表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカシック・ディスレコード  作者: 秋歳さざれ
prologue
9/12

お仕事日報 ―自前で稼ぐ支度金―

貴方たちはロビーに帰ってきた──。


受付嬢は、いたくご機嫌斜めである。

予定が狂ったのはお互い様だろうか。



契約を交わした上での実地研修にあるが、互いに素性を明かしてはいない。

契約書に認め印を押しただけなので、交流する暇も無かったのだ。


貴方は、案内役の受付嬢だと思って接してはいる。

名前も知らないのは、今後に差し支える気がした。


貴方のことは語らなくてもよい気がする。

表向きの素性は、既に知られているような感じがするのだ。


次の講習が控えているので、お互いに情報交流はしておくべきだと伝えた。



『それもそうてすね。

申し遅れまして。

私は、──系地球圏日本国支部の管理史官代行を拝領しています。

本名は、アルファルファ・アーシアです。

貴方の上司も兼ねていますので、私の指揮下に配属されています』


管理史官代行?

受付嬢ではなかったのか。

貴方は、アルファルファは呼びにくいと難色を示す。


貴方は、脳内で秘かに「カイワレ」代行と呼ぶことに決めた。



貴方は、見知らぬ土地に来たので本名を名のる必要を感じえない。

悪魔に本名を知られると、魂を取られると聞き及んでいたので殊更である。

カイワレ代行は、魂の契約という不穏な言葉を口にしていたので、用心しなくてはいけないのだ。



『ハンドルネームやペンネームで構いませんよ。

本名は必須ではありませんので。

魂の契約書を結んでいるので、ソウルネームの方が都合がよいかと』



ソウルネーム。

厨二病的なアレだろうか。

二つ名。

偽名でも構わないらしい。


「エージェント・スロウ」


貴方は、今日からこの名で傭兵生活を始めようと誓った──。



『スロウさん。

実地慣れして地域貢献に務めてください。

お仕事はたくさんありますので♪』



カイワレ代行のドス黒い笑顔にドン引きである。

不穏な発言は口癖なのだろうか。


互いの自己紹介はさらりと終えたが、自分の状態が把握出来ていない。


知りたい情報は五万とあるが、優先事項は次の通りである。


1.カード耐久性のチャージ

2.自分の置かれてる状況

3.簡易マップが欲しい

4.元の座標空間軸に戻れるか

5.この世界の固有情報


必須項目である。

後付けで重要事項を知らされるのは心臓に悪い。

不穏な言葉のリストが嵩むなら、最初に聞いていた方が幾分マシである。



カードの耐久性はチャージ出来るのだろうか?

貴方は、無料だといいなと期待を込めて聞いてみた。



『有料チャージです。

チャージ総量に関係なく、御利用回数での請求となりますね。

払えない方のために、報酬からの天引きを実行していますので、御安心ください。

そこにあるカードリーダーに、カードを通します。

チャージするのは一瞬で終わりますから、マメに活用してください♪』



無情にも有料だった。

ゲームでは無いのだと解って来てはいるが。

カイワレ代行は、逐一物言いにトゲがある気がする。



自分の処遇はどのようにあるのか?


貴方は、異世界転移を否定する世界の異世界召喚のようなものだと察しているのだが。

選ばれて呼び出されて感じが全くしない。

人材が足りないので、仕方なく、否応なしに召喚されたような感じがする。



『貴方は、紙屑傭兵の新人さんですね。

見習い期間なので報酬は半減状態です。

数をこなして見習いを卒業しましょう♪』



報酬半減?

ブラック過ぎる。

雇用形態が黒い何かだというのに──。

これは酷い。

やる気を殺がすのが目的なのだろうか。


報酬とは別に、必要経費を請求したいところである。



貴方は、周辺地域情報の提供を催促してみた。

何も土地勘が無いのは仕事の障害となる。

施設の案内情報も添えて欲しいと伝えた。



『ナビ機能は、実績次第の達成報酬になりますね。

座標空間軸の移動先は簡易登録が出来ます。

最終履歴が上書きされますので、本登録された方がよいです。

ただし枠拡張は有料ですので』



渡る世間は金ばかり───。


貴方は、無一文である。

簡単なお仕事で荒稼ぎする必要に迫られていた。


支度金が取れなかった代償が即発動するとは。

世知辛い現実に涙する。




『文書投稿でコツコツ貢献ですね。

危険性0のお仕事があるなんて、ラッキーでしたね♪』



割りの良いお仕事の紹介は提示されないようだ。

貴方は、スマイルゼロな笑顔をするカイワレ代行に悪態を吐いた。


『新人の苦労もお仕事の範疇ですよ。

楽して稼げる手段がここにあるのですから。

端末は特別に無料貸与しますので、1日缶詰めしておいてくださいね。

私は帰りますので、お疲れ様でした♪』



危険性は0でも。

無駄な時間と精神がガリガリ削られるのだが。


貴方は、上司の無情に苛む。

しれっと帰るカイワレ代行の薄情さに恨みながら。





よい大人は駄々を捏ねない──。

子供染みた態度を貫いても利がないのである。




カチカチカチカチカタカチカタカチカチカチ───。




ロビーの灯りが消えることなく輝いている。

その片隅でひたすら文書投稿に励む貴方がそこに居た。



※「アルファルファ」というのはハーブの一種。

日本でいう「カイワレ」に該当する。

シャキシャキとした食感でサラダに添える薬味。


園芸品種でもあるので、愛好家が居たりする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ