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アカシック・ディスレコード  作者: 秋歳さざれ
prologue
3/12

お仕事日報 ―崩れゆく認識―

貴方は、受付嬢から一枚のカードを貰う。

片手に収まる何の変哲もない白磁のカードである。


所謂、個人証明のIDカードのことだと思うのだが。

捨てられないユニーク属性があると思いたい。

そう思いたいのだが、そんな都合のよい属性は付いて無いと認識した方が妥当だろうか。


今起こっていることは、貴方の知るところの常識外での体験である。

通常は契約したなら、貴方の方にも書類が渡される手順なのだが口頭だけで何も渡されてはいない。



『察しが良いようで何よりですけど、そのカードは無くさないようにしてくださいね。

不壊属性とか都合のよい機能は何も付けてませんから、無料の再発行はしません』


その言い方だと、いろいろな機能が付けれる物言いだと貴方は感じた。


『機能解放すれば、可能ですけど?』



しないのは、昇格次第ということなのだろうか?



『利便性が高い機能は、新人をダメにしますから。

無くした場合は、相応のペナルティになると言っておきます』



貴方は、スロースターターなので保険機能が欲しいとアピールしてみた。

自己評価低めに報告しておくのが、生き延びる秘訣である。


初対面の人間に何を求めているかは解らないが。

流れが一方通行なので、貴方はただただ聞くだけである。


貴方は、これは通過儀式と察した。

突発的なイベントと言える。

強制イベントだろうか。

ろくでもない未来が予測できうる程度の経験則が貴方にはあった。



『本来なら、貴方は資格LV.1で権限解放には至りませんが。

10年も浪費した年数を報償として、10の功績数値をプレゼントします。

数値が10であって、資格が10個獲得できるのでは無いのでお間違えないように』



本当に頑張ったで賞なのだろう。

憐れみにの声に聞こえて来た。

生き延びるためには誇りなど不要ではあるが。

なけなしの自尊心は傷ついている。


何も表示されなかったカードに、色つきのメモリーが浮かび上がる。

それをさわると空中にコマンド表示が投影されていた。



カードの耐久性 200

資格ランク LV.1

功績数値 +10

キーアイテム化 -10

お財布機能解放 -7

メール受信機能 -3

カードの権限解放数 0


カードの耐久性200が目を引くが、キーアイテム化すると功績数値を全消費してしまう。

お財布機能とメール受信機能が意味深に、キーアイテム化機能と同じポイントなのだが。

安易にキーアイテム化するなと告げられているようなものだ。


そもそも「キーアイテム化」機能が、貴方が知るところのゲームのような不壊属性の保証は無い。

本当に「キーアイテム」という名のカードキー機能の可能性がある。


受付嬢を訝しく見るしかないのだが、どれを選らんでも正しいとも取れる。

しかし最優先事項は、相手側との連絡機能の方だと貴方は感じる。

カードキー機能?を解放しても、何に使えるかも知らないのでは意味がない。


『好きなのを選んでくださいね』



初めから選択肢が無かった気がするのだが?



『最低限機能をどう解放するかという選択肢は与えましたよ。

文字通りに鵜呑みにしない貴方の思考は評価に値します。

先を見据えて行動するのは、狩人の姿勢でしょうか?』



貴方は唖然としていた。

一般人を獰猛な「狩人」として見てるのはおかしくないだろうか。

慎重に行動して、何か不都合があるとでも?


『此方に来てしまった方に、一般人の認識はおかしいです。

これは認識酔いの症状でしょうか。

脳内の回転不足と推察します』



認識酔い?



『口頭で説明しても理解が追い付かないので、現地入りしましょうか』



受付嬢は、何も無い空間をコンコンっと叩いていた。

視点がゲームのように瞬時に切り替わる。

何の冗談であるのか、視点が広がり、見慣れない景色が見えている。



ここは何処だろうか?



『貴方が生きている地球で、日本という国です』



貴方は驚愕していた。

冗談はやめて欲しい。

見渡す風景は何も無い更地ではないか。

記憶にある景色は何処にも無いように見える。


本当に何も無い風景だ。

ここの何処が日本なのだろうか。



『認識がズレてるので、貴方が居た座標空間が投影されていないだけです。

調整無しだと、何処でもこんな風景しか見えませんよ?』



ゲームのような設定の物言いはやめて欲しい。

まるで、貴方が知るところの2次元世界のような風貌である。


貴方は、不意に頭がクラクラしてきた。

信じていた世界が足下から崩れるかのような錯覚を体感しているのだ。


貴方は、この奇特な現状を否定したくて堪らないと感じた。



『貴方は2次元の人間ではなく、れっきとした3次元の人間ですから。

そう悲観しないでください』


『世界そのものは、2次元設定なだけなんです。

ここは圧縮された領域内なので、ある種の衝撃には弱いのです。

紐付けされていた座標空間軸の認識が途切れると、基軸から外れて消えてしまう性質なので』



貴方は考察してみた。

貴方の見識にないモノは、貴方が知らないので思考が認識外であると感知されないモノらしい。


検索対象が基軸から外れると元の情報が出てこないので、蚊帳の外という状態に置かれているのか。


世界がおかしいのか、この領域がおかしいのか。

今の貴方には、判断材料が乏しくてどうしようもなかった。


戻れるのだろうか。

戻してくれるのだろうか。



『戻れますよ。

座標空間指定が出来ればの話になりますけどね。

戻れなくても、私達の認識座標空間軸には帰れますから安心してください♪』


貴方は焦る心情により、心臓の動悸が高まってきている感じがする。

受付嬢には、所々不穏な言葉を交えるのは止めて欲しいものである。

本当に戻してくれるのだろうか。



受付嬢が、コンコンっ…と叩いて先程居たロビーに戻ることが出来た。

貴方は、帰れることが実証されたので嬉しく感じた。


『そのカードには、座標空間軸を記憶する機能がデフォルトで付いています。

無作為に飛ばされた先でも、ここにだけは戻れる機能です。

無くすと帰れませんから、本当に気を付けてくださいね♪』


救済的な保険機能は実装されているが、不安要素の方が高くて心許ない。

貴方は、もっと保険らしい機能を解放して欲しいと要求した。



『昇格すれば、いつかは権限解放されますよ。

ですから、それを目標に頑張ってくださいね。

死活問題が身近にあると、人間は必死になれます』



なんて酷い仕様だろうか。

貴方はやさぐれた。


馬車馬の如く扱き使われるブラック企業以上の悪徳さが隠れていないことに憤慨してみせた。



『理解が早いのは美徳ですね。

でも、ブラック企業扱いは止めてくださいね。

私達は、利益追従企業ではありません。

強いて言えば、地域の管理業務です』



どちらにしても大差無い気がするのだが?



管理業務は面倒ごとに対処して行く「便利屋」のような総合業務で明確な業務指定が無い。

管理職で楽が出来るのは頂点の部署だけである。

中間と末端には地獄が用意されている。


ブラック企業の方がマシとも言えるようなお仕事体制にあるのが実態である。



適例を挙げるなら……。

マンションの管理人業務がよいだろうか。

建物の入口付近にある窓口で、室内対応する業務だけだと勘違いしてる者が多い。


その実は、滅私奉公に等しく。

設備点検や見回り巡回の外回り業務が隠されている。

年齢指定で幅が広い募集案件は、概ね地雷指定にあるだろう。


管理業務とは、思っている以上に甘くない世界なのだ……。




福利厚生に期待していいのだろうか?



『功績次第ですよ。

初めから期待しないでくださいね。

頑張らない方には優良な補償は付かないのが世の常なんです』



無常の摂理は世界共通認識なのだろうか。

労働に見合う報酬を約定して欲しいところである。

それはそれとして、対等の立場に無いのがもどかしい限りである。

人参に釣られる馬の立場から脱却するのが、当面の目標と言えるだろう。


本当にいろいろと聞かないことには不都合にまみれている。


受付嬢は、貴方の勘の良さを下地にして依頼背景や動向説明をスキップしてくる曲者である。


敢えて伏せてくる物言いは全てが不安材料だと感じるくらいには警鐘を禁じ得ない。

信用しないと先に進めないのが目下の障害ではあるが、この受付嬢が命綱なのは紛れもない事実である。


紙屑職人は有り体に言えば、パート扱い。

文書投稿で稼ぐ単価発生報酬のお仕事である。

現実的かつ、虚飾なしに言うのであれば「文書作成代行」の職務のことである。


その上位業務が解禁されているのが「紙屑傭兵」である。


傭兵呼ばわりされてるからに、駆除や掃討という汚れ仕事のような気がしてくる。

アンチやネガキャンして来いと。

特務指定扱いで発注されるのだろうか。


貴方の趣味は情報集積の体系化にあるのだが。

それが業務となるのはどういう案件なのだろう。


貴方は肉体的な強さには自信が無いと申告した。

自慢にも成らないが、図体だけのインドア体質である(笑)。


可能な限りの貧弱体質を強調してみた。

情報集積をするのが趣味で、外に出たがらない出不精であると。


だが、一社会人としての嗜みで「自動車免許」を取得しているので、外泊して現地巡りをする行動派ではある。

目的遂行の為に、僻地から北海道まで車で横断するという愚挙を幾度か実行してもいる。


貴方は、映画で見た「キャノンボール」というチキチキな車ネタの横断レースに憧れて実践していただけなのだが。

未知を求めて無謀な衝動に心が踊るような子供らしさであろう。


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