1006話 各位進展
少し進んで放課後……
全ての授業を終えて生徒たちは部活に向かうか家への帰路につくだけとなり、そんな中でヒロムたちは姫乙女学院と彩蓮学園の面々が来るのを待つ事となるのだが……
それとは異なり別件で予定を入れていた事となるソラとシオンはその予定のために放課後になると同時にすでに学校から出ており、2人は今朝のシオンからの約束のためか学校から少し離れた所にある河川敷に来ていた。
ソラとシオンが事を進めようとしている傍らでイグニスが保護者代わりを務めるかのように少し離れた所で戯れる子猫の精霊・キャロとシャル、リスの精霊・ナッツを見守っており、とくに気にする事も無いシオンはソラとの約束を守ろうと何やら用意を進めていた。
肩手が収まる程度の大きさの円を地面に描き、その中央にまだ開封すらされていない炭酸飲料が入った缶が立てられるように配置された奇妙なものを用意したシオンは自身の用意したそれから離れてソラのもとへ歩み寄ると手頃なサイズの石を4つ拾いながら話し始めた。
「まず大前提としてオレはゼロの教えを否定する言葉を使う」
「いきなりだな」
「ゼロの教えは大部分だけで見れば取捨選択による必要性の確立、無駄を省くという事だ。ソラの緋色の炎と紅蓮の炎の使い分けによる出力安定を可能とした『双炎機構』がその賜物と言える」
「つってもアレはその場しのぎな感覚はある。結局あの戦いの裏で四条貴虎と激闘を繰り広げていたヒロムは幻霊の因子を発現させるどころか4種族の因子の組み合わせによる複数同時発動を実現してたらしいからな。それに比べるとオレのは霞む」
「だがその因子の複数同時発動もヒロムが土壇場まで追い詰められたが故に出たアイデアとも言える。アレを超えるつもりならソラに求められるのは常にアレと同等の技術を発揮する事……つまり、技術的に大きく進展する事だ」
「その技術的な進展として『双炎機構』は弱いってか?」
「強みにならない、というだけだ。言い方を変えているだけであくまでそれは緋色の炎と紅蓮の炎を適材適所で使い分けているだけだ。ガイが基本として《折神》を使う中で状況に合わせて二刀流を成すための霊刀の組み合わせを変えるようなものだからな」
「そうかよ。で、それは?」
「今オレが用意したのはソラの今の技量に対してオレの技術として教えられる新技実演のための実験セットだ。この缶を敵、その周りの円を効果範囲と置き換え……オレが持っているこの4つに石をソラの紅蓮の炎とする。その上で……」
ゼロのアドバイスから生まれた双炎の使い分けによる出力安定を可能とする『双炎機構』について物足りないと指摘した上で必要なのはそれ以上の技術を常に発揮する事だと語ったシオンは自身の設置した缶と囲むように描かれた円について説明しながら先程拾った石4つに雷を少し帯させながら円の縁に着地するよう缶の四方へ投げ落とした。
缶を中心に描かれた円のすぐそば、四方に1つずつ雷を帯びただけの石が順番に落ちていく。説明される側のソラからしたらその程度のものを見せられると思うしか無かった。
だが、シオンが投げた4つ目の石が最後に落ちたその時だった。4つの石全てが地面に描かれた円の縁に触れるように落ちたと同時に突然缶が爆ぜ、中の炭酸飲料が周囲に弾け飛んでしまい、缶が爆ぜた事で大きな音が響いてしまってイグニスが面倒を見ていたキャロたちは驚きのあまり彼の後ろに隠れようとし、突然の目の前の出来事にソラが驚き言葉を失っているとシオンは話の続きを語り始めた。
「今のはソラとイグニスが新たな得た技法の『熱伝導』を用いた際に実現出来るであろう技だ。この程度では《世界王府》の能力者相手には付け焼き刃にしかならないだろうが、これを容易く実行出来るようになればオマエは確実に進化出来る」
「熱伝導の技術にこんな使い方が……」
「ただ、この程度の事を披露するために先約を組んだわけじゃない。ソラ……ここからがオマエにだけ先行公開する『面白い』ことのお披露目の時間だ」
シオンの実演によるソラの持つ技術に隠れた可能性を見せられたソラが驚く中でシオンはこれだけではないとして彼に何かを披露しようとし……
「いくぞソラ……ここから先は異次元だと思え」
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同じ頃
エレナやミユキたちの来訪を校庭でガイやイクト、ユリナたちと待つヒロムは何故か落ち込んでいた。
「……何で見つからなかった……?」
「ヒロムくん、元気出して!!」
「ワン!!」
落ち込むヒロムを励まそうとするユリナと白丸。しかし来訪をヒロムやユリナら少女ちと待つ事となったガイとイクトは呆れたような反応を彼に向けようとしていた。
「ヒロム、流石に無理があったな……」
「というか名案思いついたかのようにサクラに意気揚々と任せろと言った上で大将が実行したのがまさかの白丸たちの校内散歩だからね」
「うっ……けど、実際声を掛けるきっかけがなくて困ってるだろう当事者にきっかけを与えようとしたんだぞ?」
「ヒロム、何とかしようという気持ちは分かるのだけれど白丸たちの校内の散歩はある意味今までフレイたちが定期的にやってくれていた事だから物珍しさもないしヒロムがそれを実行したとしても散歩の保護者が変わった程度にしか認識されなかったのかもしれないわ。やるならもう少し視点を変えるべきだったかもしれないわね」
「サクラもか……結構いい案だと思ったんだけどな」
「というか、白丸たちの散歩中に声掛けられるのなら昼飯食うのにユリナたちが集まってるタイミングの方が声掛けやすくないか?同性がいる状況の方が気楽にいけるだろうし」
「まぁ、極端な人見知りでもない限りタイミングなんていくらでもあるだろうから大将がわざわざ用意する必要もないと思うよ、オレは」
「へいへい……とりあえず今回のは失敗って事で忘れさせてくれ」
昼休みに現状を何とかしようと動きを見せようとしたヒロムが出したアイデアを彼自身が実行したらしいが不発に終わったらしく、それについてガイとイクトはちょっとしたダメ出しをし、さらにサクラも考え方が少し違ったかもしれないと改善の余地を伝えようとし、ダメ出しをしつつもガイとイクトに励まされたヒロムは今回の失敗を忘れようとため息をつくしかなかった。
そんな中、何かに気づいたヒロムはユリナに尋ねようとした。
「そういやユリナ。ナギトは?」
「え?ナギトなら放課後ここに集まるなら人増えるし自分がアイデア出すための知恵貸す必要性無くなるから抜けるって言ってたよ?」
「……アイツ、逃げたな」
「まぁ、いいんじゃない?大将が知恵借りようと頼った結果とくに意見する事もアイデア出す事もなかったなら居ても居なくても変わんないっしょ?」
「イクト、言い方……」
「言い方悪いがその通りだな。アイツが他で何かやる事あるってんならそれはそれでいいし、こうなったらガイとイクトの知恵借りるくらいの考え方で切り替える事にする」
「まっ、大将よりはコミュニケーション能力あるから任せてよ」
「一応の手助けしか出来ないと思うから期待するなよ?」
知恵を借りようとヒロムが頼ったはずのナギトは結局のところとくに手を貸す訳でも無くどこかへ行き、代わりとしてガイとイクトはヒロムのために何かしら力になろうと前向きな姿勢を見せようとしてくれた。
2人の助力を確保したヒロム、今はまずユリナたちと同じ夢を見たという人物に出会ったミユキやエレナたちが姫城高校に来るのを待つしかない……のだが、そんな彼や彼の仲間たちの気付かぬところで何やら視線を向ける者が……




