1023話 舞い斬る刀斬
『天才剣士』の名を嫌悪し能力者として強さを求める今を明かしたガイ。
蒼炎と蒼い光に霊刀と共に飲まれるも鳳凰と成りし2つの力と飛翔した直後にガイはその力を弾き飛ばす形で天へ姿を現す。
そして、彼の周囲を翼を彷彿とさせる鞘に納刀された霊刀が飛び交い、ガイが瞳を蒼く光らせると6つの翼型の鞘に納刀された霊刀が彼の背に集って6枚の両翼として装備される。
翼型の鞘とそれに納められた霊刀。霊刀の柄を背の方へ向け翼型の鞘を左右に展開させるように装備するガイはこれまでの蒼炎の翼を纏っていた時同様に飛行能力を得てるらしく滞空しながら朧波を見下ろしていた。
ガイの明らかな変化、新たな武装を纏いし彼の変化を盲目により視覚情報を閉ざされている朧波でもその力を肌で感じ取って認識しており、同時に朧波はこのガイの変化に伴う新たな力に更なる動揺を見せていた。
何よりも、新たな武装を翼のように纏い天を飛ぶガイのその存在感に朧波はここまで感じることのなかったプレッシャーを感じさせられていた。それがこの動揺を加速させるのだろう。
「な、何だ……それは……何を、したんだクソガキ……!?」
「流石に盲目のオマエでも本能的に『ヤバい』と認識出来るみたいだな」
「業物6本でも異常だってのに何だそれは……?業物が入ってるって事は鞘か?だが……んなふざけた事があるってのか?」
「オマエの常識の中にあるものが全てじゃないって事だ。この瞬間に起きてる事、その全てが現実として成り立っているって話だ」
「はっ……ふざけた事をほざくなよガキが。偶然手に入れたようなもんでイキがると痛い目見るぞ?」
「イキがってるつもりはない。ただ……試したいとは思ってる」
「試したい?」
「あぁ、この力が……オレの力の新たな在り方が最強にどれだけ迫れるかってのをな」
「最強に迫る?やっぱりオマエはガキだな雨月ガイ……!!天才剣士としての誇りを胸に抱き研鑽の日々の中を努力の積み重ねに費やせれば人ととしてまともになれたはずなのにな!!」
ガイの言葉と考え方を改めて『ガキ』と酷評し彼の示したものを全て否定するべく朧波は太刀の呪具の『臥鳴裂』を振って彼に一度は傷を負わせた無数の斬撃を放とうとした。
が、次の瞬間、朧波は自らの感じ取る気配に対して驚愕させられる事となった。
無数の斬撃を放ちもう一度ガイを負傷させようと考えた朧波。だが、攻撃が行動として実現されようとした瞬間、天を飛んでいたはずのガイは朧波が手を伸ばせば容易く届く所まで肉薄していた。
「いつの間……
「遅い」
斬撃を放ちガイを攻撃しようと考えていた敵の行動が実現されるよりも先にガイは敵との間合いを詰めてみせた。瞬間的な加速を引き起こしたであろうガイによるその接近に気づけなかった朧波が驚愕し状況を飲み込めずにいる中でガイはただ敵に『遅い』と告げると翼型の鞘に納刀させる霊刀の1つを右手で素早く抜刀してみせた。
接近した間合いから素早く抜刀された霊刀。だがガイは抜刀した霊刀で敵を斬ることはしなかった。
間合いを詰められた事への反応と認識が遅れている朧波に対してガイは素早く抜刀させた霊刀の柄を敵の体に叩きつける事で衝撃を走らせ、ガイのその打撃を受けた敵は反応が出来なかった分もあるのだろうが衝撃をその身に受ける形で怯んでしまう。
抜刀に伴う打撃、そこから生じる衝撃を受けるしかない朧波が怯む中でガイは敵を倒すべく抜刀した霊刀……《飛天》を右手に構えると今度は別の鞘から霊刀を抜刀して左手へと装備させる。
左手に装備させた霊刀、兄妹という形で飛天と対を成す希天の名をそのまま冠する《希天》を構える事によって二刀流となったガイは6つの翼型の鞘を大きく広げ飛翔するように動き出すと怯んで動きが鈍っている朧波の周囲を視認すら許さぬ速度で縦横無尽に翔び駆ける。
視認を許さぬ速度、視覚情報として姿を捉えられぬが故に盲目の剣士たる朧波が得意とする気配での反応すら敵わない。
怯んでいた状態から徐々に感覚を取り戻そうとする朧波だったが、そんな敵の立て直しを拒むかのようにガイは敵の頭上に現れその動きを認識させぬほどの速度で連続斬りを放ってみせた。
ガイが何か仕掛けてくるかもしれない、それは朧波の中でも警戒するべき可能性として存在していた。
だが敵のその可能性を大きく上回る力として放たれたガイの連続斬りは敵の警戒心をも両断するが如く敵に全て直撃し、ガイの連続斬りを受けるしか無かった朧波は先程自らが傷を負わせたガイ以上の傷を負う羽目になってしまう。
「バカ、な……!?」
「これがオレの剣技……今のオレの力だ」
「ありえねぇ……、こんなもん、ありえるわけねぇだろうが!!」
視認不可の超速が成す高機動移動と認識すら許さぬ中で放たれる連続斬り。この2つを前に対応する事が適わなかったが故に負傷する事となった朧波。
敵に対して自らの力を示してみせたガイ。だが、敵は彼のこの行動を認めない。それどころか自分が負傷したという事実を受け入れようとせず現実の否定に走ろうとしていた。
受け入れたくないのであろう、当然だ。
呪具の力を手にして戦いに身を置く朧波が自らよりも劣るとして下に見て『クソガキ』と蔑んでいた相手に追い詰められるなど屈辱でしかない。
その屈辱の中に沈みかける朧波は自らの頬も眉間に浮き上がった痣を強く妖しく光らせると痣の規模を上体にまで広げさせ、痣の拡張に伴って太刀の呪具の力も高まりを見せていく。
力の高まりを見せる太刀の呪具、それを強く握った朧波は素早くも乱暴に振る事で全てを壊す勢いの無数の斬撃を放ってガイを葬ろうとした。
が、焦りの中で放たれる朧波の攻撃は彼にとって最悪の選択肢と成るしかなかった。
ただガイを葬る、そのために放った朧波の無数の斬撃は対象の彼を葬るだけで留まる様子もなくひたすらにその力を高めながら地を壊し進んでいた。
それだけで済めば朧波にとっては難を逃れたと言えただろう。どが、ガイを葬る事に意識が傾倒してしまった中で放たれた無数の斬撃はその力を高めながら後方にいるユリナたちをも巻き込む勢いで進み続けていた。
「っ……!!」
「オマエを潰すためなら何もかも壊してやる!!命の1つや2つ……巻き込んでも仕方ねぇってもんだからな!!」
「……そうか、それがオマエの本心か」
ユリナたちを巻き込もうとガイを倒せればそれでいい、そんな思考しか出来ない状態に陥った朧波が吐露した言葉を敵の本心だと悟ったガイはユリナたちを守るように彼女たちのもとへと音も立てずに現れ、現れたガイが素早く《飛天》と《希天》を翼型の鞘へと納刀すると6つの翼型の鞘が蒼炎を纏いながら舞い飛んでいく。
舞い飛んだ6つの翼型の鞘は蒼炎を刃として纏いながら縦横無尽に翔び駆けながら朧波が乱暴に振るって放った無数の斬撃の全てを消し飛ばしてみせ、そして敵の放った全ての斬撃が消え……
ガイのもとへ1つの翼型の鞘が駆けつけ、彼がそれを手に取り他の5つの鞘が背に集まり左右非対称の翼として装備された直後だった。
5つの鞘による非対称の翼を纏いしガイが手にした唯一の霊刀……《折神》にガイが手を掛けた瞬間静寂が生まれ、刹那の時が過ぎて静寂が消えるとガイは大きく踏み込んだ上で既に《折神》を抜刀し終えていた。
「我流……抜刀術、夜叉閃煌」
静寂が生まれていたのが現実かも分からない。だが、1つだけ確かだと言える事はある。それは……
ガイの抜刀に反応出来なかっただろう朧波の体は大きく斬られ、その傷口は蒼い煌めきを帯びて血を焼き消していた。そしてその結果を示すかのように朧波の手から太刀が落ち、敵は膝から崩れ落ち倒れるしかなかったのだ。




