした。
だが……
「それ、見飽きたし」
タクトが水流の矢を流蓮弓に装填しようとするとそれを妨げるようにキャンティアが右手を捻らせながらタクトへ突き出すようにかざし、彼女が右手を突き出すようにタクトへかざすと彼の周囲が突然爆発を引き起こして飲み込もうとする。
「私が撃つ以外に能がないと思ったら大間違いだし。ナメんなよ?私は撃つ以外も出来……
「聞いてない」
突然の爆発に飲み込まれそうになるタクトに対して火球以外の攻撃方法も持ち合わせている旨を語り見くびるなと忠告しようとするキャンティア。
だが、敵の語る言葉を聞くの無い……というか聞いてもいない事を語られても無駄と言わんばかりにタクトは水流の矢を装填した流蓮弓を構えながらその場で体を回転させ、素早く回転するタクトの動きに連動するように流蓮弓が光を発すると装填された水流の矢はウォーターカッターが如き水圧の剣へ変えながら彼の周囲で起きた爆発全てを薙ぎ払っていく。
「は!?何それ!?」
火球以外の攻撃にタクトは対応出来ないとでも思っていたのだろう。タクトが当たり前のように対応した事についてキャンティアは驚きを見せる。
そんな敵の反応を見せられたタクトは回転を止めて構え直すと舌打ちをした後で敵の考えを指摘するように語り始めた。
「……下層って見下してる相手が何か隠してる可能性を考慮しないのは思慮が浅すぎる。ナメてんのはどっちだよって話だ」
「何ですって?」
「そもそもオマエの攻撃方法に爆撃が含まれてる可能性は予想出来ていた。その火球を放つ戦い方……それを成立させているオマエの能力が何なのかを紐解くにあたってその辺の可能性は当然思考の中に入れていたからな」
「可能性を考えてたとしても対応出来るなんてありえなくない?仮に考えてたとしてもどのタイミングで使ってくるか分からないなら無意味じゃん」
「いいや、オマエの考え方が単純だから可能性さえ頭に入れておけばよかった。オレが今相手にしているのは成長の天才や魔人の王、最狂の剣士でも最強の覇王でもなく呪具に頼るような凡才だからな」
「……は?何それ?私は道に転がってる石って言いたいわけ?」
「石?いいや、そんな風にも思っていない」
「じゃあ……
「オマエは蟻以下で『あぁ、何かあったかな?』くらいで忘れ去られるような存在だ。己を知れよガスコンロ女が」
「は……?アンタ……私をそんな風に見てたのか!!」
タクトの相手を蔑む乱暴な言葉に怒りを抑えられずそれを爆発させるように叫ぶキャンティア。
彼女の怒りを表すかのように彼女が纏う闇と炎はその力を高め、背に纏われる蝶の羽の形をした力も大きくなっていく。
敵の力が高まる。そんな中でタクトは……
異常なまでに落ち着いていた。
「……ガイやノアルはそれっぽく苦戦してたみたいだけどオレは容赦しない。ここで敵に情けをかけるような事したら……オレの新しい指導担当のアイツに怒られる」




