1004話 新たな旧知の存在
一方……
シオン、ガイ、ソラ、イクトが去ってからナギトの知恵を借りながらユリナたちの見たという夢について彼女たちと話しながら登校を続けていたヒロム。
シオンたちが何処で話をしているかは分からないが彼らより先に自分たちの通う学校である姫城高校へ到着し、ホームルームが始まるまで時間があるという事もあり白丸や飛天ら幼い精霊たちの遊戯の時間として校庭で時間を潰そうと白丸たちを見守ろうとナギト、ユリナ、リナ、スミレ、チノ、サクラと保護者として同席しているヒロムは思いもしないイベントに遭遇する事となっていた。
「あっ、いたっスね」
「ん?カルラ……って、は?」
白丸たちが可愛らしく戯れるのを見守るヒロムたちのもとへヒロムやユリナたちの担任教師のカルラが何からを探していたのか漸く見つけたと言いたげな口調で彼らのもとへやって来、カルラが来た事に気づいたヒロムは彼に視線を向けると何故か怪訝そうな顔をしてしまい、彼のその反応を不思議に思ったユリナたちもひとまずカルラの方を注目しようとした。
ヒロムたちの視界には当然だがカルラの姿が入り、そしてカルラだけでなく彼らの視界にはもう1人の人物が入っていた。
金色の髪をオールバックにでも見せるかのようにセットされたヘアスタイルに上下黒いスーツで整えた服装をした成人男性と思われる顔立ちの青年がカルラの隣に立っており、青年はヒロムたちの視線に気づくと笑顔で軽く手を振り、そして……
「坊ちゃん、久しぶりッス」
「……テメェ、その呼び方やめろって言ったろハルキ」
「何?天才の知り合い?」
「ヒロムくんの知り合いってことはもしかして《姫神》の人?」
「……谷亀ハルキ、何年か前までオレの世話役だったバカだ」
「坊ちゃん!?バカってのは流石に……
「おい、次その呼び方と話し方したら皮削いで肉干すぞ?」
「す、すんませ……ご、ごめん!!いや、何と言うか昔の感覚が抜けねぇんだよ」
「その昔の時からオレはその呼び方される度に殴る蹴るして分からせてたはずだが?」
「うっ、次から気をつけるって坊ちゃ……ヒロム」
「言ってるそばから言いかけてるぞ。まぁ、次言ったら蹴り飛ばすから覚えとけ」
「天才、このハルキって人は何者なのさ?」
「ん?あー……コイツはカルラと同じで一応はオレの世話役として母さんに選ばれたんだ。10くらいしか歳離れてねぇから世話役っていうか面倒見のいい兄貴分みたいな感じで接してくれてたし、カルラは頭良かったから教員免許取得して学校内外両方でサポート出来るようになってくれて、ハルキも頭悪いなりに資格取ったりしてサポート出来るようになろうと母さんところで頑張ってたんだが……ここに来たってことはまさかの教員免許取れたってことか?」
「いや……それがそこまで頭良くないってのもあって受けてはみたものの実力不足で取れなかったんだよ」
「資格は取れなかったスけど、それでも取れるだろうギリギリラインまではがんばってたスからハルキもそれなりに学力はあるスよ」
「教員免許取れなかったのなら何でここに?」
「もちろん、ヒロムたちの役に立つためスよ。今日からハルキにはキミたちが授業を受けてる間の白丸たちの世話役を担当してもらう事になったスよ」
「へー、そうか」
「反応軽っ!!いやいや坊……ヒロム、もっと驚くとかないわけ!?」
「ない。まぁオマエが白丸たちの面倒見てくれるなら安心だなって感じにしか思ってない」
「……なんか反応薄くてショックだな」
「だから言ったスよね、どうせヒロムの反応薄いって。なのに期待するハルキの方が悪いスよ」
「期待するような事でもないのにな。でも何で今更になってハルキが保育士みたいな事任されるんだ?」
青年……谷亀ハルキと旧知の仲なのかヒロムは当たり前のように接し、ヒロムの接し方や反応にハルキがどこか残念そうな反応を見せると言わんこっちゃないとばかりにカルラはため息をつく。
この3人の会話とやり取りにハルキを知らないナギトやユリナたちは置いてけぼりのような状態となり、そんな事など関係なしにハルキがヒロムたちの授業中の白丸たちの世話役として姫城高校へ来た事を聞かされたヒロムは何故今になってなのかを疑問に思い、ヒロムがその疑問を口にするとカルラは彼に疑問の答えを語り始めた。
「これも全部は白崎蓮夜を名乗っていたサウザンのせいスよ。あの男が《姫神》に寄生していた間に仕込まれたであろう種を摘むために愛華様と蓮華様があの男が手を出していたであろう場所を調べる動きを取り始めたんス。で、その一環としてヒロムたちのフォローもって事でまずはハルキを世話役として手配しようってことになったスよ」
「アイツか……それはいいが個人的な理由で動いてないだろうな?母さんはともかく蓮華さんは《月翔団》の事で親身になってたから私怨で動きかねないだろ」
「その点は大丈夫スよ。将来的にキミが当主になる《姫神》の負の部分を取り払うなら手を貸すと鬼桜葉王が《一条》の人間数人と協力を申し出てくれてるんスよ」
「あの死に損ない先祖が……オレが導一の前で当主になるって言ったのマジで実現させるつもりだな」
「とは言ってもキミもあの人の手を借りる事は嫌ではないのだろ?」
「……まぁ、アイツはアイツなりに未来の事を考えて力を貸してくれてるだけって事は理解してるからな。嫌というよりはアイツのそういう思いを無駄にするような態度は取りたくないだけだ」
「素直じゃないスね」
「うるせぇ。とりあえずハルキ、白丸たちのことは任せていいよな?」
「うっす!!お任せあれ!!」
「そうか。基本的に飛天と希天が白丸たちのお兄ちゃんお姉ちゃんとして頑張ってくれるからそれを手助けしてやってくれ。今まではフレイたちが見てくれてた分意思疎通の面は不自由なかっただろうけど白丸たちが何か伝えたそうにしてたら飛天と希天に聞いてみてくれ」
「了解です。安心して任せ……
「ギャウギャウ♪」
ハルキが手配された理由について聞かされ、その裏で鬼桜葉王が協力してくれていると知った事で少し複雑な感情を抱くヒロムは切り替えるかのように白丸たち幼い精霊たちとの接し方を伝えようとし、ヒロムの話を聞くハルキが理解した旨を示すように返事をしようとするとハルキの事を遊び相手と雰囲気で認識したと思われる子竜の精霊・ドランがハルキの体をどうにか登って頭の所まで来ると嬉しそうにハルキの髪を引っ張り始めた。
「いっ……!?坊……ヒロム、この子は!?」
「今言おうとしたがドランが1番暴れん坊で遊び盛りだから油断するとそうなる。基本的に遊び続けるか疲れて寝るかしか考えてないから気をつけろよ」
「えぇ!?そんな危険なんすかこの子!?」
「危険っていうか大将がオレとかアキナみたいな耐久力高めな相手に対しては好きにさせてたせいだけどね……大将の子育てって放任主義に近いし、基本怒ることしないで甘やかすことしかないからさ」
「ドラン、放課後はイクトを殺す気でオモチャにしていいからハルキには加減しとけ」
「ギャウ♪」
「大将!?オレの事、人として認識してなくない!?」
「まぁまぁ、キミたちの可愛い精霊たちの待機時間の相手をハルキが務めてくれるという事を理解してくれたみたいスし……そろそろ教室に向かってくださいスよ」
日常の些細な変化、谷亀ハルキの登場はヒロムたちの学校での過ごし方を多少なりとも変化させ、そしてその変化はきっと白丸たち幼い精霊たちにもより良い影響を与えるのだろう。
ただ……
彼らのこのやり取りが行われている間、校舎の中から『誰か』がそれを見つめるような視線を向けていた事には彼らは気付いていな……
「……?」
ヒロムたちの日常に生まれたやり取りに向けられる視線、それに気づいたのかユリナは不思議そうに校舎の方を見ていた。
この視線、それは何を意味するのか……




