1024話 進化の躍進
何が起きたか分からない。
一時は敵の無差別に等しい勢いで放たれた斬撃が迫り来る危機に瀕するのではないかとユリナたちが身の危険を感じていたのも束の間、彼女たちが気がついた時には敵の放った斬撃は消えており、いつの間にか目の前に立っていたガイが霊刀を抜き敵を倒していたのだった
「え?え……?」
「今……何が起きたの……?」
目の前で起きた事が理解できないユリナたち。とくにガイの剣術を何度も目にした事のあるユリナやアキナは目の前で起きたであろう事への認識とその理解が追いつかなかった。
いや、2人だけではない。おそらく非戦闘員、民間人という庇護の対象として認識されている後方待機させられている彼女たち全員がガイの起こした全てを認識出来ていなかった。
何が起きたのか?いや、何かが起きた。その事実しか分からないユリナたちが言葉を奪われる一方、彼女たちの護衛を任され戦いを見届けていたケンゴは彼女たちと同じ反応を見せるしかなかった。
「え?え?……シャウロンさん!?今何が起きたんですか!?」
ガイが敵を倒した、ほの事実だけは理解してるのだろう。
だがガイが如何にして敵を倒したのか理解が追いつかないケンゴは起きた事を把握したいが故にシャウロンに尋ねるしかなかった。
《センチネル・ガーディアン》という日本の防衛戦力という大きなカテゴリーの枠組みの中へ入れられている事により一分野で秀でていると証明されている彼に説明を求めるのが賢明と判断したのだろう。
が、ケンゴのアテは大きく外れる。
ケンゴに何が起きたのかを尋ねられ、説明を求められるシャウロンだったが……
そのシャウロンも半信半疑という状態でガイを見ることしか出来なかった。
「……深海弟よ、心して聞いてほしい。今の雨月の抜刀術を……私は視認出来ていない」
「……えぇ!?シャ、シャウロンさんでも見えなかったって事ですか!?」
「そういう事になる。というより……アレを抜刀術と呼んでいいのかすら怪しく思っている」
(姫神や黒川から雨月の剣術の凄さは聞かされていた。単純な技術ならば《天獄》で1番……型無しの乱暴な剣技の鬼月や高度な戦闘センスから成されるハイセンスの技を駆使する姫神には無い圧倒的な技術がそこにあると黒川は絶賛していたが、姫乙女学院で目にした彼の剣術は今のようなものは……)
「前に見てたのは天才剣士としてのオレの技、今のは能力者雨月ガイの技だ」
目の前で起きたことが自身の把握している『雨月ガイ』の情報と異なる事態に理解はもちろん思考の整理もつかないシャウロンの頭の中を覗いたかのように彼に話し掛けるガイ。
彼に対してどこか似たような言い回しで簡潔に伝えたガイは続けて今の自分の剣術……とくに、翼型の鞘を出現させてからの自分の状態について語り始めた。
「《煌翼甲》、オレがその名を与えたコレはオレの内包する霊刀と同数の鞘となる機能と天霊の力たる光の翼の発動を同時に行うだけでなく、剣術主体だったオレの戦いを能力者として進化させる役目を担ってくれている」
「能力者として進化させる?それは能力の各生徒は異なるのか?」
「戦い方を根底から覆す、てニュアンスが正しいかもな。今までのオレは幼少期の天才剣士の300人斬りを披露した剣術家としての才能を振るってただけだった。覚醒して《斬皇》と成った《修羅》の頃から扱えてる蒼炎も単に霊刀に纏わせていただけ……オレ自身は能力者としてちゃんと立ち振る舞えてなかった」
「だが現にキミは《天獄》の能力者として姫神たちと……
「たしかにこれまでは戦えてはいた。けど、これから先を見据えるのなら足りないって実感させられる事が短期間に起きてくれたおかげで進化する必要性を見い出せた」
新たな武装について語る中でそれを誕生させた経緯をシャウロンに語るガイ。
彼の脳裏には《デスティニー・アライブ》を発現させたヒロムや《ブレイヴ・リンク》や《破壊修正》を体得したタクト、守護の魔人として新たな力を得たノアル、そして幻霊の王として覚醒したイクトの姿が浮かんでいた。
彼は今脳裏に浮かんでいるヒロムたちの事を触れるように……いや、以前自身に向けて告げられたヒロムの言葉について言及するように話の続きを語った。
「さっさと追いつけ、なんてふざけたお膳立てされて《斬閃》を掴まされたからな……オレもそれなりのプライトがある、だからこそオレは剣士としての全てを壊してでも能力者として進化と覚醒を成す事にした。試行錯誤の果てに剣士としての進化と能力者としての戦闘能力の拡張を両立させる結論に辿り着いてこの《煌翼甲》の完成に至った」
「剣士としての全てを……」
「単なる技の強化じゃ無意味だと思ったんだ。因子の力に適応して自分を壊してるアイツはともかく困難をも壊し進化する天才やら既存の力の在り方すら壊して進化する化け物がいる現状でオレの才覚を圧倒的なものと誇示するには根本を変える他なかったからな。まぁ、今回の戦いでオレの力を示す事に成功出来た」
「先程の敵を倒した最後の一撃、アレもキミの言う剣士としての進化と能力者としての戦闘能力の拡張の1つなのかい?」
「あぁ、剣術を活かす……とくにオレが得意としてる抜刀術を活かす事に重点を置いて《煌翼甲》と霊刀、そしてオレの力を連鎖させる事で生み出した神速の抜刀術、『夜叉閃煌』だ。夜叉殺し……少し前までは持ち技みたいに使ってたそれを今一度オレの技として活かすために昇華させたんだ」
「神速の抜刀術……」
「おいおい、ナメられたもんだな……クソガキ……」
シャウロンに自身の新たな力とそれを手に入れた経緯と考えを語るガイ。そのガイが語る話を聞いていただろう倒れたはずの朧波は体を起き上がらせ、ガイの話を聞いていた敵は何やらガイに呆れたような反応を見せた。
「一撃決めて勝った気になってベラベラ手のうち明かしてよ……色々語るんなら敵殺してからにしろや……」
「あの男、まだ……」
「気にするなシャウロン。虫の息でもいいから存命してくれてなきゃオレとしては意味ないからな」
「え?雨月?」
「クソガキ、どういう……
「屈辱的だろ?1度は追い詰めた相手に完膚なきまでに斬られ倒されるのはオマエのプライドにも相当の傷がついただろ?」
「クソガキ、オマエ……!!」
「まぁ、屈辱的かどうかとかプライドが傷ついたとかどうでもいい。オマエに生きててもらわなきゃならないのはオマエのその呪具をつくったであろうクソ野郎とその裏にいるであろう八雲の野郎への伝言をさせるためだ」
「伝言、だと?」
「あぁ、生きて帰って伝えろ。『覇王だけが最強だと思うな。オマエらは最強に至ったオレが斬り潰してやる』ってな」
「ふざけ……
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇか、剣士野郎!!」
伝言役のため、そのためだけに朧波には存命してもらわなければ困ると語ったガイが伝言となる内容を告げ、伝言役のために生かされたという事実を突きつけられた朧波は怒りを隠せなかった。
が、その朧波の怒りを吹き飛ばすかの如く、倒れた彼からガイという標的を奪い取るかのように闇を纏わせた大槌を装備した打剛が向かってくる。
向かってくるなら迎え撃つしかない。
迫って来る打剛を倒すべくガイは6つの翼型の鞘である《煌翼甲》を展開し構えようとする、が……
「そうはさせない!!」
ガイが打剛を迎え撃つためにと構えようとする中で闇と共にノアルが彼の前に現れ、現れたノアルは《スピリット・ライズ》の力を纏った黒鬼の騎士の姿で打剛を迎え撃とうと構えた。
「オマエの相手は……オレだ!!」




