1013話 恐れるものは何か
5分の時間稼ぎを真助に頼んだイクト。そのイクトは5分経過した事により戦線に復帰しようと真助の隣に並び立つと画切の力と自身の相性の悪さから弱気になりかけている真助を奮い立たせようとし、そんなイクトが口にした『愉しもう』という発言に違和感を感じた真助は彼にその真意を尋ねようとした。
「今の言葉……今のはどういう意味だ?」
「ん?無駄話って言った事?それは……
「違ぇよ。今さっきオレに向けて『愉しもう』って言った事だよ」
「あぁ、そっち?」
「どういう意味……てか何考えてそんな事言ったんだ?オレたちの中で冷静に状況を読み取って最適解となる言動でヒロムたちを支える側として立場を確立させてるオマエがあんなふざけた事を言うのは何か意図があるとしか思えない。それを話せ」
「……へぇ、何やかんや言っても冷静なんだね。よかったよかった」
「何もよくないから話せって言ってんだよ……!!」
「そうだねぇ……真助ってさ、大人になり過ぎたね」
「……は?」
イクトの発言の中の違和感の真意をハッキリさせようと尋ねた真助に対してどこか茶化すような反応を見せるイクト。彼の態度に真助が若干苛立ちながら話すよう催促し、さすがのイクトも真剣に答えるしかないと思ったのか真面目に答えようとしたのだがその結果出てきた言葉に真助はただ聞き返すしか無かった。
自身が尋ねた事に対する返事として聞きたかった言葉では無かった事は明らかであり、イクトの返した言葉を真助が余計に理解出来ない状態になっているとイクトは小さくため息をつくと何故か真助の過去に触れるような話を語り始めた。
「いや、大将が初めて対峙して戦った時の真助って話に聞いた限りじゃ強いやつと戦う事に生き甲斐を感じてるような生粋の戦闘狂って感じだったしオレたちの仲間になってくれた後も同じ戦闘種族の末裔の血筋のシオンとは対称的な好戦的で強さに貪欲な狂戦士みたいな部分多かったじゃん?」
「急に昔の話するのは何の……
「真助さ……もっと欲張りになっていいと思うよ」
「欲張り、だぁ?」
「うん、そそ。貪欲とも言えるかな?ナギトやタクトみたいに我武者羅になりなよ。あの2人が急激に強くなってる理由もそこにあるし」
「あ?アイツらは単純に才能を発揮出来るように……
「それは結果だけを見た場合に言える事だよ。オレが言いたいのは『過程』、あの2人は強くなるためにどんな事でも経験値として喰らうつもりで目にする物事を捉えようとしている。タクトが《破壊修復》を会得したのも大将の《破壊再生》を自分のものにして苦難を乗り越えようとした……それはつまり大将の技術を喰らって強くなろうとしたからこその賜物なわけだ」
「貪欲に……喰らって……」
「真助が狂鬼の手を掴んだのは強くなりたいと思っただけじゃなかっただろ?強いやつと戦いたい、その思いがあったから狂鬼の差し伸べた手を掴んだんじゃないのか?」
「それはそうだが……」
「まぁ、多くを語ってもこれを聞いてる狂鬼に回りくどいとか言われるだろうから単刀直入に教えてあげるよ真助。村正石、その力を真助が『引き出す側』になるだけで満足するな。オマエなら村正石に力を『引き出させる側』になれ」
「……今のは何か違うのか?」
「えぇ!?伝わらなかった!?」
『小僧、今の影の小僧の言う通りだ』
かつての真助を振り返るように話したイクトが結論として今の真助に彼から伝えるべき事を伝えてみせるも真助にはその意図が伝わらず、まさかの伝わらなかった事にイクトが驚いてしまうと狂鬼の声が2人に聞こえ始め、狂鬼の声は真助に向けてイクトの言葉を補足するように語り始めた。
『今の小僧は村正石の中に蓄積された呪いを無理なく引き出そうとしている状態だ。小僧の戦闘能力と基礎能力がどれだけ上がろうと村正石から無理のない程度の呪いしか引き出そうとしない……だからこそ今の小僧は成長と進化の速度が著しく落ちているのだ』
「は!?オマエ、この間オレが無理にでも引き出そうとしたら止めてたくせに今更……
『小僧が僅かな恐れを抱いているからだ。村正石の中に宿る数多の妖刀の呪いはその僅かな恐れをも持ち主の弱味と認識して小僧の精神を喰らいにいく。だからこそオレは小僧の状態を見極めて使い方について適切になるよう助言してきただけだ』
「オレが……恐れを?」
『恐れているはずだ。今ではその兆しすら見えなくなってはいるが……初めて村正石の力を引き出そうとした時、そして精霊の王の援軍として介入した際に強引に引き出そうとした時に小僧が陥った暴走状態に再び入る事をな』
「っ……!!」
狂鬼の言葉、そして彼の見抜いていた真助の心の中に僅かにある『暴走』に対する恐れを告げる言葉を伝えられた真助はその事実を思い知る事となり、狂鬼の言葉に返す言葉すら奪われた真助にイクトは歩み寄ると彼の肩に優しく手を置くと助言となる言葉を伝えようとした。
「真助、もう一度思い出す時が来たんだ。白神導一と《月神》を相手に戦っていた時に真助が狂鬼に言われた事……真助が戦士として駆り立てられていたもの、その中にある真助の想いを」
「オレの……想い」
「大将があの時真助に昔みたいに追いかけてこいって言ったんだ。だから今こそ諦めずに追いかけ続けるしかないよ」
「……そうだな。追いかけるしかないな、あの最強の背中を。いや……そんなんで満足してたまるかよ」
イクトの言葉を受けて何か考えに変化が起きたのか真助の瞳は強い意志を抱いたかのようにまっすぐ敵を見据え、真助は妖刀《狂鬼》を強く握り『村正モード』の発動に伴い纏った闇の力をさらに高めさせようとした。そして真助は左手に持っていた黒い雷の刀を消すと服の中から勾玉の首飾り『村正石』を取り出すと妖刀の中の意思である狂鬼に向けて1つの頼みを伝えた。
「狂鬼、今だけはオレの許容出来る安全な範囲で止めてた妖刀の呪いを限界まで寄越せ」
『耐えれるのか小僧?』
「耐える耐えないじゃねぇ……生温い。今オレが変わるにはオレを喰らおうとする何もかもを喰い尽くす勢いがいる。そのためには躊躇いは不要……今の自分を殺して新たな自分に繋げるためなら死を恐れる気はない!!」
『……ハッハッハッ!!面白い事を言うではないか小僧!!いいだろう……ならばその覚悟に応えてやろう!!影の小僧、オマエが小僧をやる気にさせたのだから最低限の誘導くらいはやってのけろ!!』
「はいはい、そのつもりですよ呪い様。じゃっ、真助……あの邪魔な腕の相手はオレがやるから本体を壊せ!!」
「いいぜ、殺ってやるよ!!」
戦士として駆り立てていたものが何なのか、その存在を認識したのか真助は今の自分自身を壊してでも進化を遂げると覚悟を語り、彼の覚悟を聞かされた狂鬼は嬉しそうに笑うと彼の覚悟の果てを見届け手助けしようとし、真助をその気にさせたイクトは狂鬼に言われるでもなく真助をフォローして画切撃破を遂げるべく大鎌《月獄》を構え、覚悟を決めやる気を漲らせる真助は妖刀《狂鬼》を構えると闇を纏いながら駆け出した。
「さぁ行くぜ……オレたちか、オマエのどちらかが死ぬまで戦おうぜ!!」




