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その「毛のない悪魔」がいつ、どこから現れたのか誰も知らない。
そしてどこに住んでいるのかも。
その噂は単なる言い伝えなのかもしれない。
なぜならその悪魔を直接見た者は部落、部族には誰もいないからだ。
部族の年老いた長が、子供や若者に言い聞かせる伝説の話に過ぎない。
しかし、その言い伝えは生まれて間もない子供たちに何度も何度も聞かされていく。
部落の平穏で平和な生活のなかにある、たった一つの恐怖がこの伝説なのだ。
怖いもの見たさの子供たちには興味をそそる話に間違いない。
「恐ろしく長い腕を持ち、全身が毛のない獣」など想像さえできないのだから
一度見てみたいという者は必ずいる。
俺もそのうちの一人だ。
ただ、その伝説にはおぞましい話が続いている。
「毛のない悪魔」達は、飛ぶ鳥や、獣、そして我々をも捕らえ皮をはぎ、その皮をまとい、その肉を食らう。そして、その悪魔の中には、それらと体を交わる行為を行うという。
平気で見境もなくあらゆる獣の雌を犯していくのだ。
おぞましい話だ。
我々部族の中にも襲われ犯され、食べられた者たちがいるという話だ。
そして不幸にも、その毛のない悪魔の子供を身ごもり生まれた子供達が数多くいるという。
悪魔の血を引き継いだ子供達は身を置くところが定まらず、自ら遠い場所に移り住みひっそりと生活している、という話だ。
信じられない。その話が本当ならまさしくこの世の地獄だ。
まさしく悪魔だ。
でも奴らを見たい。
一度そんな奴らをこの目で確かめてみたい。
俺はそんな気持ちを胸に秘めながらジャングルの奥を歩き続けている。