1020話 怪敵舞踊
闇の穴から放たれ出た火炎球を全て射ち貫き消滅させる活躍を敵に披露したタクト。彼の活躍により敵……とくに灰斗は意外そうな反応と同時に面白そうな反応を見せ、敵のその反応を気にする事もないヒロムは後方で構えるタクトに視線を向けると彼に対して先程の行動に関する感謝の旨を伝えようとした。
「助かったぞタクト。後ろで待機させておいてよかった」
「アンタの言う通りに後方待機してたおかげですぐに対応出来てよかった。『敵が現れてもすぐに戦線に入ろうとせず観察しろ』って言われた時は後方待機かよって思ったけど、先見の明っての?アンタの先読みと予測は流石と思わされたわ」
「このくらい経験積めば簡単に予想出来る。それよりタクト、このまま今の攻撃仕掛けてきた敵に警戒して動いてくれるか?」
「わかった、任されてやるよ。その代わり……そっち3人はあの3人をちゃんと潰せよ?」
「うるせぇ、誰に言ってやがる?オマエの目の前にいるオレたちが負けるわけねぇだろ」
「へっ……それでこそ覇王だな」
タクトの言葉に当たり前だと言わんばかりに強気で返すヒロムのその言葉に何故か嬉しそうな顔をするタクト。
ヒロムとタクトのやり取りの中に確かな信頼が見受けられるのを感じ取ったガイとノアルは言葉を発せずとも彼らの信頼関係を嬉しく感じて小さく微笑むが、2人は何よりも敵を警戒しようとすぐに意識を敵の方へ向け、そしてガイとノアルの警戒が向けられたのを察知したかのようなタイミングで闇の穴に変化が起き、その中より新たに1人、能力者が現れる。
現れた能力者……膝裏まではあろう長い金髪に赤い瞳、小麦色の肌、右手首に気味の悪い色の数珠を着け、派手なネイルに派手なメイクをした今時あまり見ない時代遅れなギャルのような見た目の女は気だるげそうに現れると深い溜息をつくなり右手首の数珠を触りながら灰斗の隣に並び立ち、女の出現をきっかけにしたのか闇の穴が静かに閉じて消えていく。
闇の穴が消えていく中、その穴を介して4番目に現れた女は舌打ちをすると灰斗に向けて不満をぶちまけるかのように言葉を発し始めた。
「ちょっと灰斗、聞いてた話と違うじゃん。私が奇襲かけて敵を分散させてアンタら仕留めるって話だから手を貸したのに敵全員集合して構えてんじゃん。何?騙したの?」
「相変わらずうるさいねキャンティアは……仕方ない事なんだよ、相手はあの覇王だからさ」
「言い訳すんなし灰斗。私はそんな眠たくなるような言い訳聞きたいわけじゃないのよ。分かる?事前の打ち合わせ通りに事が運んでない事を怒ってんのよ」
「それ言うならキャンティアが決め損ねた点も問題あるけどね。とりあえずその不満はオレにぶつけずキミの攻撃を妨害してくれた勇波タクトにぶつけてくれない?」
「はぁ?勇波タクト?何?私の攻撃、《天獄》の中でも下位グループにいる新入りに止められたの?萎えるわぁ……」
新たに現れた敵の女・キャンティアは何やら現状を前にして不満があるらしく灰斗に対してそれをぶつけようとし、それを躱すかのように灰斗は上手い事言うと不満の矛先をタクトに向けさせようとし、灰斗の誘導に乗ったキャンティアはタクトの事を見下し酷評するような言い方をした上で気分が萎えたと発言し、彼女の言葉を耳にしたタクトは見下されるように発言された言葉に我慢ならないのか前線のヒロムたちに合流して敵に応戦しようと苛立ちをぶつけるべくヒロムに自らの戦線介入に関して確認を取ろうとした。
「……ヒロム、あの女潰してもいいよな?今の聞かされて黙ってらんねぇわ」
「まぁ、仕方ねぇな。後ろにはシャウロンがいるし……何かあったらオレが処理してやるから好きにやれ」
「オッケー……好きにやってやる」
「そういうわけだシャウロン。そこにいる子守担当のハルキ使っていいからユリナたちの護衛は任せるぞ」
「あぁ、引き受けよう姫神!!キミたちが全力で集中出来るよう……私が盾の役割を担おうではないか!!」
「坊っちゃ……ヒロム、こっちは任せとけ!!」
敵の発言により抱いた苛立ちと敵の態度に対する不満を抑えられないタクトのその感情を理解してるのかヒロムは彼に好きにしろと伝え、敵が4人いるのに対してタクトが加わった事でヒロムたちも4人揃って迎え撃つ流れが完成し、ヒロムの頼みを引き受けるという理由だけでなく彼らが集中出来る状況をつくろうと意気込むシャウロンは彼の言葉に強く返し、名指しされたハルキも彼の思いに応えるべくやる気を見せようとしていた。
その一方で……
「敵さん、やる気みたいだね。なら……朧波、打剛。始めようか」
「長い事待たせやがって……味方じゃなけりゃ殺してるところだったぞ」
「いいじゃねぇか朧波。やる気になってる野郎を殺す……その方が盛り上がるってもんだ!!」
「それじゃあ……お楽しみの時間と行こうか」
「「「呪装展開」」」
ヒロムたちが団結し迎撃の意志を固める中でそれを喜ばしく思ってるかのように語った3人の敵は声を揃えるように言葉を発し、3人の敵が言葉を発すると彼らはそれぞれ闇を纏い始める。
闇を纏い始める3人、次第に闇は何かの形を得るように変化を始め、朧波が纏う闇は黒い太刀、打剛が纏う闇は大槌、そして灰斗が纏う闇は左右一対の手甲となって彼らの武装として装備されていく。
3人の敵が武装した、それに加えて敵の発した『呪装展開』という言葉が何を意味するのかヒロムが気になっていると後方で待機しているケンゴが突然ヒロムに向けてある情報を伝えようと話し始めた。
「ヒロムさん、今レンジからの連絡が入りました!!イクトさんたちが捜索に向かった視線の正体は呪具使いで、今目の前の敵が口にしたのと同じ『呪装展開』という言葉と共に呪具を出現させた能力者だったらしいです!!」
「そうか、情報助かったケンゴ」
「同じ言葉……って事はコイツらは呪具使いって事になるなヒロム」
「みたいだな。呪装ってのが何を指すのかは知らねぇが、連絡係のレンジが役目を果たそうとこうして連絡してきたって事は既にイクトと真助が始末したか2人が対処する中で何かしら問題が起きたかの2択だろうな」
「どうする?イクトたちが戻って来ないってなると……
「無駄な心配だろガイ。アイツらは強い、コイツらの実力は知らねぇけどアイツらが負けるような敵じゃない。アイツらが敵を倒して戻ってくるのを信じて目の前の敵を倒すしかないだろ」
「それもそうだな……なら、攻めさせてもらう!!」
ケンゴが口にした情報、イクトと真助に同行するレンジからの報告の内容により敵が呪具使いである事を知ったヒロムたち。ガイは呪具使いの敵にイクトと真助が苦戦してる可能性を語ろうとするがヒロムは彼らを信用してるのか今は目の前の敵に集中して戦うしかないと言い返し、ヒロムの言葉を受けたガイはその通りだと自らの判断ミスを認めると躊躇う必要もなく敵を倒すべく走り出し、ガイが走り出すとノアルとタクトも敵を倒そうと走り出した。
ガイたち3人が走り出すと朧波、打剛、キャンティアも動き出して戦闘に突入しようとし、ヒロムと灰斗は互いに相手を静かに睨みつけると強く地を蹴って相手にぶつかるかのような勢いで距離を詰めて殴りかかろうとした。
「大人しく潰されろ……クソロン毛!!」
「それなら大人しく殺されてくれよ覇王。オレを楽しませて……あの世に逝きな!!」




