1016話 距離感測定
イクトたちが画切との戦いを終える少し前……
存在と正体の分からぬ視線の捜索をイクトと真助に任せて来客となるエレナたちを連れてイクトたちと合流するための場所として指定した『ゆっくりと話せる場所』へと向かう道中で校内の案内をするヒロムはガイやユリナ、サクラたちの手を借りながらエレナたちに説明をし、その一方でヒロムたちの話など聞いてもいない白丸や飛天ら幼い精霊たちは彼らの目の届く範囲で自由気ままに遊んでいた。
目的地に向かう最中で白丸たちが歩くのを止めて戯れ始めたためにヒロムたちも無理に歩かせることもないとして見守ろうと足を止め、そのタイミングでエレナは自身やユリナ、サクラたちが見たとされるヒロムに似た人物が出る奇妙な夢を同じように見たという友人の少女を紹介しようとしていた。
「ヒロムさん、せっかくですのでご紹介してもいいですか?」
「え?あぁ、いいよ」
「はい、ではご紹介させて頂きますね」
ヒロムに確認して許可を得たエレナは彼に紹介しようと共に姫城高校へと来た自分の友人をヒロムの前まで誘導し、誘導されたエレナの友人の少女はどこか恥ずかしそうに照れていた。
背中にかかるくらいの長い薄緑色のきれいな髪にエレナやユリナのような可愛らしい顔立ち、何より少女たちの中で発育のいいエレナと同じようなスタイルをした少女にヒロムは軽く会釈し、恥ずかしそうに照れる友人の少女に代わってエレナが彼女の事を話し始めた。
「この子は澄露ミホ、中学からの私の友達で茶道部に所属している子なんです。礼儀正しくとても優しい子なんです」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく……というか意外だなエレナ」
「何がですか?」
「いや……エレナってユキナとアキナ以外に友達いたんだなって思ったから」
「えっ……ヒロムさん、そんな風に思ってたんですか?」
「ヒロムくん!?それは思っても言っちゃダメなやつだよ!?」
「は?いや、別に変なこと言ってないだろ?」
「ユリナ……私、ヒロムさんに友達いない女の子と思われていたのですか?」
「き、きっと変な勘違いしてるだけだからエレナは何も気にしなくていいよ!!大丈夫だから!!」
恥ずかしそうに照れるエレナの友人の少女・澄露ミホを紹介したエレナに対してヒロムはわざわざ言わなくてもいいような一言を口にして彼女を困惑させ、ヒロムの発言を失礼だとユリナは指摘するも発言した当の本人は罪悪感すらないらしく、ヒロムの発言にエレナがショックを受けてしまうとユリナは彼女を懸命にフォローしようとした。
「別におかしなことは言ってねぇのに大袈裟だな……」
「親しき仲にも礼儀ありってのはこの事だな。……とりあえずデリカシーってのを持とうかヒロム」
「デリカシー?ユリナたちがそんなの気にするか?」
「ユリナたちが気にする云々じゃなくて意識するしないの問題なんだよヒロム。今後のために頭の片隅に入れておけって」
(ただでさえユリナたちが同時期に見たとかいうふざけた夢、その経験者を探してるって状況の中でやらかしてほしくないんだがな……)
「まぁ、頭の片隅に入れておいてやるよ」
「言い方が気になるが……とりあえずはいいか」
「そうかいそうかい。で……一応聞きたいんだがミホ」
「は、はい!!」
「ミホが見たって夢なんだが……
「いやいや、普通に話進めんの!?」
ユリナがエレナを頑張って励ます一方で発言者のヒロムは何も気にならないのか、というかむしろ何かおかしいのかと言いたそうな顔を2人に向けており、彼の反応に呆れるしかないガイはため息をつくと彼に発言を気をつけるよう今後のためにと伝えた。伝えたはいいがとくにヒロムが理解してるようでもなさそうな反応を見せるせいで不安しかないガイは普段からの慣れなのかもはや放置しようとどこか投げやりにまとめようとし、彼の思いなど気にもしないヒロムは話題を戻すべくミホを見るなり彼女に対して彼女が見たというユリナたちの見たものと同じとされる夢について尋ねようとした。
が、ヒロムに急に名前を呼ばれたミホは驚いてしまい、当たり前のように名前呼びするヒロムが話を進めようとするも先程の彼の言葉にここまでの流れを見ていたタクトは驚かされたあまり割り込んででも流れを止める他なかった。
「あ?何だよタクト?」
「いやいや、距離感バグってるから!!初対面だよな!?」
「んだよ、うるせぇな……今さっきエレナが紹介したんだから変な事ないだろうが。止めんなよアホが」
「止めるに決まってるだろ!?何、デリカシーどころかコミユニケーション能力まで狂ってんのか!?」
「おかしいのはオマエのいちいちうるさいその反応の方だからな?ったく、何が変なんだよ」
「だから……
「やめておきなさいタクト。言うだけ損するから諦める方が賢明よ。ねぇ、ユキナ」
「そうね、ヒロムは昔からこうだからアキナの言う通り気にしない方がいいわ。私とアキナが何年も前に出会った時なんて自己紹介もせずこの距離感で来たんだからその頃に比べると今は改善されてるわ」
「いやいや……アキナもユキナも感覚バグってないか?」
「やめとけタクト。アキナもユキナもヒロムがガキん頃から面識あるからヒロムに対しての認識が既に普通からズレてるから常識の範疇で話を進めるのは無理だから諦めろ」
「ちょっとガイ、ユキナはともかく私を変人みたく言わないでくれる?」
「は?何言ってんのよアキナ。変人はアンタだけでしょ?」
「何よやるの?」
「言い出したのはアンタでしょ?」
「2人とも落ち着いてくれ、オレが変に言ったのが悪かった」
ヒロムのミホへの接し方にタクトがおかしいと感じている中でアキナやユキナが当たり前のように受け入れている事にタクトは色々と疑うしかなく、ガイがタクトをフォローしようとするもそれが余計な一言となってアキナとユキナが揉めそうになり、ガイは慌てて訂正して穏便に済まさせた。
「……何だかオレが変な気がしてきた」
「つうかタクトのせいで話進まねぇんだが……
「ヒロムくん、とりあえず話を戻せばいいから、ね?」
もはや自分の感覚がおかしいのではないのかと受け入れようとするとヒロムは話を妨げられたとしてタクトに不満を告ようとし、ヒロムを諭そうとユリナは彼に優しく話し、ユリナの言葉を受けたヒロムは仕方なさそうに理解したような態度を見せるとタクトに向けて言おうとした言葉を最後まで言わずに己の中へと沈めさせるとミホへ彼女が見たという夢について詳しく聞き出そうと話を再開させようとした。
その時だった……
「きゃ〜、ねぇこの子可愛すぎるって!!なんか健気なところが最っ高に推せる感じだよ!!」
「えっ!?えっ、えっ!?」
「よく見なくても顔可愛いし髪サラサラだし甘くていい匂いだし……リオナの言う通り、この子を推したくなっちゃうかも!!」
「ふーん……で、リオナ?」
「リオナ……?」
ヒロムがミホとの話を再開させようとすると空気なんて読む気がないらしい少女が急にユリナに駆け寄ると彼女を後ろから抱き締め、急に抱き締められたユリナが困惑するのもお構いなしに少女がユリナに関して色々話す中で彼女がリオナの名を出した事でヒロムとユリナは2人揃ってリオナの方へと視線を向けて説明しろと目で訴えようとした。
2人に視線を向けられ、そしてガイたちの視線までもが次々に集まる中でリオナは……
「あ、はは……説明しま〜す……」




