1001話 不思議な偶然
一条カズキと千山警視総監による記者会見の内容は暫くテレビで取り上げられない日が続くの度のものになっていたが、渦中にあるはずのヒロムたちにはその話題性を気に止める暇などなかった。
《世界王府》の内通者、その内通者を担っていた天罰の天霊・サウザンの正体が白崎蓮夜だと明らかになった事で《世界王府》を相手に戦うヒロムたちの中で明確な敵が1人出来、それにより彼らはその敵を倒すためにとひたすらに特訓を重ねようとしていた。
ヒロムの所有する屋敷の地下にあるトレーニングルームも白神導一の件を経て協力関係として強く名乗り出てくれたものたちの融資により改良が加えられ、トレーニングルームとしての機能だけでなく施設の数そのものを増築した事で複数人が同時に特訓しやすい環境が整った状態となっていた。
整った環境での特訓、とはいえ彼らも学生の身分。常に特訓を行えるわけではなく平日においては一般的な学生同様に登校し勉学に励む必要もある。
その登校中の事だった。
「夢を見たぁ?」
屋敷を出て自分たちの通う学校に向かうヒロムたち。気がつけばヒロムの屋敷での生活が当たり前になっているユリナたち女子陣も共に登校している事から集団での移動となっており、異なる学校に通えど途中までは共に行動し途中で一旦分かれ引き続き登校している中、姫城高校に向かう途中のヒロムは自身の精霊である白丸たちを目に入るところで散歩させる中でユリナから相談を受けていた。
「う、うん。何も見えないような暗闇の中にヒロムくんに似た虹色のコートを着た人が出てきて、その人が虹色の光を周囲に飛ばすと暗闇が晴れて……て夢だったの」
「ふーん、夢ねぇ……てかユリナがどんな夢を見たのか聞かされてもなぁ……て感じだな。そういうメルヘンな話は飛天か希天に聞かせて楽しませてやるといいよ」
「ひどい!!せっかく話聞いて欲しくて話してるのに!!」
「人間なんだから夢くらい見るだろ?オレだって昨日くだらなき夢を……
「サクラ!!ヒロムくん真面目に聞いてくれないから代わりに話して!!」
「もう、仕方ないわね……ヒロム、話を聞いてくれる?」
「たかだか夢の話に必死すぎんだろ……なぁガイ、ソラ?」
「まぁ、こういう会話もいいんじゃないか?」
「興味もなく横で聞かされるよりマシだと思え」
「オマエらなぁ……」
昨晩見たとされる夢の話をしようとするユリナに無関心に近い反応を見せるヒロムに対してユリナはサクラに話してもらおうと彼女を頼り、どうにかして話を聞かせたいユリナにヒロムが呆れる中でガイとソラは呑気な反応を見せ、2人の呑気な反応にもヒロムが呆れているとサクラはユリナに代わって彼女の夢の話をする……のかと思われた。
「ヒロム、ユリナはアナタにそっくりな人を夢の中で見たのよ」
「聞いた聞いた。わざわざ言い直さなくても……
「その夢をエレナとリナ、スミレも見ているのよ」
「……は?」
「これが単なる偶然なら構わないのだけれど……4人が同じ夢を見たのはこの間のライブハウスでの戦いのあった次の日、そして昨晩にユリナはまた同じ夢を見た」
「4人が同じ夢見たから何かあるってのか?」
「いいえ、4人じゃないのよ。屋敷にいた私たちのほとんどがその夢を見てるのよ」
「……は!?」
ユリナの夢の話かと思いきやまずはユリナと同じ夢を四条貴虎との戦いのあった日の夜に彼女がエレナ、リナ、スミレが見ていた事をヒロムは聞かされ、そこに驚く中でサクラは昨晩にユリナの話す夢を屋敷で生活をする女子陣が見ている旨を伝え、それを伝えられたヒロムは流石に驚くしか無かった。
「何?何かのドッキリ?」
「そう思いたいのは私の方よ?でも実際私たちは見てるのだから」
「それって全員なのか?」
「いいえ、ガイ。今話したように『ほとんど』、よ。タクトとの間に霊装の繋がりが出来てるメイアは見ていないそうよ」
「タクトとの霊装の影響で見なかったのか?」
「そこは分からないわ。それと……付け加えるのなら屋敷に居住を移す予定のトウカも見ているらしいわ」
「無差別か?」
「ソラの言い方が気にはなるけど何かしらの法則性があるのは間違いないないわね。現にまだヒロムと正式な対面を果たしていない裏では私たちを含めた《セブンプリンセス》と呼ばれてる7人の中の残りの3人も同じ夢を見たと確認が取れてるわ」
「何それ!?何のホラー!?」
「ホラーって言われると返す言葉がないわイクト。でも、今言える事は最初にユリナたち4人が見た夢を今度は私たちを含めた多くの人間が見ていたって事よ」
「……大将、心当たりは?」
「ない」
「本当にないのかヒロム?」
「無い、というか疑うなガイ」
「オマエの事だから何かやったろ?」
「オマエはいちいち当たりが強いソラ」
「天才だから仕方ないよ」
「オマエはせめて関心持てやナギト……!!」
あまりにも突拍子もない前代未聞の出来事として情報提供として話したサクラの言葉に対してイクト、ガイ、ソラ、ナギトは順番にヒロムに向けて言葉を発し、順番に発せられる言葉にヒロムが真面目にツッコミを入れる中でシオンはサクラに向けて彼女たちの見た夢に関して情報を引き出そうと質問をした。
「サクラ、質問なんだがその夢で見たのはヒロムに似た人物だけか?」
「ええ、人物だけでいうとその1人だけね。でも暗闇が晴れた後にはその人の周りに異なる色の光が4つ、その周囲を囲むように103の光があったわ」
「ちなみにだがサクラはその人物を正面から見ていたのか?」
「いいえ、私はその人を右側……その人から見て大体2時の方向で見ていた状態になるわ」
「……ユリナは?」
「え、私?私は正面から見てた感じだったよ?でも……103個も光あったのかな?」
「んだよ、ユリナとサクラで見てるもん違うじゃねぇか」
「でも同じ人を見てるんだよヒロムくん。何かあると思わない?」
「たまたま見ただけだろ?」
「適当すぎる」
「いや、たまたまなのは間違いないだろうな」
「えぇ!?シオン、サクラに質問して分かってくれたんじゃなかったの!?」
「だからこそ『たまたま』と言える。ただし……オレの言うたまたまってのはユリナたちが揃って同じ夢を見た事に対してではなくユリナたちが揃ってその夢を昨晩見せられたって事に対してだ」
「?」
「シオン、説明してもらえるかしら?」
「サクラの話を聞く限りユリナが最初に見た時はユリナを含めてエレナ、リナ、スミレの4人が同じ夢を見ていた。エレナはここにいないから確認のしょうがないが……リナとスミレはどの角度から見ていた?」
「え、えっと……左側だった気がする。スミレはどうだった?」
「私は右側だったと思います」
「え?同じ夢を見ていた4人がそれぞれ異なる角度……エレナの返事次第では4方向から大将のそっくりさんを見てた事になるの!?」
「それも同じ夢を見ていたと認識出来るレベルで似た人間をだろ?ありえるのか?」
シオンがサクラに尋ねた質問の内容から明らかになる彼女たちの見た夢の詳細。シオンがさらに掘り下げるようにユリナたちの話を聞く中で不可解な要素が浮かび上がり始め、それによりイクトとソラが信じられないと言いたそうな反応を見せる中でガイはシオンの話を聞いた中でサクラの説明の内容からある事を気づいてみせた。
「サクラの話していた103の光……それってこの夢を見ていた人間の意識って解釈にならないか?」
「どういうこと?」
「ユリナの話だとユリナたち4人はヒロムそっくりな人間を四方から見ていた認識があり、サクラの話の中で四方からその人間を見れるのはそいつの周りにあった4つの光って事になる。もしこの4つの光がこの夢を見ていたユリナたち4人の意識だとしたらサクラの言う103の光は他の……同じ夢を見ていたユキナやアキナ、ヒカリやチノたちの意識って可能性がある」
「つまり……その夢を見ていた私をカウントするなら104だったって事?」
「夢の内容から整理するならだけどな。でもこれなら話としては成立する周りを囲む光の1つの中にあったサクラが全体を見れたが故に他の103の光が確認できた。でも正面からヒロムそっくりな人間を見ていたユリナは正面方向しか確認できない状態だったからほかの光を認識出来なかったって事になる」
「そうなると……大将そっくりな人間と108の光の話になるね」
「108って天才の煩悩の数の暗示?」
「可能性あるね」
「ねぇよ。てかオマエらふざけてんのか?」
ガイの気づいた点から紐解かれるユリナたちが同時に見た夢の話。108の数字から煩悩と茶化しふざけるナギトとイクトにヒロムが少しイラッとしながら2人を威圧するとシオンは咳払いをした後にサクラに驚きの質問をしてみせた。
その質問は……




