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神世界のパイオニア  作者: 松梨隆也
開拓の星と呼ばれる男
8/10

伸びる魔の手 後編

少し遅れて投稿です。

そして短めです。

 だが男たちもただのチンピラではないらしい。

 エリゼの動きを見て確かな動揺を見せたが、それでも激昂して闇雲に攻撃性ることもなく、一定の距離を保っている。

 大方先程の蹴りを見て、エリゼが近接戦闘に長けていることを見抜いたのだろう。武器を持っている様子がないのにも気づいている。


「意外と冷静ですね」

「ああ、正直驚いたぜ。アンタも開拓士なのか」

「アンタも、ということは貴方も同業者ですか?」

「……元、だがな」


 男たちの表情からは油断を感じない。かつ丸腰では不利と覚ったのか、各々が携帯していた武器を取り出し始める。

 彼らは先程までの侮っていた態度を消し、警戒と明確な敵意を向けてエリゼを囲むような陣形をとった。


(一、ニ、三、………全員で六人ですか。流石に多いですね)


 通常のチンピラ風情であれば、六人いようが十人いようが、エリゼが負けることはない。

 しかし同業者であれば話は別だ。

 元ということは既に引退したのか、或いは素行不良で開拓士としての資格を剥奪されたのか。彼らの現在の行いを見るに後者が有力だろう。


(問題は元はどこまでの実力者だったかってことだけど……)


 エリゼの予想では、リーダー格と思って蹴り飛ばしたスキンヘッドは油断していたことを含めても精々三級に届くかどうか。他の男たちも同程度ど見て間違いはないだろう。開拓士の階級制度は厳しいため、二級と三級で階級が近くても明確な実力差は存在する。

 しかしそれは一対一の場合でのみだ。複数人に対しても戦えない訳ではないが、この場合相手がどのような能力を持っているかをエリゼは把握していないことが問題だ。


(さっきの詠唱で魔術を使えるのは向こうにバレてる)


 本来エリゼの得意とするのは魔術による身体強化から繰り出される高速な近接攻撃。それも蹴り技を主体とした打撃戦だ。

 対して彼らは武器を使用する。短剣などのリーチの短い武器を持つ者であればエリゼとの間合いの差は殆どないため戦闘で遅れを取ることはない。しかし彼らの中には槍使いや、見れば北方のヴォルフォルス帝国製の魔銃を持つ者もいる。

 魔銃とは銃自体に術式を施し、人体内にある魔力を込めると決められた魔術が無詠唱で出せるという代物だ。これにより魔術にある程度精通していなくとも、魔力を持つ者ならば一般人ですら遠距離攻撃を可能する。

 これは近接格闘を主とするエリゼにとっては最大の牽制であることに相違ない。中距離ならず、遠距離まで対応する彼らとまともにやり合うのはエリゼにとっても得策ではないからだ。


(中距離あたりまでの攻撃手段ならなくはないけど、それを警戒してか距離も空けられてるし……。隙を突かれて魔銃で狙い撃ちされたら元も子もない)


 スキンヘッドの男は油断していた上、丸腰で真っ直ぐエリゼに向かっていたため、一撃をすんなり当てることができた。リーダー格と思っていた彼を倒せば、ただのチンピラ風情であれば怯えさせて追い払うことも可能とエリゼは見ていたが。


(何よりも対応速度と切り替えの速さ。元開拓士だったとしても少し()()()()()ますね)


 ただ絡んできただけのチンピラかと思っていたが、その認識を改める。

 初めに突っ込んできたスキンヘッドはエリゼのことを知らない様子であったため、自身の出自を知っている者による金銭目的の誘拐の線は薄い。更には彼の口ぶりから狙いは後ろの少女を含めた二人であると分かる。この場合は純粋な人身売買目的の人攫いの見るのが妥当だ。

 だが只の人攫いと判断してよいものか、という疑念がエリゼにはあった。


「それにしてもおかしいですね」

「何がだ?」

「いえ……」


 先程のエリゼの攻撃で、ある程度こちらの実力は向こうには知れている筈だ。だが彼らが一向に引く気配を見せない。

 確かに彼らの方が多勢にあるという点からも有利であることは理解できる。しかしそれらを踏まえてもエリゼは彼らに負けることはないと自惚れではなく確信していた。遠距離攻撃手段をあちらが持っているにしても、彼の所持する魔銃の射程距離や威力なら、それを生み出した国の出身であるエリゼは当然把握している。それも油断しなければ対応できないことはない。


(元とはいえ開拓士。彼らがこちらの実力を測れないほど間抜けには思えない)


 実際にスキンヘッドの男が蹴り飛ばされた後の対応がそうだ。今だにこちらを甘く見ている様子は皆無だ。


(となるとそれでも捕まえるほどの保険が用意されたいるか、或いは私に勝てる存在が近くに控えてあるか……)


 そのどちらにしてもエリゼの頭に逃げるという選択肢はない。

 彼らの今がどうあれ、同業者である自分が見過ごせないというという使命的な部分は勿論のこと、今自分の後ろには守るべき存在がいる。

 エリゼは後ろを振り返ると、こんな状況にも声を上げずに、ぬいぐるみを抱えて小さく怯える少女に精一杯の優しい笑顔を向けた。


「お姉さん……」

「大丈夫だよ」


 その言葉は力強く、少女を安心させようとするものだ。

 それに不安を拭うようにぬいぐるみを抱きしめて固く頷く少女。その目元には薄っすらと涙が溜められているのが分かった。


(自分より小さい子にこんな顔されたら、お姉さんとしては頑張るしかないよね!)


 改めて男たちに向き直るエリゼ。

 少し不安要素はあるがその決意に揺らぎはない。

 彼らを倒して、少女を無事に帰す。


「《疾く駆けよ 我が足跡は落雷の跡》」


 エリゼは小さく詠唱すると、彼女の脚が僅かに帯電し始める。

 男たちはその変化に気付いていない様子であったが、彼女の瞳から何か来ると察したのか、武器を構え直し臨戦態勢に移った。どのような行動であっても対応出来るように、エリゼの一挙一投足を見逃さないように注視する。だがそんな男たちに対しエリゼは――


「では、参ります!」


 そう言って彼らの前から姿を消した。

惜しくもバトルシーンに入ってくれなかった……。

見せ場は次回かな?

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