102話 渡される輪
「色々オマエに教えておかないとな」
そう言ってカズキは指を鳴らすとどこからか魔力の剣を出して手に持つ。突然のことでヒロムは構えようとするがカズキは落ち着くように目で訴えると剣を手にしたまま話を進めていく。
「今この剣はオレの魔力を媒体に生み出した《魔力兵装》と呼ばれるものだ。当然の事ながらオマエも知っているし、紅月シオンはこれに能力を上乗せして雷の武器を作るのを得意としている。もっとも汎用性が高く一般的に用いられる技術であると同時にこの技術は《魔力・能力を無力化する》という力を前にした場合簡単に防がれる・消滅する難点がある」
「いや……何で剣出した?」
「説明を聞いてるのはオマエだけじゃない。後ろの彼女たちに理解しやすいようにしてるだけだ」
ヒロムの疑問に当たり前のように答えたカズキは剣を消すと話の続きをした。
「次に雨月ガイ、相馬ソラ、鬼月真助の得意とするもの。雨月ガイは《修羅》の能力と同化させた霊刀《折神》と2人と1匹の精霊を宿したことで発現した霊刀3本を能力の蒼い炎を媒体にして具現化する。同じように相馬ソラは炎の魔人の力の紅い炎を拳銃である《ヒート・マグナム》、鬼月真助は自身の能力である《狂》の力を媒体に妖刀《狂鬼》を具現化させる。3人のこの方法での武器の具現化させる手段を《能力兵装》と呼ぶと同時に《擬似霊装》と分類することが出来る」
「擬似霊装?」
「《能力兵装》は先述した《魔力兵装》の弱点たる無力化する力を受けてもその効力を受けずに具現状態を維持する。オマエや精霊の持つ霊装も無力化する力を受け付けないし、同じ兵装手段である《魔力兵装》と比べると能力による具現化が精霊に与えられる霊装と似ているという点から《擬似霊装》と呼称される」
「なるほど……」
ただし、とカズキは《擬似霊装》について理解を示すヒロムに補足するように話の続きをする。
「《魔力兵装》も《能力兵装》も共通する弱点として使用者の魔力残量が低下すると武装・具現化を維持出来なくなるという点がある。さらに《擬似霊装》に関しては具現化に対して高出力の魔力を要することから《魔力兵装》に比べて消耗が激しいというリスクもある」
「けどソラは《ヒート・マグナム》を使って炎を放ってるのにそう簡単に魔力切れにならねぇぞ?」
「消耗が激しいからといってもそれは極端なものでは無い。相馬ソラのような《魔人》の力を宿す能力は魔力以外のものを糧にして消耗を抑えるという荒業も可能だからな」
あの、とエレナはカズキの話の中で何か気になることがあったのか恐る恐る手を挙げると彼に対して質問をした。
「その《擬似霊装》にはノアルさんのような姿を変えるものは含まれないのですか?」
「いい質問だな、愛神エレナ。キミが思ったように東雲ノアルの力は含まれるのか、それについて話していこう。東雲ノアルの《魔人》の力による変化と相馬ソラの使う炎の魔人の力による《炎魔劫拳》、これらは《魔人》の力による身体変化を軸として全体的な戦闘力を上げている《魔人兵装》とオレは呼ぶことで差別化を図っている」
「差別化……ですか?」
「この世界の能力者の中には獣人に変化したり肉体の硬質化など能力による身体変化を行うものがある。これらの能力は前述した《魔力兵装》と同じく無力化の力に弱い弱点があるがオレが差別化を図りたい《魔人兵装》はその力を受けずにその力を維持できる。その上で2人のこの力は心身の変化によりその力を高めることすら可能とする性質を持っている」
「そういえばノアルの力も大きく変化したってヒロムから聞いてたし、もしかして心身の変化によって力が高まったってことなの?」
「その通りだ美神ユキナ。東雲ノアルの場合はビーストという自分とは対称的な目的を持つ相手と出会ったことによる己の意志を改めて強く持ったことでその力が大きく変化して高まった心身の変化による力の高まりのいい例だな」
エレナ、ユキナの質問にも丁寧に答えていくカズキ。そのカズキの話の中でユリナは何か気になったのか恐る恐る彼に尋ねた。
「あの……イクトの使う武器は……?」
「あら、そういえば彼の鎌は普通の武器のように見えるけどそうなの? 」
「あれを普通の武器のように思えてしまうとは……咲姫サクラ、キミは姫神ヒロムのもとに来て日が浅いが故に知識がないだろうが姫野ユリナの言う黒川イクトの武器は《神器》と呼ばれる存在そのものが奇跡に等しい武器だ」
「神器?」
「黒川イクトの持つ大神の神器である《ヘルゲイナー》は冥界の神・ハデスが半年前の《十家騒乱事件》の際に黒川イクトの力を認めて与えたもの。その武器は容易に破壊出来ず、破壊されても瞬く間に元に戻る性質を持ち霊装を超える力を発揮する……のだが、黒川イクトの力がまだ《ヘルゲイナー》の真価を発揮するに到ってないからその力は発揮されぬままだ」
「……だから後回しにされてるのね」
「いや、アキナ。オマエ、イクトに冷たくね?」
「今神器のことは忘れて構わない。あくまで霊装について話していく段階だからな」
話が脱線したと言いたげな物言いで霊装の話に戻ろうとするカズキ。カズキは話題を戻すと早速ヒロムに質問した。
「姫神ヒロム、ここまでの話を聞いて基礎知識は深まったはずだ。その上でオレは霊装の特異性をオマエに話していく」
「特異性?」
「オマエが今まで気にしたことがあるかはオレには分からんが、オマエの精霊の武器が敵の力で壊されたことはあるか?」
「いや、ねぇな。葉王と初めて戦った時もアンタと初めて戦った時も今まで多くの敵と戦ってきたこれまでを振り返ってもそんなことは1度もない。せいぜい持ってる手から弾き落とされるくらいで破壊まではされたことはないな」
「そう、精霊の武器である霊装の特異性は《不壊》と呼ぶことの出来る破壊されない点だ。この特異性は霊装を持つ精霊と宿す主の間にある関係性と精霊側の主に対する強い意志が大きく関係し、この2つが強ければ強いほど霊装の力は高まり、破壊されないどころか損壊することもなくなる絶対的な武器になる。幸いオマエの精霊はオマエの力になりたいという純粋で強い意志を持つが故にそれを高いまま保っている」
「待てよ、オレがノブナガと戦った時に《レディアント・アームズ》は一部壊れて……」
「あれはオマエが無理やり霊装の力を使おうとしてたからだ。その辺の違いくらい理解しろ」
「あ!?」
「つまり、今の関係性のまま霊装の持ち手たる精霊の意志が強くなり受け取る側のオマエがそれを最大限に使いこなせればオマエはおそらく攻撃手段という点では葉王やオレに劣らぬ実力者になるのは間違いない」
「さりげなくオレはまだ弱いって言ってるよな?」
「そのつもりだ。そしてオマエの霊装にのみにある特異性だが……姫神ヒロム、単刀直入に言うならオマエはまだ《レディアント》の秘めている力とそれに通ずる真価を手に出来ていない。霊装の意志という精霊になるはずだった自我がオマエに手を貸す形でオマエに協力し、オマエ自身が《レディアント》の中の霊装の意志と力を合わせることを選択したことで霊装の意志がオマエの事を改めたから《ユナイト・クロス》に繋がっただけだ。多くの精霊を宿すオマエとその精霊の持つ全ての霊装の力を繋げる霊装の意志……オマエと霊装の意志の関係性が今以上に深まり完全なものとならなければオマエは霊装を使う側ではなく使われる側になって終わるぞ」
「……ならどうすればいい?」
ヒントをやろう、とカズキはヒロムに何かを投げ渡す。投げ渡された何かをヒロムは落とさぬよう手に取ると手の上で確認した。血のようなものがついた指輪、カズキが渡してきたのはそれだった。突然そんなものを渡されたヒロムは何故か気味悪そうな顔をしてしまい、ヒロムの顔を見たカズキは彼に対してその指輪の意味を話していく。
「その指輪は葉王から預かったものだ。オマエの精神的な成長を促し急速に発展させるきっかけとなるアイテム、とだけ言っておこうか」
「葉王から?ならこの指輪は葉王のものなのか?」
「正確には葉王がある人物に託されたものだ。
そうだな……その人物について少し話してやらないとな」




