1012話 苦戦の先の壁
『骸嶽』と呼んだ長刀の呪具を持つ右手から黒い痣を広げる形で自らの力を高めるだけでなく背中より不気味な骸骨の腕を左右一対で出現させる異様な変化を遂げた画切を倒すべく妖刀《狂鬼》と黒い雷の刀による二刀流となって間合いを詰めようと駆ける真助。
敵の異様な変化に伴って感じ取れるようになった不気味で不穏な気に対して真助は嫌な予感がするのかどこか焦っているようにも見える表情を見せながらも画切に迫ろうと走り、黒い雷を用いた刀の生成での二刀流と成った真助が迫ってくる中で画切も彼を倒すべく接近しようと歩を進め始め、ゆっくりと進行して真助に接近する画切は真助の顔を見るとどこか不思議そうに彼に問うように語り始めた。
「疑疑、何故自らの能力による造形生成で武器を補填する?オマエには刀に変化する狼が内包していたはずだが何故出さない?」
「はっ、生憎今はあの過保護狼は外勤中なんだよ。とりあえずオマエはオレだけを見て殺されろ!!」
画切の言葉に対してどこかユーモアを入れるようにして返した真助は直後に強い口調で言葉を紡ぎ放つと地を強く蹴り更なる加速を経て一気に画切との間合いを詰め、一気に画切に接近した真助は妖刀《狂鬼》と黒い雷の刀の二刀による連撃を瞬時に放って敵が何かを仕掛ける前に仕留めようとした。
が、真助が連撃を放とうとしたその瞬間に画切の背中から突き出すように現れた不気味な骸骨の両腕が画切を抱き守るかのように画切の前に構えられて真助の二刀による連撃の全てを受け止め防ぎ、真助の連撃を受け止めた骸骨の両腕は一切の傷を負うことなく画切を守り切ってみせた。
「硬……っ!?」
「良良、やはり吾と『骸嶽』は相性がいい。故に吾はオマエには負けない!!」
画切の操る骸骨の両腕の硬さに真助が驚かされる中で画切は自らと長刀の呪具の相性が良いと再認した上で真助に負けるはずがないと豪語し、今度はこちらの番だと言わんばかりに画切が不気味な力を強く纏い放出させると骸骨の腕が画切の意思を表すかのように構えるなり拳による連続攻撃を放ち始め、骸骨の腕による拳の連続攻撃に対して真助は黒い雷を強く纏うと素早い動きを発揮しながら躱し、骸骨の両腕による拳の連続攻撃を躱し続ける真助は画切への反撃の時を見定めながら黒い雷を両手の刀に纏わせ意識を集中させていた。
「このっ……!!」
(面倒な事になったな……。別に今ここに狂牙を呼び戻せない訳じゃない。アイツとの繋がりは感じ取れるしこっちが呼び掛ければ反応はしてくれる。けどそれはオレとイクトに捜索を任せてくれたヒロムだけじゃなくてヒロムのもとに集まってるお嬢様たちに不安を抱かせる可能性がある。ヒロムたちのところにいる狂牙を呼び戻せば必然的にヒロムたちの前から狂牙は消える。だからこその造形生成での代用、それ故の出力の不足が生じている……!!)
「こうなったら結界術で無理矢……」
画切に対して強気に返した真助だったが内心では黒狼の精霊・狂牙を呼び戻せない点とそれに伴う出力不足に悩まされており、それを気にしながら敵の連続攻撃への反撃の時を窺う真助が奥の手として更なる手を使う事を視野に入れようとする旨を口にしようとした。
その時だった。
画切の骸骨の両腕の拳の連続攻撃を躱し続ける真助の右脚を何かが掴んで彼の動きを止めてしまい、何かに脚を掴まれた事を即座に認識した真助が視線を下に落とすとそこには真助の右脚を掴むべく地を突き破るようにして新たに現れた骸骨の腕があり、真助がそれを視認した瞬時に彼の右脚を掴む3本目の骸骨の腕は真助の右脚の骨を砕こうと力を入れようとした。
脚を潰される、直感でそれを理解した真助は慌てて黒い雷で巨大な腕を作り出して右脚を掴む骸骨の腕を殴り潰そうとするが今度は真助の頭上から新たな左右一対の骸骨の腕が現れて黒い雷で構築された巨大な腕を掴み止め、累計5本という異様な数が出現した骸骨の腕に行動を阻害された真助は右脚を握り潰そうとする骸骨の腕の力が増す中で瞳を妖しく光らせると自らの茶色の髪を瞬間で白く染め上げさせるとその身に闇を纏い、真助が闇を纏うと彼は画切の前から姿を消してしまう。
真助が姿を消した事で彼の右脚を掴んでいた骸骨の腕は力を入れるのをやめ、彼が消えた事によって黒い雷の腕も消えるとそれを掴み止めていた骸骨の腕は役目を果たしたかのように彼の脚を掴んでいた骸骨の腕と共に消滅してしまう。
3本の骸骨の腕が消えると真助は画切から大きく距離を取るように離れた位置に姿を現し、姿を現した真助は骸骨の腕に掴まれていた右脚が無事だったのか問題なく妖刀と黒い雷の刀を構えており、真助は構える中で画切の動きを警戒しながら纏った闇の力を増幅させていく。
真助が警戒して闇を強くさせる一方で画切は目の前から消えた真助の存在を認識したのか視界に捉えるように体の向きを変えようとするが何故か攻撃をする気配も動く様子がなく、敵が動きを見せぬ中で真助は画切相手に溜まった苛立ちを吐き出そうと言葉を吐き始めた。
「クソが。まさかこの状態にさせられるとはな……!!」
『村正石を身につけずともその力を引き出せる『村正モード』とやらに移行出来るまでに馴染んだようだな。いや、結界術である《狂華獄血》で膨大な量の呪いを受けて瞬間的な適応を経たが故なのだろうが……』
「完全に引き出すには村正石を出すしかないがそれは奥の手だ狂鬼。それよりも……あと呪具の力の分析だ」
『……それならば既にオレが済ませた。あの呪具の力は間違いなくあの骸骨の腕の使役だろう。直接的な攻撃はあの男の肉体と同化している腕の方が威力は高いと思われる』
「あの腕の使役は理解出来るが威力云々は確かなのか?」
『小僧の脚を潰そうとした3本目とそれを阻止しようとしたこちらの攻撃を止めた4本目と5本目はどちらもあの男の肉体からではなくあの男のつくったであろうこの空間から発生したものだ。3本目以降があの姿となってから出来るものだったのならば敢えて接近せずに最初からそうすればよかったはずだ。あの男と呪具から離れると威力か精度が落ちるのか、それとも効果範囲が限られているのか……そういった欠点がある可能性を考慮した上で敵の行動と照らし合わせたからこそだ』
「なるほど……この空間内で自由に使えるのならレンジやカルラを狙うなりしてオレの意識を逸らして潰すって卑劣な事も出来るだろうし今この瞬間も何もしないって事はあの腕の使役に適用範囲から離れているからってわけか」
『下手に動きを見せて近づけばこちらに悟られる、だからこそ小僧が接近するのを待ってから動くのだろうな』
「……要するに、あの男の呪具は近接戦闘しか出来ないオレには相性が悪いって事か」
『今の小僧の力量で発動する『村正モード』が村正石の内包する呪いをいくつか引き出せるとしても不利な事に変わりは無い。接近するにしても中距離程度が安全圏だと心得ておけ』
「クソが……!!こんな野郎に苦戦するなんてな……!!」
(ヒロムは《世界王府》の能力者……あの四条貴虎と対等に渡り合える程に強くなって、ソラやガイも継承した王の力を引き出せるまでに強くなっている。イクトも幻霊の王として覚醒しようとしてるってのに……)
「オレは妖刀が使えるってだけで終わるのかよ……!!」
「それは違うんじゃないかな、真助」
画切と呪具《骸嶽》、敵の力が現時点で接近戦を主軸に戦う自身にとって相性が悪い事を狂鬼の分析と対峙した自身の経験から思い知らされる真助が柄にもなくヒロムたちが強くなる一方で自分は不甲斐なく終わるのかと弱気になりかけたその時、時間稼ぎを彼に任せていたイクトが真助の隣に並び立つように戦線へと戻りに来た。
「5分経ったから戻ってきたよ、真助」
「イクト、オマエ……」
「無駄話は後にしようや真助。とりあえずまずは……この戦いを愉しもうぜ真助!!」
5分の時間を経て参戦するイクト。彼は何やら画切相手に勝機を見出しているようであり、そして、彼の発言は何かを企んでるように聞こえ……




