1026話 対立の思想
譲れぬ誇りと勝ち取りたい誉のために本格的な戦いに突入するノアルと打剛。
呪具の力を解放し闇を纏うだけではなく両腕を変異させた打剛は機動力の上昇も行われたのか素早い動きでノアルに迫ろうとしていた。
が、対するノアルには敵の機動力の上昇など意に介すものではなかった。
ノアルは両脚に施された《スピリット・ライズ》の追加装甲を展開・可変させる事で両脚に大型スラスターを出現させ、大型スラスターを得たノアルは紫色の炎を強く噴射させると一瞬で超速に達してみせる。
超速に達したノアルは打剛に迫る中で数度の牽制を入れるような動きを取り、打剛が数度の牽制の何れにも対応出来るように足を止めようとするとノアルはそれを待っていたのか数度の牽制に対応しようとする打剛の背後へと瞬時に回り込んでみせた。
「こいつ、奇怪な……
「はっ!!」
背後へと瞬時に回り込んだノアルのその動きを察知した打剛は地を強く踏み込み体を捻り込んで大槌を振ろうとする。
が、打剛が体を捻り大槌を振ろうとするよりも先にノアルは右腕の追加装甲を可変させて大型クローを形成させて一撃を喰らわせようと斬りかかった。
ノアルの超速に反応して対応しようとする打剛よりも動きが速いノアルの大型クローは敵の放とうとする攻撃を上回る速度で命中する。攻撃を放とうとしていた打剛に防御の術を用意する余裕なんてなかったのかノアルの攻撃は妨げもなく綺麗に敵の肉を抉ろうとした。
だが……
ノアルの大型クローの刃は打剛の体に命中して肉を抉ろうとした瞬間、大型クローが命中した打剛の体が鈍い音を反響させながらノアルの爪を弾いてしまう。
「なっ……」
一撃が決まる、確実に決まると確信していたが故の予期せぬ結果に困惑を隠せないノアル。
そのノアルの困惑を期待していたであろう不敵な笑みを浮かべる打剛は纏う闇のその力を強くさせながら大槌を素早く振り抜くとノアルに命中させ、大槌の命中により強い衝撃が装甲を貫通する勢いで駆け抜けていく中でノアルは殴り飛ばされてしまう。
大槌の一撃を叩き込まれ殴れ飛ばされたノアルは1度地に叩きつけられてしまうも両脚の大型スラスターを強く噴射させる形で勢いを殺しながら受け身を取り着地を決めてみせた。
着地を決めたノアルは右腕と両脚の追加装甲の可変を解いて元に戻していき、追加装甲を元に戻したノアルは次の可変に備えようとする中で攻撃が命中した瞬間に起きた事象について整理しようとした。
「さっきのは……」
(オレの大型クローの爪は命中した。その上で敵を仕留めようとしたが……爪が弾かれ敵は無傷で事なきを得ている。弾かれた……ってのが謎だな。アイツは反応した上で体を捻じる……つまりは回転を伴う動作を介した攻撃を放とうとしていた。可能性として全身鋼鉄化が考えられるがその場合身体機能は制限されるはずだ。可動部の簡略化、動作の鈍化といったデメリットがある事を視野に入れた上であの動きと反撃を可能にしたのは一体……)
何故自身の攻撃が弾かれ不発に終わったのか、その原因について思考するノアル。
可能性として1つの要素を見出すもデメリットがある旨を考慮するとなかなか結論が出せなくなってしまうノアル。天才と最強、その両立を可能とした覇王と成っているヒロムとその両立を可能とした覇王を超えようと最強に成る道を進み始めたガイ……2人の仲間のように分析するもまとめられないノアル。
その時だった。
「外部からの攻撃を……衝撃と紐付け……吸収……」
デメリットという思考のノイズに邪魔されるノアルは何かに気づくとそれを呟く。
その瞬間、ノアルの中の思考のノイズが全て晴れ、ノイズが晴れた中で思考するノアルは考えをまとめる中で敵の言葉を1つ思い出していた。そして、その言葉が彼の思考を完結に導かせた。
『正面から叩き潰す、これが最高に心躍るんだよ』
「そうか……なるほど。それがオマエの呪具の……いや、オマエの力か」
「おおん?」
「オマエの力、それは硬質化がメインだろ?」
「あぁん?残念だが不正解だな。オレの力が硬質化とやらならオレのこの腕の変化はどう説明すんだ?」
「いや、言ったろ?オマエの力は硬質化が『メイン』だろってな」
「……何?」
「オマエの力の根本的な部分にあるのは硬質化、だがそれを常に発動させているわけじゃない。硬質化の力の素となるエネルギーは体内を巡り続けているはずだ。何も無ければそのエネルギーが循環して身体機能強化として作用するんだろう。ただ……条件が満たされた時に硬質化が発揮される」
「ほぅほぅ……それで?」
「体内を循環するエネルギーは外部からの攻撃を受けた際、攻撃を受けた点においてエネルギーは効力を発現させて硬質化を引き起こす。全体的ではなく部分的の発動という形、それならば攻撃を中断せずとも自動防御が成立する。だからオマエはオレの動きに対して無防備を晒しながら攻撃一点に集中出来た……そうだよな?」
「ふっ……思ったより優秀な観察眼を持ってるらしいな」
「ついでにそのハンマー、そいつは衝撃……つまりは外部からのオマエへの攻撃に対する効力を持つんだろ?オマエの硬質化で防いだ攻撃が発生させる力をその変異した両腕が伝達させて打撃を強化してるんだろ?さっきのあの一撃、オレの攻撃を弾くって妨害を受けてあの威力を瞬間で叩き出せたのはそういう事じゃないのか?」
「……おいおい、そこまで見抜くのか。マジか……ハハハハハ!!オマエ、最っ高に面白いな!!」
打剛の力についての推察を口にするノアル。彼の語った言葉に驚かされ、そして同時に彼の観察眼と洞察力の高さに心躍らせる打剛は大きな喜びと共に満面の笑みを見せる。ノアルの推察が的を得ていたのか、それとも彼の観察眼と洞察力が導き出した答えがおかしかったのか……おそらく敵の反応からして前者なのは間違いないのだが、ノアルからすると敵のこの反応は予想外でしかなかった。
「……何がおかしい?」
「おかしい?いいや、嬉しいんだよ!!オマエはこれまで潰してきた自惚れ共とは大きく異なる強者……オレが求めていたものだったと分かったんだ!!これが喜ばずにはいられねぇってもんだろ!!」
「強気な相手を潰すだけじゃなく真の強者との戦いをも求めている……という事か。そうか、オレはオマエの考える『強者』と認識されたというわけなんだな。だが……迷惑だ」
打剛の態度と理解出来ない反応を前にしたノアルはそれを迷惑だと拒絶し、敵の快楽の対象とされる事を快く思わない彼は両腕の追加装甲を2問の銃口を有したキャノン砲に変化させ、左右計4問の銃口を形成したノアルは打剛へと照準を合わせていく。
そして……
「オマエに如何なる力と思想があろうと関係ない。オレはオマエを倒して終わらせる。オマエの求めるものを壊してでも……オレは守るために終わらせる」
「やれるもんならやってみな!!オレの力と『墜厳』の組み合わせは完全無欠、オマエには壊せねぇって証明してやるよ!!」
「完全無欠?なら、そんなものは無いと証明してやる。それがまやかしだと……思い知れ!!」
打剛の力を見抜き敵を倒すためにやる気を見せるノアルと彼に力について見抜かれるも強者として彼を潰す気しかない打剛。
自らの力と大槌の呪具が揃った今を完全無欠だと豪語する打剛。その言葉を否定するため、ノアルは完全無欠などない事を示そうとやる気を漲らせる。
守るための戦いをする者と破壊を快楽として求める者、果たして勝つのは……!?




