1028話 無垢な賭け
思わぬ形での決着となったノアルと打剛の戦い。
無駄にしか思えなかった攻撃を続けていたノアルへ軍配が上げられる形での幕引きとなり、敵を倒したノアルは一息をつくように纏っていた力を静かに消すと《スピリット・ライズ》の変身を解き始めた。
「……はぁ……」
敵を倒した安心からかノアルは軽く息を吐き、彼は倒れた敵に目を向ける事もなく無事を祈り待ってくれている者のもとへ向かおうと歩き始めた。
敵を倒し安堵したが故の判断、そんな彼の戦いを観戦していたガイは彼がこちらへ来るなり先程の戦いでの無謀とも言えてしまえる判断に関して色々と尋ねた。
「一応聞きたいんだが、どうしてあんな乱暴なやり方を?今までのノアルでは考えられないやり方で驚かされたが……」
「さっきのは……オレなりに考え抜いた最善策だった」
「最善策にしてはかなり派手に浪費してなかったか?敵が伏兵隠してる可能性もあるのに……」
「まずは目の前の敵って風に考えしかなかった。そこは反省点だと思う。その上で……オレはアイツを倒す最善策としてあの攻撃を実行した」
「……実行した経緯を聞かせてくれるか?」
「もちろん、そのつもりだ。あの男は硬質化による自動防御と防御に際して生じる衝撃の蓄積・強化を兼ね備えていた。それをハッキリさせた中であの男は自身の力を完全無欠だと語った」
「見聞きしてたからそこは把握してる。ただ、ノアルの攻撃を防御してその衝撃を攻撃力に変換する相手に乱暴に砲撃をぶつけ続けていた理由が知りたい」
「あぁ、それはあの男を油断させるためだ」
「油断?」
「東雲、私にも聞かせたまえ」
ガイの質問に対して相手を油断させるためと答えたノアル。彼の答えが意外でしかなかったガイが聞き返すと同じように気になったであろうシャウロンが話に入ろうとし、ケンゴやハルキ、そしてユリナたちも彼の話を聞こうと興味を向けていた。
ガイだけでなくシャウロンや他の者たちの興味が向けられる中、ノアルは別に困惑する事もなく当たり前のように話の続きを語り始めた。
「あの男が完全無欠と口にした時、あの男が見落としている要素があると考えた。ただ、あの男が見落としている要素が何かまでは見当もついてなかった……だからいくつかの可能性に賭けて攻撃を続けたんだ」
「その可能性ってのは?」
「自動防御の限界と衝撃蓄積の限界、そしてあの男の肉体の限界。この3つのどれかが先に訪れる可能性に賭けたんだ」
「たしかに能力を際限無しに発揮するのは無理があるってのは理解出来るけど……だとしてもあの短時間の会話で判明した事に対してそこまでリスキーな事を実行しようと思えたのか?」
「リスキー……?その言葉がどういう意味か分からないんだが、能力発動による限界到達についてはオレが最近経験させられたからな」
「最近……?」
「もしかしてノアルさん……その装甲を獲得された際のあの戦いでの事を言ってるんですか!?」
ノアルの言う能力発動による限界到達、その経験がいつの話なのかガイが分からずにいるとケンゴは驚きを感じさせる勢いで尋ね、ケンゴの言葉にノアルは言葉を発せず静かに頷いた。
ケンゴの言う『あの戦い』、それはノアルが《スピリット・ライズ》の追加装甲を得るきっかけとなった先日の四条貴虎との戦いの事だ。
その事を踏まえ、ノアルはその時得た自身の経験を交えて今回の判断について詳細を明かした。
「あの戦い……四条貴虎との戦いの中でオレは《スピリット・ライズ》の追加装甲を得て戦いのバリエーションを増やす事に成功した。ただ、追加装甲を得てすぐの時は消耗とかエネルギー効率とか理解出来ず追加装甲の可変を繰り返し行ってしまい、結果としてオレは過負荷を招き戦闘の継続が難しい状態に陥ってしまった」
「話には聞いてるから知ってる。四条貴虎相手に多彩な攻撃を仕掛けられるようになった反面、新しい力を得た勢いに任せて出し惜しみ無しに攻め続けてたなら仕方な……ってまさか、自分の経験した過負荷による継戦能力の断絶を相手に引き起こそうとしたのか?」
「そのまさかだガイ。完全無欠と豪語してもそれを実行してるのは能力とそれを有する人間、となれば必ず限界はある。さっき挙げた3つのどれかが当てはまればいいって言うのはそのどれかの限界到達による過負荷が起きればあの男の言っていた完全無欠の力など無いと立証出来ると思った。だからオレは砲撃を止めずに撃ち続けたんだ」
「マジか……あの少ない情報で能力を見抜いただけじゃなくて突破口を見つけようとしてたのか」
「滅茶苦茶だな……。東雲の言いたい事はよく分かったがキミが挙げた3つの可能性とその限界到達が外れた場合の策はあったのか?」
打剛を倒すために無意味と思われても仕方のない連続砲撃を止めなかった意図を語ったノアルのその考えに驚かされるガイ。一方でシャウロンは彼の挙げた可能性とその要素が全て的外れに終わった際の対策はあったのかを尋ね、最悪の場合を想定していたかを尋ねているとも取れるシャウロンのそれに対してノアルは考えがあったらしく頷くとそれについても話した。
「今話したもの全てが単なる賭けで終わった時はオレの魔人の力の可能性に賭けるしかなかった。追加装甲はオレの魔人としての変身能力の可能性を引き出すための『破壊』であり、ソラの炎熱やナギトの烈風のような攻撃的なものとは違う……だからそこに賭けるつもりだった」
「って、アンタはそんなギャンブルみたいな事実行しようとしてたわけ!?」
「流石に危険すぎよノアル。相手の限界が先に来たから良かったけど……」
「心配かけてすまないアキナ、ユキナ。ただ……不確かな要素に賭けるくらいの度胸とそれを掴む運が無いとこの先の戦いに適応するための進化を起こせない気がして、危険な賭けに手を出す他なかったんだ」
「結果が全て、とは言い切らないが博打も程々にしとけよノアル。でないと……」
ノアルの敵を倒すための『賭け』を無謀だとして彼の危なっかしさにアキナとユキナが不安を隠せなくなり、彼女たちに心配をかけたとしてノアルが謝罪するとガイは無謀な博打は控えるよう念押ししようとした。
……のだが、ガイの言葉を遮るかのように無数の火球が天から降ってきてガイたちに襲いかかろうとした。
「「!!」」
降り迫ってくる無数の火球に対してガイとノアルは対応するへく身構えようとするが、そんな2人よりも速く対応しようとタクトが彼らの前に颯爽と現れると弓の武器・流蓮弓を構えると水流の矢を乱射させて迫って来る火球全てを撃ち抜き爆ぜさせる事で危機を回避させた。
「タクト!!」
「悪い、余計な手間かけそうになった」
「……いいや、間に合ったから大丈夫だ。それより敵は?」
あそこだ、とガイに敵の行方を尋ねられたタクトは天を指さし、タクトの指さした先にガイたちが視線を向けるとそこには宙に立つ敵の女……キャンティアがいた。
「あーあ、もう少しで何もかも消し飛ばせたのに……邪魔すんなし」
「御託はいいから降りて来いよアバズレ。ガイとノアルの次はオレがオマエをボコボコにしてやるよ」
見下すように宙に立つキャンティアと敵を睨み乱暴な言葉で煽るタクト。
ガイとノアルが無事に敵を倒し終えた今、次なる勝者に成るべくやる気を見せるタクト。対するキャンティアは……
笑みを浮かべていた。




