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神世界のパイオニア  作者: 松梨隆也
開拓の星と呼ばれる男
6/10

ハクの思惑

今回は少し短めです。

「《貝売り》?」

「このラーシェル共和国の北で有名な人身売買を生業とするクズ集団さね」

「端的に言えば人攫いだねー」

「人攫い……」


 そのワードにルシェが珍しく怯えたように肩を僅かに震わせる。

 そして何かに耐えるようにそっとアルフレッドの服の裾をそっと掴んだ。

 それを感じてか、アルフレッドはルシェに「大丈夫さ」と小さく呟くと、落ち着きを取り戻したのか、軽く深呼吸をするとルシェはいつもの様子に戻っていた。

 その変化に気付いていたハクは一旦話を止めようとしたが、「続けて」とルシェ自身に強く促されたため、それを尊重することにした。


「ま、そいつらが無所属の開拓士たちの集団らしいんだけど、何故か上からは逮捕要請がなくてねー」

「無所属ってことは俺らと一緒かな?」

「確かに無所属って点は同じかもしれんが、アルと奴らではその目的が違うのさ」


 通常、開拓士はどこかの国に所属し、そこにあるいずれかの開拓士組合と呼ばれる団体に在籍する。

 新世界における未開拓領域などを調査し、発見されていない様々な資源や土地を報告してくれる開拓士は、国にとっては領土の拡大や力を強くするための情報提供元や労働力としては必要な存在だ。

 故に国は所属した開拓士に、その見返りとして適切な報酬や地位を授けてその土地に縛り付けようとする。国によっては一級以上の開拓士に爵位を与える制度もあるほどだ。そのため国の抱える開拓士の質や量で国力が決まるとまで言われている。

 だが、勿論特定の国に所属しない開拓士も存在していた。

 無所属のうち、アルフレッドのように自由に旅をしたいからというのは少数派で、その多くが国が正規に依頼できない内容を受注しては犯罪行為を働くものが殆どだ。無所属のため、国はその開拓士に土地に縛り付けるような爵位や高官の地位を与える必要もなく、金さえ積めば何でもやる彼らは国の暗部にとってはとても使い勝手の良い駒になる。


「要請がなかったってのは?」

「ミリーの姐サン。俺たち開拓士には所属する国にいる違法行為を行う同業者をとっ捕まえるって仕事もあるんだけどよー。その多くは現行犯以外は上からの要請があるケースが殆どなのさー。『今、この国にこんな犯罪者がいます。捕まえて下さい』ってねー」


 その言葉で何かを察したのか、ミリーの眉間にシワが寄る。

 ルシェも心底不快なのかその表情は不機嫌なものへと変わっていた。


「つまり、今回その要請がなかったってのは……」

「ラーシェル共和国ほどの規模ではないにしても、十中八九《貝売り》の連中はこのサルバルシの役人さん連中に何らかの関わり合いがあるだろうねー」

「全く、反吐が出る話だよ」


 貿易都市であるサルバルシは人や物の出入りのしやすいように、多少物理的にも制度的にも検閲が甘いところがある。さらには多くの多種多様の人々が毎日行き交うこの場所では、逃げるにしても隠れるにしても都合が良い。

 そのためか、以前から都市の中で非合法の取引が多く行われているという噂や、サルバルシの都市の役人の中にはそういった組織から賄賂を受け取っている人間がいるというのは、公になってないにしてもサルバルシ民の間では割と常識であった。

 それを現地に住まう者としてよく知っているミリーとハクは、その問題の深刻さを真に理解しているためか難しい表情をする。


「だから俺は注意しか出来ないってわけさー」

「……情けないねアンタ」

「仕方ないだろー。変に藪を突くと蛇だけじゃなく毒虫やら何から出そうなんだからー。そうしたら俺個人の話だけじゃ済まないし、俺が所属する組合の連中にも迷惑がかかるんだよー?」

「そりゃあ、そうだろうけどさ……」


 ハク自身も好きで黙っているわけではないのはミリーも理解していた。

 実際にこうして注意喚起をして周っているし、普段の姿からは想像できないが、根は真面目で仲間思いなのだ。


「なるほどね。因みに注意する人物が私やユネってことは……」

「察しが良いね、ルシェちゃん。奴らの主な標的は若い女や子供なのさー」


 おえー、と心底気持ち悪そうに、大袈裟に吐くようなフリをする。


「でもエリゼという子は二級開拓士らしいじゃない。私も含めて、そんな奴らにそうそう遅れをとるとは思えないけど?」

「俺もお嬢の実力は知っているし、ルシェちゃんが只者じゃないことも知ってるさー。けどねー……」

「……けど?」


 そこでハクは面倒臭さそうに頭を掻いた。

 珍しく歯切れの悪いハクに、ミリーとルシェは首を傾げる。


「……なんか、奴らのボスが元一級開拓士らしいんだよねー」

「一級開拓士っていうとエリゼの上かい?」

「そうなんだよー。今までだって奴らが攫った人の中には開拓士だった人も居たからねー。二級のお嬢も油断できないのよー」


 それを聞いて事の重大さを改めて理解したミリーは、気になっていた疑問をハクに投げかける。


「もしかして、エリゼはそれを知らないのかい?」

「どうだろうねー。噂は前々からあったけど、最近になって活動し始めたっぽくて。もしかしたら今のお嬢の状態だとそのへん頭にないかもねー」


 しれっ、とハクは軽く言ったが、それを聞いたミリーは気が気でなくなる。カウンターから身を乗り出す勢いで、ハクの胸倉に掴みかかると激しく揺すり始めた。


「それじゃあエリゼが危ないじゃないかい!」

「でもねー。さっきも言ったけど俺らは派手に動けないよー?」

「ったく、使えないね! ならどうすれば良いのさ!?」

「まあまあ、落ち着いてよ姐サン。揺すらないで、舌噛むからー」

「これが落ち着いていられるかい!」


 怒りで興奮するミリーを宥めながらも、ハクの調子が変わることはない。むしろ余裕すら感じられる笑みを浮かべていた。

 それを疑問に思っていたルシェは、彼の視線が、今回は珍しく空気を読んで黙っていたアルフレッドに向けられたのを察して、ハクの狙いに気付いた。


「いやー、そこでアルに提案なんだけどさー?」

「ん、何?」


 唐突に話を振られて首を傾げるアルフレッド。

 そのわざとらしいハクの態度にルシェは溜息をつき、その様子から何かを察したミリーもハクを揺する手を止める。

 そしてハクは、未だにこの状況を理解しようとすらしていない自由人に、満面の笑みを浮かべながら訊いた。


「アルって、無所属だったよね?」

あともう少しで私待望のバトルシーン(予定)だ!

……予定は未定ともいいますが、頑張ります。

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