1018話 不穏からの怪敵
正体不明の謎の視線の真相を探りに向かったイクトと真助、連絡係のレンジと合流するべくヒロムはイクトに『ゆっくり話せる場所』と伝えておいた合流場所に向けてガイやユリナ達と共に移動し、合流場所に向けて移動する最中、グラウンドの方に向けて白丸や飛天たちが少し前を歩く様子をガウたち3匹の子竜を背に乗せ歩く狂牙と見守るように歩くヒロムがその先に進もうとするとシャウロンは彼がイクトに伝えた合流場所に関して何か気づいたのかヒロムにそれについて尋ねようとした。
「姫神、キミが黒川と話していた合流場所とやらの『ゆっくり話せる場所』というのはこの姫城高校の敷地内の事を指して話していたのかい?」
「急に何だ?」
「いや、不思議に思ってね。キミと黒川、それに鬼月は私たちに向けられる視線とやらを察知し、その正体を探らせるべく黒川と鬼月に向かわせた。そこまでは理解できる判断だし、この判断に関しては《世界王府》を相手に数々の戦いを勝ち抜いてきたキミたちだからこその冷静な判断なのだろうと感心した。だが……それと同時に先程の休息が不可解に思えてね」
「そう思った根拠は?」
「今現在黒川と鬼月が捜索に向かったものの正体が敵であった場合、それは間違いなく他の敵が存在している可能性を示唆していると言える。姫乙女学院での件を考えれば警戒しておくに越したことはないがキミはそんな素振りも見せず愛らしく幼い精霊たちの戯れを許すだけでなく彼女たちとの対面をここで済ませている。警戒しているのならば早々に安全が確実に保証出来るであろうその合流場所に向かい彼らを待つのが先決に思えるのだが……こんな言い方をしたくはないが先程のアレはまるで敵を警戒せず無防備な状態を見せているように見えたんだよ私には」
「なるほど……普通に考えたらそうなるかもな」
「私の知るキミなら黒川と鬼月が離れた後にもっと警戒心を抱いていておかしくない。そう思うが故に今のキミの行動を不思議に思うんだ。キミの事は他のメンバーよりも信頼してるから何かしら理由があるのならそれを尊重したい。キミと私の仲、教えてはくれないか?」
「オレとオマエの仲がいつの間に縮まったのかは疑問だが……まぁ、理由はちゃんとある。1つはユリナたちの件だ。このタイミングで他校の生徒であるエレナたちがここに来てオレやユリナたちと接しているという状況を見せる事で他の該当者に対してのきっかけを与えたかったんだ」
「それは彼女たちが見たというキミに似た人物が出たという夢を見た他の人物を探しているから、という事かい?」
「そうだ。エレナやシノ、リオナの方に該当者が現れたのはオレたちと接点のある人間として報告して連絡を取らせるって展開を生み出させやすい状況だったからだ。不可解に思った事に対して解決策……とくに今回はオレに似てるとかいうその人物とやらのおかげでオレとの関係系をハッキリさせられる。そうなると面識のある人間に頼って事の真偽を確かめようとするその行動が起こせたんだろうって思ったんだよ」
「きっかけさえ生まれれば効率よく事が進められる。ある意味でヒロムがやってた事の失敗を活かせたって事だな」
「一言余計だガイ」
「なるほど……それは一理ある考え方だな。だがだからといってまったく警戒しないのは……
「誰も警戒してないなんて言ってないが?」
「……え?」
先程の小休止に関してヒロムがその目的を語りその旨について理解するもシャウロンは敵の存在と可能性があるとして警戒の必要性を説こうとするが、シャウロンの言葉を遮るようにヒロムは彼の言葉の続きそのものを尽く壊すかのように言葉を発し、そのヒロムの一言が予想外だったらしいシャウロンが驚いているとヒロムは状況を整理する傍らで彼に全てを話そうとした。
「オレは別に警戒してないなんて一言も言ってないし、ガイもノアルもタクトも今の今まで警戒はしてる。けど、そんなものを態度にいちいち出してたらキリがないだろ」
「だが姫神、何者かの存在を示唆するかのような視線をキミや黒川が感じ取っているし、現に黒川たちが別行動を取って確認に向かっているんだ。これについては……
「シャウロン、オマエはさっきオレに『《世界王府》を相手に数々の戦いを勝ち抜いてきた』と言ったよな?」
「ん?あぁ、言ったとも。キミやキミの仲間は確かな実績を残している。その事実を私なりに正当に評価して簡潔にまとめたんだが……それがどうかしたのか?」
「オマエにそんな風に評価されて言葉として伝えられたオレが何の警戒もしてないわけないだろって話だ」
「だが現にキミは警戒心を感じさせない振る舞いを……
「1つ教えておいてやるよシャウロン。狩る側が罠を張って獲物を狩るように狩られる側も罠を張って敵を殺すなんて事は当たり前に起きる。オレたち……いや、オレが何の警戒もしてないってのが主観で得られる情報だけで把握出来るわけないだろ?」
「その言い方……もしや姫神、キミは敵の行動を予測しているのか?」
「どうかな?ある意味で賭けでしかないやり方だからな。イクトと真助がレンジを連れて向かった先に何か……十中八九敵であろう存在とそろそろ対峙するはずだ。もしかしたら既に対峙してるだろう可能性もあるが1つだけ確かだと言える事がある」
「それは一体……
「狂牙、飛天と一緒に白丸たちをユリナたちのところに避難させてくれ」
「任せろ」
「うん、わかった!!」
既に手を打つ手筈を整え行動していたかのように話すヒロムが敵の存在を示唆する旨を口にし、ヒロムの言葉の中にある真意に理解が追いつかないシャウロンが何か言おうとするもそれを無視するようにヒロムは狂牙と飛天に白丸たち幼い精霊たちの避難を頼み、ヒロムの頼みを受けた狂牙と飛天が白丸たちをユリナたちのもとへ誘導しようとする中でヒロムは首を鳴らすとガイと共に前に出ようとし、狂牙と飛天に誘導される白丸たちとすれ違うようにヒロムとガイが前に出たその時だった。
突然空気が重くなり不穏な気配が漂い始め、不穏な気配の発生にシャウロンだけでなくユリナたちも感覚的に感じ取るとヒロムとガイの前方少し離れた位置に闇が現れ1ヶ所に集まり始める。
ヒロムとガイの視界の中に入るように現れ1ヶ所にまとまろうとする闇は渦巻くようにしながら大きく拡がって何かの入口とも解釈出来る穴のような形となり、現れた闇が何とも言えない不気味な変化を経るとその瞬間、その闇の穴の奥より3人の人間が姿を現しヒロムたちにその姿を見せようとした。
1人は縫い合わせるかのように左右それぞれに2本の傷跡を走らせる瞳を閉じた黒髪黒スーツの男、1人は後ろに流れるような異様なアフロの髪型をさせた青いサングラスをかけた男、そして最後の1人は……
「へぇっ、聞いてたよりは頭冴えてるじゃん」
地につきそうな程に長い灰色の髪と赤い色の瞳、白過ぎる肌、そして瞳の下や首筋、腕などに縫ったかのような傷跡を複数負った青年が不吉な笑みを浮かべながらヒロムを見つめ、視線を向けられるヒロムは白銀の稲妻を身に纏うとガイと共に殺気をむき出しにさせようとした。
「ガイ、手ぇ貸せ」
「言われなくても貸す。とりあえず斬って斬って潰し殺しても文句は言うなよ?」
「下手に加減して無事に済むような相手じゃなさそうだから殺す気でやれ。ただ……こういうのに慣れてないのが何人かいるからその辺の配慮は忘れんなよ?」
「それはオマエの方だろ?」
「……違いねぇな。とりあえず今確実に言える事は1つ、オレたちのテリトリーに土足で踏み込んだ事を後悔させてやれ!!」
現れた正体不明の3人の男たちを『敵』として認識殺気を向けるヒロムとガイ。ユリナたちが見守る中で2人は敵と認識した3人に容赦なく攻める意志を見せ、それを感じ取っているであろう3人は怪しげな力を体に纏い始め……
「さぁ、殺し合おう」
「黙って潰されるか、喚きながら死ね……!!
さっさとオマエらぶっ潰して静かに話せる場所を用意させてもらうぞ!!」




