1008話 隠れるは不穏な目
ヒロムたちと分かれてヒロムたちに向けられていた視線とその主を見つけるべく校内の捜索に向かったイクトと真助、レンジ。
イクトと真助はまず視線を感じ取った先……先程いた場所に対して視線を向けていた地点へとレンジを連れて捜索を始めようとしていた。
3人が来ていたのはヒロムたちと話していた場所から1番遠いところにある4階建て校舎の4階にある『化学準備室』と書かれたダンボールが無数に積まれて置かれている教室だった。
とくに何かあったかのような痕跡は見当たらず、ただ積まれているダンボールと端の方に綺麗に並べられただけの机があるだけ。入口の扉を開けた状態でこの教室の中をイクトと真助は教室の中央に立つと沈黙した状態となり、何もなさそうなこの教室の中に違和感しかないレンジは2人に話し掛けるしかなかった。
「あの……お2人さん?本当にここなんですか?」
「……うん、ここで間違いないね」
「ああ、ここだ。場所としてはここで間違いない……が、ここではない可能性もある」
「えっと……トンチですか?」
「いやいやレンジ。真助は何も変な事は言ってないよ。ただものの例えとして少し言葉が足りないだけ……要するに説明不足ってこと」
「それはオマエの担当だろイクト」
「あー、はいはい。そうでございますね、と。あのなレンジ、今回の場合で言うと大将たちに視線を向けていた人物はここから見ていたんじゃなくて別の場所から経由する形でここから視線を向けていたって事なんだ」
「それって監視カメラとかみたいなもんですか?」
「そうだね。オレと真助が視線に気づいてるだけならともかく大将が気づけるレベルで見てたってなるとその線が濃厚だね」
「でも何でそんな事分かるんっすか?だってイクトさんたちが来るって分かってて逃げた可能性も……
「その可能性は低いスね」
真助に丸投げされたイクトの説明を聞いて理解はしつつも納得いかないところがあるレンジが考えられる可能性を挙げようとすると教室の中へカルラが入って来て彼の挙げようとした話について言い切る前に可能性が低いと伝え、話の腰を折られたレンジが唖然としているとカルラは彼に向けて理由と根拠を語り始めた。
「まず逃げたって線スけど、これは余程身体能力と知略に自信が無いと無理なんスよ。ここは姫城高校、最低限の戦力として見積もってもオレみたいな能力持ち教師がいる程度で済むスけど実際は日本最強の能力者として知られる一条カズキに匹敵すると言われているヒロムとそれに次ぐ実力派のガイやソラ、シオン、イクト……ヒロムの弟子のナギトを含めるとしても戦闘能力においてこの学校で真っ向から立ち向かうなんてのは無謀すぎるんスよ」
「巷では姫城高校に戦力が偏ってるって声が集まりやすいくらいには揃ってるからね、ここは」
「加えてここには精霊使いとしての実力のあるヒロムが軸になっている。ヒロムの精霊のフレイたちは主となるヒロムから離れても高レベルの戦闘能力を発揮出来るし、それが14人いる……となるとヒロムたちを遠くから肉眼で目視してるのがバレたと判断して逃げるにしても逃げ切れる保証どころかバレた段階で生きて帰れる確率も無いようなレベルになるんスよ」
「な、なるほど……」
「それにヒロムの精霊の存在を把握してるとすれば相手側も最悪の接触を避けるべく遠隔で済む方法を用いていたと思うスよ」
「とはいえその遠隔で済ませたであろうものが見当たらないのがなぁ……カルラ、ここって出入り自由なの?」
「いやいや、ここは教員の許可がないと鍵の貸出すらされない教室スよ。何せ化学準備室、生徒に容易く触られると困るものが置かれている訳スからね」
「で、アンタは何でここに?ヒロムに言われたのか?」
「違うスよ。ハルキにヒロムのところに行くよう伝えて校内の見回りをしようとした時にキミたちが何か探してるように見えたスからついて来たんスよ。そしたらここに入ったのが見えたので……ひとまずは教師としての責任を果たすためにって事で入ったんスよ。オレが口添えしたら正当化出来るスから」
「でもここ、イクトさんたちと来た時には既に鍵開いてましたよ?」
「それはおかしいスね。ここ最近は鍵の紛失等は聞いてないスし全ての部屋の施錠に対する最終確認は毎日行われてるスから仮に開いてたとしたら連絡入るんスけどね……」
「ならこの学校の中に敵が潜んでる、て事か?」
「流石にそれはないと思うスけどね……それより、何か見つかったスか?」
レンジの挙げようとした可能性に関して訂正を行うように話したカルラはここに来た経緯とこの『化学準備室』に関しての施術についての情報をイクトたちに話し、それを聞いた真助が内部に敵がいる可能性を挙げるとカルラはその可能性を否定したいような旨を口にした上でイクトに進捗を尋ねようとした。
「何も……ていうか仮に遠隔でここに仕掛けて大将たちを観察してたとなると本体がどこにいるかって話になるんだよね。その本体を見つけるためにもここに何かあった痕跡は最低限見つけたいんだけど……見るからに怪しいものはないんだよなぁ」
「なるほどスね……そうなるとこの教室の周りを調べるスか?」
「まぁ、隣りの教室とかの可能性もあるからそうする他な……
「イクト、その必要は無さそうだ」
目星となるものはない事からイクトはカルラの言うように他を調べる事も視野に入れて考えている事を伝えようとするが、そのイクトの言葉を遮るように真助は何やら見つけたかのような言葉で伝えるなり教室の外へ出ようとし、何を見つけたのか気になるイクトとカルラが真助の動きに合わせてついて行こうとすると突然真助は黒い雷をその身に纏うなり素早く右回りに動きながら振り向き、素早く振り向いた真助は短剣の形の雷を生み出すなり逆手に持つように左手で掴むと勢いよく投げ飛ばした。
突然の真助の行動に驚きを隠せなかったイクトとカルラは能力者として経験してきた場数からか咄嗟に左右に広がるように避け、2人の後ろにいたレンジも反射神経がよかったのか飛んでくると分かるなり素早く座り込んで難を逃れた。
突然何をするんだと文句を言いたそうにイクトたちは真助を睨むような目で見ようとするが、真助に3人の視線が向けられたその瞬間、3人の背後で何かが崩壊するような音が鳴り続け始めた。
3人が避けたせいで真助の奇行による投擲が教室のガラスを割ったのかと3人は一瞬考えるもそれにしては音が止まずに鳴っていることが気になった3人は慌てて振り向くと……
「えぇ!?」
「何なんスか、これ……!?」
「真助、これって……」
3人が真助の奇行をきっかけに目にしたもの……それは視線を向けていたものの正体を探ろうとしていた教室の何も無い空間に突き刺さった短剣の形の雷とその雷が刺さった部分を起点にガラスのようなものが次から次に教室内へ散っていく光景だった。
不気味としか言えない光景、これが何を意味するのかイクトたちが分からず警戒しようとするしかない中で散りに散ったガラスのようなものが教室全体に広がっていき、教室全体にガラスのようなものが広がり渡るとその瞬間、化学準備室にいたはずの彼らはいつの間にか紫色の気味の悪い空の下の荒廃した大地の上に立たされていた。
そして……
「テメェが視線の正体って事だよな?」
教室とは掛け離れた場所に立たされるという明らかな異常の中で真助は殺気を放ちながら視線を向け、彼の視線を向けたその先には……
狐の意匠の仮面をつけ体をマントで覆い隠した怪しき者が立っていた。
「……良い良い、面白き強者よ」




