1009話 敵の狙いは彼奴なのか?
奇行を起こしたかのように思われた真助の行動により彼とイクト、レンジ、カルラは紫色の空と荒廃した大地という学校から掛け離れた景色の中に立たされ、そしてこの異様な景色の中に彼らを誘ったであろう狐の意匠の仮面の怪しき者が彼らの前に現れた。
「敵……!?」
「って考えんのが妥当だよな」
「えっ、えっ、えっ!?ここどこ!?」
「落ち着くスよ。とりあえずキミの友だちと連絡が取れるかを……
「安心しろ、レンジに連絡させるまでもねぇよカルラ。この空間に来てから狂牙との繋がりが弱まった。それで十分だ」
「なるほど……つまり、これは空間術に伴う転移もしくは異空間生成って事スか」
「ていうか真助、どうやってこれに気づいた?」
「んなのはどうでもいい。それより……オマエ、何者だ?」
「おぉや?吾の正体を見抜いたからこその看破と思っていたがその様子だと吾の事を把握出来ていないとは……驚驚、意外だな」
「あん?」
「訂訂、そうか……オマエは鬼月真助か。なるほど、吾は勘違いして捕らえたわけか」
「捕らえただ?オレを」
「誰と間違えたのか知らないけど、今の言い方からして大将やオレたちの敵って事は間違いないね。アンタは何者なのさ?」
「吾?吾は……世を正す者なり」
真助に関して何やら意味深な言葉を語る狐の面の怪しさしかない敵はイクトの言葉に対して遠回しな言い方にしか聞こえない答え方をすると仮面を外してその下の顔をイクトたちに晒し見せた。
狐の意匠の面を外したその下からは灰色の髪に色素が抜けたかのような白い肌を持ち、眉間辺りに奇妙なタトゥーを掘った顔に血のような紅い瞳を持った青年の姿が晒され、敵の素顔を目にしたイクトと真助は敵について心当たりがないのか警戒心をただ強くする他なかった。
「誰だオマエ?」
「見覚えないね。まさか蓮夜……サウザンの送ってきた刺客とか?」
「その線は無くないスか?あの男が狙うならオレたちよりヒロムの方でしょ?」
「それもそうか……」
「惨惨、オマエは知能が低い。なのに吾は標的を見間違うとは情けない」
「あ?テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「感覚的に似ていたからこその勘違い……と思いたかったが、悔悔。忘れていた……見てくれは大体同じでも持つものが異なる事を忘れていた。鬼月真助は妖を宿している側、それを見抜けなかった吾は間抜けだな」
「何だアイツ……?自分の勘違いで勝手に口達者になってて気持ち悪いな……」
「感覚的に少し似ていた……?」
今居る空間を生み出したであろう謎の青年の言葉、訳が分からない事を口走っていると思い気持ち悪そうな反応を見せる真助に対してイクトは敵の言葉のある部分に違和感を感じるとそれについて敵の動きに警戒する中で思考を働かせようとした。
(コイツは誰かと真助を勘違いしていた。単なる勘違いじゃなくて真助の名前と真助の持ってる力……『妖を宿してる』って言葉からして間違いなく妖刀の事も妖刀の意思たる狂鬼の事も把握してる可能性がある。だからこそ真助の事をコイツが求めていた『誰か』と勘違いしていたとすぐに理解したんだろう。敵って事なら大将を狙ってると思ったけど、根本的な要素から見ると真助と大将を見間違えるなんてありえないしコイツの言う『感覚的』ってのは内側にある何かを指すはず……と思うけど、そうなると誰と間違えたかってなる。真助と多少なりとも共通点となるものがある人間といえば……)
「まさか……シオン?」
「あん?何でシオンの名前出すんだ?」
「どうしたんですかイクトさん?」
「……コイツの発言を聞いて違和感を感じたんだ。これまでの敵は当然のように大将を敵として倒すために行動を起こしていたし、そのために今まで倒してきた敵も大将を攻撃していた」
「分かり切ったことだろ、んな事は。だからこうして邪魔されると思ったコイツは……
「もし大将がコイツの狙いだって言うなら真助と大将を間違えるのがおかしいんだ。だって……コイツがずっと化学準備室から視線を向け観察していたっていうなら外部から来た真助と大将を見間違えるはずないんだ」
「あっ……そうか!!ヒロムさんはここの生徒だけど真助さんは彩蓮学園から来た来客って事になるッスもんね!!」
「最初からヒロムが狙いなら外見的特徴を間違えるはずがないスね。それにヒロムを狙うのならこんな分かりやすいことはしなかったはずスしね」
「そう、だから考えたんだ。真助と見間違え大将とは異なる敵の狙う人物を」
「それが……シオンってことか」
「そっ。外観的特徴を除いたら《月閃一族》の末裔って点で共通してる部分で認識だけして間違えたって事だろうしね。そうだろ、間抜けな敵さんよ」
真助と誰かを間違えた敵の真の狙いはこれまでの敵とは異なりヒロムではなくシオンだと語ったイクトは敵にそれを突きつけるように真意を吐かせようとし、外堀を埋めるように思考を働かせるイクトに真意について問われた敵は軽い拍手をするとイクトの言葉に対しての回答と取れる言葉を返した。
「良良、流石は黒川イクトだ。まさか吾の狙いをこの短時間の僅かなヒントから見抜くとは見事だ」
「その言い方、オレの言い分は間違いないって解釈でいいよな?」
「正正、それで良い。標的としているあの男を見間違えた吾の失態は恥ずべき事ではあるが、吾の失態のおかげで今宵は面白き戦いを楽しめそうだ」
「……質問への答えになってないけど?」
「敵と会話を成立させるのが間違いなんだよイクト。アイツが敵なら倒して目的吐かせるしかないだろ」
「それについては真助の言う通りだね。カルラ、レンジを頼める?」
「任されたスよ」
「お、オレも……
「大将の大事な教え子に万が一の事があったら怒られるからね……とりあえず、見て学ぶのも修行と思って待機してなよ」
「まぁ、勉強になるかどうかは知らねぇけどな」
敵の狙いがシオンであると判明し、会話が成り立たないのであればやる事は1つだと言わんばかりに真助は殺気を発しながら黒い雷と共に妖刀《狂鬼》を出現させて右手に装備し、真助の殺る気から彼の言いたい事を察したイクトはそうする他ないと肯定して自らの影の中から黒い大鎌《月獄》を出現させて装備しながらカルラにまだ戦闘経験の浅いレンジを守るよう伝え、自分も参戦して力になりたい気持ちのあるレンジがそれを口にしようとするとイクトと真助はここは任せておけと言わんばかりに遮り見届けるよう伝え、そして……
2人は敵がどう動くか、どんな力を持つか謎であるにもかかわらず構えるなり地を蹴り走り出した。
「……戦戦、これを待ち望んでいた。ならば吾も本気になろう」
イクトと真助、2人が殺る気になり動き出したのを前にして敵は妙な気を発しながら戦いに身を置こうと動きを見せようとし、敵は何やら不気味な力を纏いながら左手を自らの顔にかざすように近づけさせた。敵が自らの顔へ近づけさせたその左手の甲には何かを意味するかのような、又は髑髏にも見えなくもない黒い痣があり……
「呪装展開」
敵が言葉を発すると黒い痣が妖しく光り、妖しく光る痣が左腕を介する形で敵の体に広がりを見せ、痣が体に広がると同時に敵の前に歪な形の長刀が現れ敵の右手に握られる。
歪な形の長刀を構える敵は……
「呼呼……吾の名は画切、オマエたちを倒して世を正す者なり!!」




