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神世界のパイオニア  作者: 松梨隆也
開拓の星と呼ばれる男
5/10

不穏な気配

少し長めです。

投稿、一日空いてすいませんした。

 エリゼが店を出たあと、終始傍観していたルシェが口を開いた。


「……で、彼女は一体誰なの?」

「そういや俺も名前知らないや」

「…………」


 二人の天然とも取れる発言に、ミリーは額をおさえる。

 今更ながら驚きはしないが、これは余りにもエリゼが可哀相だ。


「まさかとは思っていたけど、やっぱりか……。というか、逆によく初対面の名前も知らない人間の心を、あそこまで的確に容赦なく潰せたものだね?」

「最初に突っかかってきたのは彼女の方よ。アルが言い負かしてなかったら、私が心のみならず肉体も潰していたわ」

「……と言うことは、俺は知らないうちに見ず知らずの人の命を救ったんだねぇ。やったね!」

「ええ。誠に遺憾ながら」

「相変わらず変に馬鹿だね、アンタら……」


 呆れるミリーをよそに、何故か嬉しそうな顔をするアルフレッドと、それを見て更に顔を不機嫌なものにするルシェ。

 この二人を相手にする度に、ミリーは自身の得も言えぬ疲労が溜まっていくのが分かった。

 このままだと名も知れず傷付けられたエリゼが浮かばれないので、彼女についての軽い説明を二人にする。


「あの子はエリゼ・ヒュートマン。ここらサルバルシを拠点とする開拓士の一人で、階級は二級だったね」

「ヒュートマン? どこかで聞いたことがあるわね」


 彼女の家名に覚えがあったのか、ルシェが顎に手を当て、思い出そうとする素振りを見せる。

 対してアルフレッドは興味がないのか「そういえば、さっきの子に本を渡したままだったなぁ……」と別のことに思考が向かっていた。

 ルシェの様子を見て、「そういえば……」とミリーが何か思い出したように手を叩いた。


「そりゃあ多分、北の軍事大国のヴォルフォルス帝国でだろうね。あの子の実家がその国の貴族らしいからさ」

「へぇー。あの子、貴族のご令嬢だったんだね」

「ヴォルフォルス帝国、か……」


 アルフレッドは能天気なことを言ってはいたが、ルシェは彼女の出身国の方に何やら思うところがあるらしい。

 ミラー自身、今現在アルフレッドたちと気さくに話してはいるが、彼らが一体どのような人物なのかは詳しくは知らない。唯一分かっていることと言えば、凄腕の開拓士であることと自分よりも遥かに年齢が上ということだ。

 ルシェに関してはここ数年で連れてくるようになったから、年齢については定かではないが、アルフレッドの見た目はミラーの子供の頃から変わっていない。

 それを不気味に思った時期もあったが、数々の神秘に触れる開拓士の中には、見た目が化け物に変わる者も居ると聞いたので、そこまで珍しいものではないと今では割り切っているし、深くは訊かないようにしていた。

 故にルシェの表情に一瞬だけ陰が見えたが、すぐにいつもの余裕を含んだ表情に戻ったところを見て、ミリーも彼女の言葉をわざわざ拾うようなことはしなかった。


「そんなことより、彼女は何をあんなに苛ついてたの?」

「そうだねー。何かに迷ってるというか、急いでいるというか。そんな感じがしたけど?」

「それで合ってると思うよ」


 ミリーはアルフレッドの言葉を肯定する。


「アンタら開拓士には階級があるんだってね」

「そうね」

「……え、そうなの?」

「「…………」」


 ここでまさかの伏兵に、流石にルシェとミリーは無言になる。

 一瞬聞き間違いか冗談か何かかと思ったが、首を傾げるアルフレッドの様子にいつもの巫山戯た印象がないため、これは本気だと悟る。

 これは流石のルシェも呆れて溜息が出た。ミリーに関してはもはや真顔である。


「アンタ何年開拓士やってんのさ……」

「いや違うから。基本的に俺の活動場所は未開拓領域だから。俗世との関わり合いが少ないから知らなかっただけだから」

「……ルシェは知っていたようだけど?」

「その手の社会的な部分はルシェに任せているからね。むしろ知ってなきゃ困るよー。俺はこんなんだからね」

「ルシェ。やっぱりアンタ、一回コイツ締めた方が良いよ。自分が世間知らずなことに自覚あるのに治そうとすらしてない分、余計に質が悪い」

「そうね。今回ばかりは流石にイラッときたわ……」


 このままだと話が進まないと察したルシェは、一応アルフレッドにも分かりやすいように心がけながら説明する。


「開拓士には五段階の階級があるのよ。初心者(ビギナー)を含めると六段階。上から特級、一級と順番に数字が大きくなり、最下級が四級。初心者はその下にあって、まだ開拓士の見習いという感じね」

「へぇー。いつから開拓士に階級なんてできたの?」

「さあ? かなり前からあったわよ。私がなったときにも既にあったし」

「ふーん?」

「アンタはいつの時代の人間なのよ……」


 ミラーの中で、アルフレッドに対する謎がより深まった。


「それでその階級があるのと、あの子の苛つきに何の関係があるのさ?」

「あの子の階級が二級ってのは言ったね?」

「うん。下から三番目でしょ?」

「そういう時はせめて上から三番目って言ってやりなよ。初心者も含めたら下から四番目だし……ってアンタわざと言ってる?」

「まっさかー」


 伸びた髪で顔の半分が隠れてるせいか、その表情は読みづらいが、唯一はっきりと見える口元の笑みはどこか楽しそうである。この場にエリゼが残ってなくて良かったと心からそう思うミリーであった。


「……まあ良いけどさ。二級って言えば、開拓士でもそこそこ優秀な方でね。一般的な奴らはその二級で生涯を終える者も多いと聞いたよ」

「確かにそうね。開拓士の昇級には多くの条件があって、最下級の四級から三級上がるのもかなりのハードルがあるわよ」

「なら結構凄いじゃん、あの子。あんなに若いのに」

「アンタの見た目で言われると皮肉にしか聞こえないだろうね」

「?」


 これに関しては本当に心当たりがないらしくアルフレッドは首を傾げる。

 小汚い格好とボサボサに伸びた髪で胡散臭さのようなものはあっても、背格好は少年そのもの。エリゼの口ぶりからしても、見た目でアルフレッドを初心者を出たばかりの新米開拓士と判断していたのは容易に推測できる。

 それらを踏まえて、エリゼがアルフレッドに突っかかった理由の大凡は、ミリーに察しはついていた。


「彼女は二級に満足してなかったのかしら?」

「まあね。二級でも私のような素人目には凄いものだが、あの子が目指しているものはもっと先のようでね」

「それでもあの若さで二級なら、そんなに慌てる必要もないように思えるけど?」

「いや、それは……」


 ミリーの言葉が詰まる。

 今更ながら個人のことをここまでペラペラと話していいものかと疑問に思うが、最近のエリゼの様子を見ていて心配していたのも事実。もしかしたら――アルフレッドならば、彼女の道標になってくれるかもしれないと考えてしまうのはミリーの勝手な願望だろう。


「あの子はアンタに憧れてんのさ」


 そこで明後日の方向を向いていたアルフレッドに、ミリーの視線が向けられる。その言葉の意味が理解できないアルフレッドは眉を顰めた。


「え、俺に? 凄い噛みつかれてたけど?」

「それはアンタの正体をあの子が知らなかったからさ。だってアンタは――」


 そこまで言ってミリーは口を塞ぐ。

 カウンターに誰かが向かってきていたからだ。

 その人物は鼻に少し赤く滲んだちり紙を突っ込み、顔を少し腫らしていた。


「おう。ミリーの姐サン片付け終わったぜー」

「ああ、ハクか。顔の痛みは大丈夫かい?」

「まだジンジンするよ。エリゼのお嬢、思っきり蹴りにきたからなー」


 エリゼに最後に蹴られた男性だ。

 先程理不尽に蹴られたにも関わらず、どこか落ち着いた様子で、その飄々とした雰囲気は一変の濁りもなく清々しい。

 エリゼに対して怒りなどはないようで、他の二人の男性も目を覚ましたらしく、今では元の席で何やらまた騒ぎ初めていた。

 ハクと呼ばれた男性はカウンターに座る二人を見て、多少驚きながらもその表情を明るいものへと変えた。


「お? アルにルシェちゃんじゃないか。お久しだねぇ」

「よう、ハク。元気ー?」

「元気も元気。鼻血出ちゃうぐらい元気さ」

「……それって元気って言えるの?」

「何言ってんだよルシェちゃん。ルシェちゃんを見た今なら、もっと出せるぜ!」


 意味の分からないことを言い始めたハクに、ミリーは呆れ、ルシェは心底汚物を見るような視線を向ける。


「……キモい」

「真っ直ぐな侮蔑をありがとう御座います!」


 素直に向けられた嫌悪の言葉に何故か嬉しそうなハク。それを見て、ルシェは身の危険を感じて本気で引いている。

 しかし当の本人はそんなことを気にする素振りも見せず、何かを探すように辺りを見渡した。


「あれ? エリゼのお嬢は?」

「ん。エリゼならさっき出ていったよ。文句でも言いたかったのかい?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど。……マジかー、伝えそびれたな」


 あちゃー、とオーバーなアクションで額をペシンと叩く。

 ハクという男性は普段から割といい加減で、その場のノリやテンションで行動を決めがちのお調子者だ。先程もその性格故に墓穴を掘ってエリゼの逆鱗に触れている。

 しかし、今回に限っては真剣な面持ちで考えているようだった。

 そこに不穏なものを感じたミリーはハクに訊く。


「伝えそびれた?」

「まあねー。さっき片付けしてた時にユネちゃんには言ったんだけど、お嬢にも伝えとこうと思ってたことがあって。まあルシェちゃんもいるし一応この場でも言っとこうかな」


 口調は相変わらずだが、その声音は真面目なものになる。

 いつもと異なるその様子に、ミリーたちも耳を傾けることにした。

 ハクは軽く咳払いをするとその内容について話し始める。


「何でも最近、この都市に《貝売り》が潜伏しているらしい」

早くバトルシーン書きたい。

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