1027話 完璧無敵の否定
ノアルと打剛、2人の戦いは意外にも進展がなかった。
両腕をキャノン砲に変えて遠距離攻撃主体の状態となったノアルは紫色の炎の砲撃を放ち敵を幾度と攻撃する。
だが、『攻撃命中時に直撃箇所が硬質化を引き起こす事で自動的に防御を行なう』『硬質化で防御した攻撃の衝撃を呪具が力として蓄積させる』という2つの要素を兼ね備えている打剛は当然の事ながら正面から受け止めて防御を成功させると砲撃の着弾に伴う衝撃を大槌の呪具へと蓄積させて力を高めさせていた。
結果を見れば打剛への砲撃は有効ではなくノアルが不利になるだけ……という事実が誰の目から見ても分かりやすい現状であり、当然有効打にならないなら砲撃など中止するべきだった。
が、ノアルは何故か敵に向けてひたすらに砲撃を撃ち続けていた。
硬質化による自動防御、自動防御時の衝撃吸収とエネルギー蓄積の両立を可能とした力と武器の組み合わせを有する敵に対して無策な攻撃・無謀な行動ほ命取りでしかない。だが、それを理解しているであろうノアルは砲撃の手を緩めない。それどころか脚部の追加装甲にスラスターを構築させてホバー走行を行いながら敵に迫ろうとしていた。
無意味としか言いようのない連続砲撃を続けるノアルと砲撃しながらの接近。彼のこの謎の行動に対して打剛は自らの自慢の硬質化を伴う部分的な瞬間硬化による自動防御を見せつけるように全て受け止め、その際に生じる衝撃を無力化して大槌の呪具の『墜厳』にエネルギーとして蓄積させていた。
ノアルの連続砲撃、敵からしたら自動防御で対処出来る上に大槌の威力増強を狙ったエネルギー蓄積を成立させられる好都合なものだ。
敵が有利になるだけでノアルには不利しかない状況。にもかかわらずノアルは連続砲撃を止めない。
彼の目的も狙いも分からない中、打剛は迫ってくるノアルを迎撃しようと動きを見せた。
「観察眼と洞察力は立派だったが判断力は猿以下だな。そんなに叩き潰されたいなら……お望み通りに潰してやるよ!!」
彼の行動を愚行と見なし、自らの力を見せつけるべく打剛は大槌を握る手に力を入れ地を強く踏み込むと勢いよく振り上げ、振り上げた大槌から闇を強く放出させると迫ってくるノアルを叩き潰すべく闇の放出に伴う勢いの発生を乗せて勢いよく振り下ろした。
戦闘における強化状態が好都合な状態にある打剛はそんな状態に成らせたノアルを粉砕しようと大槌を強く勢いよく振り下ろすが、打剛が大槌を勢いよく振り下ろす瞬間にノアルはスラスターの噴射を急激に高めさせる。
スラスターの噴射量を急激に高めた事でホバー走行はスラスターによる滑空に移行し、それによって飛行状態となり、さらにノアルは脚部の追加装甲のスラスターを器用に可動させる事で後方へ大きく飛んでみせる。
ノアルの行動の転換に対して打剛の攻撃は中断出来る余裕はなく勢いよく地に叩きつけられ、ノアルに回避されるも大地を殴打した大槌は衝撃を炸裂させて大地に亀裂を走らせ大きく震撼させる。
「「きゃぁぁあ!!」」
打剛の大地への大槌の一撃とそれによる衝撃と震撼は周囲に大きく響いてしまい、震撼の影響は後方で見守るエレナやユリナたちを襲い彼女たちに悲鳴を発させる。
彼女たちを守るシャウロンやケンゴは何とか耐え、戦いを見届けるガイは当然ながら平然と立っていた。
後方への影響を及ぼすだけの力を発揮した打剛。その一撃は先程の連続砲撃による効果が敵にとって優位になっているだけだと証明したも同然だった。
だが、この証明を前にしてもノアルは……
「当たらなければどうって事はない」
大槌の一撃の直撃を回避したノアルはスラスターによる飛行で打剛の左翼方向に移動を開始し、さらにノアルは打剛の左翼方向に回り込もうとしながらキャノン砲による連続砲撃を再開し始めた。
「あぁん!?んなもん、オレの得にしかならねぇんだぞ!!」
ノアルに対しては無意味な結果しかないと証明されたはずの連続砲撃が再開された事が不可解でしかない打剛は意図が分からないとはいえ自分にとっては都合がいいとして避けずに全て直撃で受け止め硬質化による自動防御で処理していく。
連続砲撃を再開したノアルは打剛が回避せずに受け止める中で飛行を止めて追加装甲のスラスターを別のものへ可変させ、そして……
追加装甲のスラスターから新たに脚部へ形成されたミサイルポッドを展開させると小型のミサイル状の白い雷を無数に乱射して連続砲撃と合わせて打剛へ直撃させてみせた。
キャノン砲による連続砲撃と脚部のミサイルポッドからの小型のミサイル状の白い雷の乱射。双方を自らのメリットのために直撃で受け止め続ける打剛。
敵の能力により全ての直撃に対する自動防御は滞りなく成立し、その成立に伴い大槌の呪具の『墜厳』は先程の一撃を超えるエネルギーを蓄積させていく。
「学習能力ねぇのか!?そんな事しても無駄って理解しろよ!!」
「理解している。だからやる」
ノアルの攻撃全ては無駄、その証明の一撃を見せた打剛はこれ以上は彼にとっては無駄だと思い知るように告げる。が、ノアルは打剛からの忠告の内容を理解しているが故にやっていると告げると背面のエネルギーのマントを形成する装甲を肩部に移設させると可変を引き起こさせる事で大型キャノン砲を完成させる。
肩部に大型キャノン砲を完成させたノアルはそこへ紫色の炎と青い風をエネルギーとして蓄積・装填を開始させ、大型キャノン砲の照準を敵へ定めるとノアルは連続砲撃とミサイルの乱射と同時に大型キャノン砲から強力なビーム掃射を実行した。
3種の攻撃は打剛へと迫り当然のように直撃して大きな爆発を引き起こし爆煙の中へと敵を誘う。だが、この直撃すら自動防御を成立させて事なきを得た打剛は爆煙を吹き飛ばす勢いで闇を纏いながら現れ、現れた敵はこの攻撃による衝撃で得たエネルギーの蓄積をもって極限まで力を高められた『墜厳』で一撃を叩き込もうとノアルへ接近しようとした。
「理解しながらも止められねぇなら仕方ねぇ!!オマエの選択した行動が如何に愚かだったかをこの一撃で思い知れ!!」
ノアルを倒すため、敵の力を知りながらの彼の愚行により高められた力をもって勝負を決めようと大槌を強く握り動く打剛。
ノアルへ一撃を叩き込むべく迫る中で大槌を勢いよく振り上げ、そして大槌を振り下ろし叩き込めるであろう間合いとタイミングが重なった瞬間に打剛は地を強く踏み込もうとした。
まさにその時だった。
地を強く踏み込み一撃を叩き込もうとした打剛が大槌に更なる力を加えようと強く握り込むと敵の全身に強い衝撃が駆け抜け、それを境に敵の全身が血を流す。
さらに打剛は強く吐血し、それによって力が抜けたのか振り上げた大槌を構えていた体勢が崩れてしまう。
「な……にぃ……!?」
「完全無欠の力なんて存在しない。オマエにも穴はある、そこを狙わせてもらった」
突然の事、自身の身に襲いかかった事態を飲み込めない打剛の動揺に対してノアルは見通していたように語る中で可変させていた全ての追加装甲を元の状態へ復元させながら紫色の炎、白い雷、青い風の3種の力の竜を纏いながら高く飛び上がる、
そして……
「これで……決める!!」
決着をつける、その意向をノアルが叫ぶと3種の力の竜が雄叫びを上げながら駆け出して打剛へ襲いかかり、3種の力の竜に襲われる打剛が何も出来ず攻撃を受ける中でノアルは強いエネルギーの力を纏って敵へ迫るように急降下するとその勢いと共に突進を行い一撃を叩き込んでみせた。
「トリニティ・ザ……インパクトダイヴ!!」
勢いをつけた突進、急降下に伴うその勢いのもたらす力は凄まじく打剛が纏っていた闇を吹き飛ばした上で衝撃を打ち込み、3種の力の竜が1つとなりノアルに重なると敵は更なる衝撃に襲われながら吹き飛ばされていく。
「あぁぁぁぁあ!!」
ノアルの一撃を受け吹き飛ばされた打剛は負傷して勢いよく倒れ、打剛が倒れると3種の力の竜はノアルの中へと消え、ノアルは静かに着地を決めて敵へ背を向ける。
「……これが守るための戦い、そのための力だ」




