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神世界のパイオニア  作者: 松梨隆也
開拓の星と呼ばれる男
2/10

帰還

 南方の未開拓領域。

 “人類が決して乗り越えられない壁”、“神々の試練”とまで呼ばれた山脈の最も高い山の頂にその青年は立っていた。

 長い野外生活で伸びきった蒼い髪を頭の後ろで雑に結び、それを風にたなびかせながら、地平線の彼方から昇る朝日を眺める。

 その顔には疲労や苦痛などはなく、伸びた前髪から僅かに覗く瞳には満足感と達成感が、口元の笑みには余裕すらも窺えた。


「これでここも踏破完了、かしらね。アル」


 彼の背後から声がかかる。

 そこにいたのは一人の少女。口元を覆う大きなマフラーに大きめの帽子。その表情は窺えないが、口調と雰囲気はどこか大人びている。

 彼女は反応して振り返った青年に一冊の本を手渡した。

 題名の欄には『アルフレッド・ウォーカー開拓録』と書かれている。

 彼はそれを受け取ると迷わずページを開く。


「あれ? もう余白ないじゃん」


 驚いたように目を見開く青年。

 最後のページまでビッシリと文字や図、動植物のスケッチで埋められたその本は、彼自身の手記であった。

 自身のものにも関わらず余白の状況の確認もしてないアルフレッドに、少女は呆れて溜息をついた。


「気付いてなかったのね。というか、この気温じゃインクも固まるわよ」

「……それもそうか。じゃあ丁度いい区切りなのかもね」


 そう言うと、アルフレッドはその手記を自身のバックパックに無理やり突っ込んだ。

 世間的に彼の手記は大きな価値のあるものとして認識されているが、彼にとっては只のメモ帳程度。その扱い方に、価値を理解している少女にとっては気が気でないものがある。


「どうする? 一旦、既開拓地まで戻る?」

「そうだね。色々と補給しなきゃ。()()の確認もしないといけないし」


 そう言ってバックパックにしまうついでにあるものを取り出す。

 それは金属製のカード。今回の旅で偶然手に入れたものだ。

 表面には現在では使われていない文字が掘られていて、所々傷が目立つが頑丈さは鋼鉄などを遥かに上回る。

 金属や鉱物に詳しい少女も首をひねる物質だった。


「それ本当に何なの? 人工物なのは確かだけど」

「さてね。『サルバルシ レベル3権限』とは読めた」

「サルバルシ? 南方国、ラーシェル共和国の?」

「そこの第三都市、多分そこにある遺跡の方だね。あの都市の名前は遺跡の名前から来てるから」


 そう言ってアルフレッド共々首を傾げる。


「……取り敢えずは戻ってから考えましょう」

「それもそうだね。久々の既開拓地の帰還だ。ルシェは何かしたいこととかある?」


 アルフレッドの質問に、ルシェは自身の身なりを見る。

 湿ってどこかカビ臭い服。アルフレッドと比べれば比較的手入れはしてあるが枝毛の目立つ白銀の髪。乾燥した場所に長居したせいで荒れた肌。

 それらを改めて確認すると小さく頷いた。


「そうね。綺麗な服とお風呂かしら」

「ま、今回はかなり長い旅だったからなぁ」


 俺もきちんと散髪して欲しいや、とアルフレッドは自身のボサボサの髪をいじりながら笑う。アルフレッド自身、定期的に自分のナイフで雑に散髪してはいたが、最近は面倒臭がったためにそのまま放置していたのだ。

 因みにルシェは、アルフレッドにしつこく「私が散髪してあげる」と申し出てくれているが、頑なに断られている。

 それを思い出して、ルシェは少しむくれた。


「さて。ならとっとと帰ろうか」

「歩いて?」

「まさか!」


 有り得ない、といった様子でニヤリと笑う。


「未知の場所ならいざ知らず、既に通った場所をゆっくり散歩するほど呑気じゃないよ、俺は」

「ちょっ!?」


 そう言うと、断りもなしにルシェを持ち上げた。

 ルシェは小柄ではあるが、アルフレッドもそこまで背丈や体格が大きい方ではない。たまに少年に間違われるほどであるし、一般的な成人男性に比べればアルフレッドも小柄な方だ。

 しかし、アルフレッドは荷物を背負っているルシェを軽々しく持ち上げると、肩に担ぐように抱える。

 自身の扱いのぞんざいに多少の怒りと悔しさがルシェにはあったが、その行動で次のアルフレッドの行動に大方察しをつけたルシェはどこか諦めたように帽子を力強く握り押さえる。


「はぁ。またコレなのね……」

「さぁ、出発(しゅっぱーつ)!!」


 そうして意気揚々とアルフレッドは山頂から飛び降りるように斜面を下るのであった。

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