100話 不満の声
葉王の話でガイたちが覚悟を決めやる気になっている頃……
リビングにてヒロムとカズキは向かい合うようにソファーに座っており、重い空気感の中でユリナは恐る恐るヒロムとカズキにそれぞれコーヒーの入ったカップを置く。
カップを置くとユリナは会釈をしてその場を離れ、入口の方に行くとヒロムとカズキの話を盗み聞こうとするサクラたちに合流して恐る恐る覗き込もうとする。が、ユリナたちの視線が気になるのかカズキはコーヒーを1口飲むと彼女たちに伝えた。
「気になるなら中に入って聞いてくれて構わない。
そうやって聞き耳立てられながら見られるのは話しにくくて仕方ない」
「い、いいんですか?」
「キミたちが姫神ヒロムのことを気にかけてるのは理解している。そんなキミたちの気持ちを蔑ろにして話をする気は無い。キミたちに聞かれたくないような話をしに来たつもりは無いし、仮にキミたちに聞かれてくないのならばそれは姫神ヒロムを危険に晒すこと。姫神ヒロムは仮にもオレたちに協力してくれている立場であり危険に無理強いすることは必要ない。そんなことをあえてするほどオレは愚かではないしな」
「じゃあ……いいですか?」
構わん、とカズキが言うとユリナたちは恐る恐るリビングの中に入るとヒロムの方に集まっていく。ユリナたちに対して気を遣わせまいとカズキは優しく言ってはいるがそれでもユリナたちは彼に対して少しの警戒心を抱いてしまっている。だがカズキはそんなことなど気にせずにヒロムとの話を進めようとする。
「さて、姫神ヒロム……オマエの素直な意見を聞かせてくれ」
「それは大淵麿肥子のことか?それとも勝手に決闘なんか決めやがった葉王のことか?」
「言いたいことがあるのならどちらでも構わない。
仮にもオマエは今回の件に関しては被害者に等しいからな」
「そうか……なら、とりあえずまずは葉王のクソ野郎を殴るなりさせてくれ」
「良心が痛まないなら後で好きなだけ殴れ。他に言いたいことは?」
「手っ取り早く話を進めるのなら大淵麿肥子は何でこのタイミングでオレのことを問題視するようなことを言い始めた?半年も前にアンタと葉王の提案を政府と警察の双方が納得して昇任したことなのに何で今更文句を?」
「……大淵麿肥子は元から《センチネル・ガーディアン》のシステムには反対していた。民間人でしかない能力者に権限を与えれば能力者は調子に乗り始めて何をするか分からないと主張したのが始まり、そこからは《世界王府》の能力者が現れる度にオレたちに《センチネル・ガーディアン》は《世界王府》のテロリストを捕まえられなかったとして苦情を入れている」
「防衛大臣としての管轄の外にあるオレが何がするのが気に食わないって話か?」
「そんなところだろうな。だがオレたちとしてはテロリストの出現に対して警察は動いても自衛隊や軍については動きを見せていない点を指摘し、その上でオマエが何もしなかった場合に起こりうる被害について話しそれが現実になった場合の対処などをどうするか問うとこれまでは黙って帰るだけだった」
「だが今回は違うんだな?」
「ああ。何を思ったのかヤツはまずは千山に口出しできないように裏で暗躍してたらしく現段階で警視総監という立場からのフォローを出来なくしている。その上で葉王に《センチネル・ガーディアン》の必要性を問うと同時に自信満々に代用策を提案してきたのが今回の件の始まりだ」
「オマエも葉王も黙ってるわけないだろ?なのに何でそいつは頑なに意見を通そうとした?」
「ここ最近は《世界王府》の活動そのものが活発になっている傾向にあった。なかでもビーストやペイン、リュクスといった幹部クラスの連中が頻繁に現れては暴れるような状態、それをオマエや《天獄》のメンバーが傷つきながら止めているという事実があるにも関わらず大淵麿肥子はオマエらが取り逃してるなどと偉そうに言ってるんだよ」
「はぁ!?何それ!?
ふざけすぎじゃないの!!」
カズキの口から大淵麿肥子について語られると我慢できなくなったのかアキナが怒りを交えながら話に入るように言うが、ユキナとエレナは落ち着くように彼女を宥めるとカズキに続きを話すように視線を送る。アキナの反応に多少は驚いていたらしくカズキは少し意外そうな顔をしていたがすぐに平静さを取り戻すとヒロムに大淵麿肥子について話していく。
「現実問題として大淵麿肥子は《世界王府》のメンバーが1人で一国を滅ぼせるだけの力を隠していること、今の段階でオマエらを相手にしてる時にそれを使っていないことを理解していない。ましてペインはこれまで別の世界をいくつも破壊している未知の能力者、そのペインが別の世界で得た知識でノブナガや《魔柱》といった敵が現れているのだからこの先何が起きるかなんて想定しようとしても不可能な状態だ。なのに大淵麿肥子は結果しか見ていない」
「過程を理解させるしかないってことか?」
「いいや、そんなのは時間の無駄だ。だからこそ葉王は手っ取り早く大淵麿肥子に現実を分からせようと決闘を受けたんだろう。自分の信じる戦力が何の力も発揮せずにオマエらに潰されて無力であることを思い知らされる、大淵麿肥子に全てを理解させるにはそれが有効な手段だと考えたんだろうな」
「あ、あの……」
カズキの話を聞くヒロムの後ろからユリナが恐る恐る声を出すとカズキに対して自分の中の不安を解決しようとある質問をした。
「もし……もしヒロムくんたちが負けたらどうなるんですか?」
「え?ユリナ、オレが負けると思ってる!?」
「ち、違うよ!?その……もし、もしもの話!!
もしもヒロムくんが負けたらどうなるのかと思うと……」
「キミの不安も理解出来る。
その不安を理解した上で言うなら姫神ヒロムはもちろん他の《センチネル・ガーディアン》は事実上与えられた権限を剥奪され、その恩恵を受けていた《天獄》も活動が制限させられる。何せ権限を剥奪されれば姫神ヒロムたちは《世界王府》が現れて戦ったとしても危険行為として取り締まりの対象にされてしまうことになるな。正当な理由があったとしても今の日本の警備体制等の前では処分の対象とされて終わる」
「そんな……」
「だが、大淵麿肥子の用意した能力者に負けなければそうはならない。というか姫神ヒロムがあの男の用意する能力者に負ける確率なんて限りなくゼロに近いからそこまで気にしなくていい」
「限りなくゼロに!?」
「ていうか、それなら決闘受ける意味なくない?
ヒロムが勝つの目に見えてるのなら何で……」
ヒロムが負けることはほぼありえない、そうカズキが断言することにエレナが驚き、その一方でユキナがわざわざ決闘を受ける意味があったのかと疑問に思う。そんな彼女の疑問についてカズキが大淵麿肥子に対しての思惑を交えて話していく。
「先程も言ったが1つは現実を理解させるため。大淵麿肥子は《世界王府》のことを理解していない。仮にヤツが今後何かの理由で《世界王府》対策を取るにしても今のままじゃ何をしても無駄に終わる。だから姫神ヒロムには証明してもらうんだ……《世界王府》とやり合うには姫神ヒロムとその仲間に匹敵する能力者でなければ役に立たないということを。その上でオレはもう1つの目的を裏で進めるつもりなんだが、オレとしてはこっちの方が重要だ」
「裏で?」
「オマエ、オレたちを利用して何するつもりだ?」
「何も企んではいない。ただ、大淵麿肥子の今回の動きからヤツが《世界王府》と内通してるものの可能性があるからそれを確かめたいだけだ。オマエがペインを1度は追い詰めた、そんな功績を残した矢先にヤツがオマエを否定しようとした……となれば《世界王府》は日本政府の内部から日本の防衛戦力を削ごうとしてる可能性が考えられる」
「考えすぎじゃないのか?」
「考えすぎがちょうどいいくらいだ。何せ相手は《世界王府》への対抗戦力を個人の価値観で平然と終わらせようとする野郎だからな」
さて、とカズキは突然区切りをつけるように言うとヒロムを見ながら彼にある話をするべく話題を変えた。
「オレは別にオマエに中年太りの大淵麿肥子の話をしに来たわじゃない。オマエの疑問に答えるために来たんだからな。姫神ヒロム……オマエは自分の中にある可能性について知りたくないか?」
「可能性?それは何についてだ?」
「簡単に言うなら……霊装についてだ」




