1025話 理解不能な美学
朧波をわざと生かす形で倒したガイを狙って迫る打剛。
その打剛のガイへの接近を妨害、そして自身が打剛を倒すべくノアルは守護の魔人の力である《スピリット・ライズ》による黒鬼の騎士の姿で構え、四条貴虎との戦いで新たに会得した白い追加装甲を携えた状態で闇を纏おうとした。
「おう?変身野郎、追いついて来たのか?」
「あれで振り切ったつもりか。だとしたら笑えない、オレじゃ相手にならないとでも言いたいのか?」
「気を悪くすんなよ魔人の能力者。オレは別にオマエをスルーした気はねぇよ。ただオレはオッサンの尻拭いのついでに自分の株上げたいだけ……そこの剣士野郎と変身野郎の2人を倒して出世したいってだけだ」
「手柄……か。2人分の手柄を得るためってのは理解したが、それでもオレを後回しにしてガイを狙おうとしたのは事実だろ」
「言えてるな。まぁ、気ぃ悪くすんなって。オマエが邪魔しに来たんだから後回しにならずに済んだんだからよ」
「物は言いようだな。まったく……」
少し前まで対峙していたと思われる会話をするノアルと打剛。
ガイを狙って動いた打剛は単純に彼に倒された朧波の不始末を引き受ける形で彼を倒した上でノアルを倒す事で成果を上げるという欲張った本音を明かす。
だが敵の本音を聞いても興味の無いノアルは敵が自分を後回しにしてガイを優先した事実を返し、ノアルの発言に対して打剛は上手く言葉を並べてスルーしようとしかしなかった。
やる気があるのか適当なのか分からない言動の打剛に呆れるしかないノアル。そんなノアルの介入により打剛の迎撃をせずに済んだガイは咳払いをすると《煌翼甲》の翼型の鞘とそれに納刀された霊刀を蒼炎に変えながら消していく。
武装解除と戦闘放棄、傍から見ればそうとしか見えないガイの行動。ただ、ガイのこの行動をノアルは単なる武装解除と戦闘放棄として捉えてはいなかった。
「ガイ、大丈夫か?」
「大丈夫……ってのは?」
「さっきの武装、消耗が激しいんじゃないのか?今消したのは消耗を抑え……
「いや、《煌翼甲》は最小限の消耗しかしないからそういう心配はしなくて大丈夫だ。今オレが《煌翼甲》を解いたのはノアルの真剣勝負に余計な事をしたくないってだけ。ノアルも嫌だろ?オレが手出し可能な状態で後ろにいるのはさ」
「たしかに……色々言ってもいいなら、あのサングラスの男の相手は信頼して任せて欲しいという思いはある」
「さ、サングラス……アフロの方には触れないんだな」
「何か変か?」
「いいや、相変わらずって感じで安心した。今のノアルなら安心して真剣勝負を見届けられる。だから……オレに今のオマエの本気を見せてくれ」
「なるほど……オレはガイが強くなるための知識を得る材料というわけか。なら、下手な戦いは出来ないな」
アフロにサングラスという目立つ特徴しかない打剛のアフロに何故か触れないノアルのマイペースさにいつも通りの彼の雰囲気を感じ取れたガイは平常運転の彼ならば何の心配もないとして打剛の相手を任せ、その上で彼はノアルの本気が見れる事を期待していた。
ガイが敵がいる状況下で敢えて武装解除を選択した理由、その意図を聞かされたノアルは彼なりの目的と理由がある旨を理解した上で相応の成果を示さなければいけないと気を引き締めようとしていた。
この2人の会話は当然の事だが打剛に筒抜けだ。
会話の内容からして格下に見られていると解釈されてもおかしくないのだが、会話を耳にしていた打剛は会話が終わったであろう空気を察すると大槌を振り上げるように構え直すと嬉しそうな笑みをノアルへ見せた。
何故か笑みを見せるのか、敵の行動が理解出来ないノアルが不思議に感じようとしているとそれを見抜いたかのように打剛は自身の笑みの理由に繋がるないようにを語り始めた。
「不思議だよな、オレの反応。オレ個人の考えを知らないオマエからしたら不気味でしかないよな?」
「オマエ独自の理論があるという事か。それなら聞かせろ、オマエのその笑みの理由を」
「おうよ、聞かせてやるよ。オレはな……強気なやつを叩き潰すのが楽しみで仕方ないんだよ!!」
「……それだけなのか?」
「それだけ!?おいおい、これはかなり重要な理由だぜ?オマエらが覇王のような強さを手に入れるために我武者羅になろうとしてるようにオレは自分の実力を示す術として強気になってるやつの何もかもをまとめて潰す事にしてるんだよ。強いと思い込んでるやつ、勝てると思い込んでるやつ、そして……オマエみたいに誰かの期待に応えようと意気込むやつを正面から叩き潰す、これが最高に心躍るんだよ」
「なるほど、そういう事か」
「おう?ようやく理解して……
「要するにオマエは相手の心を踏み躙る事でしか強さを実感出来ないやつだと理解出来た。そして……オマエとオレのどちらかが倒れない限りエレナたちが安心出来ない事もな」
「……はぁ、んだそりゃ」
自らの理論……いや戦いにおける美学を語る打剛。相手の強さに対しての考え方の否定とも言えるその内容に対して聞かされたノアルは理解を示した。
理解された事が意外だったのか少し意外そうなトーンで打剛が語り掛けようとするとそれを遮るようにノアルは真剣な口調で敵の美学を否定、そして彼は敵を倒さなければ後方にいるエレナやユリナたちを安心させられないと明確な敵意を示した。
理解してくれた……と内心喜んでいた打剛はノアルがあまりにも見当違いな反応をした事に落胆しため息をつき、ため息をついた打剛は装備する大槌を強く握ると彼に向けて殺気を飛ばし始めた。
そして……
「……呪具解放、『墜厳』っ!!」
ノアルの敵意に応じるかのように、噛み締めるかのように発せられた言葉をきっかけに打剛の全身が闇を纏い始め、闇を纏った打剛のサングラスに妖しい光が反射すると彼の両腕は堅牢な殻に覆われたような異質なものへ変異を遂げていく。
「アレがあの男の呪具の……」
「ガイが倒した男は痣だけだったがオマエは腕を変化させるのか。だが……変わらないものもある」
闇を纏うだけでなく腕を変異させた打剛。朧波を倒したガイはもちろんの事、朧波の変化を見てい認識していたらしいノアルも敵に起きた変化に差異がある事の認識を終えていた。
呪具の力、未知数としか言えない相手の武器がもたらす持ち主に対する変化。未知数が故に全容を把握するのは不可能だ。
だが……それでもノアルは1つの決定的な要素があると考えていた。
「変化の在り方に差異があれどオマエを倒せば万事解決する事だ。臆する理由は無い……オマエに勝つ、その結果さえ掴めれば事足りる!!」
「いいねいいねぇ……!!そういう強気な姿勢、叩き潰しがいがあるってもんだぜ!!」
「潰せるなら潰してみろ……『守護の魔人』、この名を冠するオレの誇りと力を!!」
呪具の力による変化を遂げた打剛を前にしても臆せず勝利を掴むために果敢に挑む姿勢を見せるノアルとそれを良きとして潰す事に心躍らせる打剛。
譲れぬものを抱き、手に入れたいものを掴み取るために戦に臨もうとする2人の闘志がぶつかり合い、そして……
2人は相手を潰すべく駆け出した。




