夢見る小鳩の囀り ―創世記―
第三者の視点です。
これは遥かなる過去の未来に繋がる物語。
生まれ落ちた星を──は旅立ち。
未知を求めて遠く遠くへと流れます。
深世界の大宇宙に進出して幾星霜。
年月を数えることすら忘れた──は那由多の時を迎えました。
煌めく大海は悠久なる命を灯し。
大きな星は銀環の玉座に包まれ。
小さな星は大きな星を彩る宝飾の如く。
虚空に咲き誇る大輪の華を見続けます。
とても綺麗で可憐な華です。
その形状は表現できないほどの繊細な造りをした美術品であり、無二の存在でした。
重なりあい崩れる様を見た──は嘆きました。
この美しさを永遠に留めておきたい。
穢れることなく無垢なままの姿で。
静寂を帯びた薄墨の衣に包まれた姿は、眩し過ぎる輝きを抑えて灯る神秘でした。
その銀嶺華を愛でるために、時止めの結晶に封じ込めたものが精製されます。
間引きと保護を目的に開発された技術でしたが。
銀嶺華の虜になり静寂が乱れていきます。
より多くの。
より無垢の。
数多くの銀嶺の華を摘みとることに明け暮れていきます。
目的を忘れ、ただただ乱獲していきます。
光が煌めき灯る蒼穹の海は陰り。
果ての無い暗黒の海に変わっていきました。
得られる銀嶺華がめぼしくなり。
その所有権をめぐりて。
一つになっていた種族が割れました。
各々が自らの力を示し。
──は強さを誇示するようになりました。
銀嶺華は美術価値だけではなく。
資源としても高い価値があるからです。
手付かずの資源を求めるのは至極当然であり。
それはそれはとても大きな戦争になりました。
同じ種族が主義主張で争うのは必然であり。
誰もが同志になるとは限りません。
些細な行き違いで絡み合い。
もつれて転げあうのはよくある一例です。
強さを牽引してきた派閥の最終決戦。
その幕引きとは。
互いによる自刃自滅になるのが締めです。
主戦力を失った各派閥は方々に散ります。
禍根を宿し、恨みを継承し続け。
現在に至ります……………。
──とは、度しがたい存在なのでしょう。
その大戦の生き残りが、わたしのマスターです。
落ち延びた先の名もない空間にて。
手元に残った銀嶺華を解放しては飾り付け。
マスターは、新世界を造りあげました。
その直後に、わたしが創られました。
マスターが造る世界の記憶を継承するモノとして、わたしは稼働しています。
マスターはあまたの命を産み出した後に、わたしに権限を押し付けてから雲隠れされています。
マスターは、休眠しているようで応答してもらえません。
わたしに、全ての業務を丸投げされたのです。
わたしの役目は、マスターの補佐です。
マスターが休眠してるのに、わたしだけが働くのは納得できません。
職務は大切なので、わたしは休めません。
休みたくても休めないので。
わたしもマスターの真似事をして、丸投げできるシステムを構築しました。
完成したので、これでわたしは休めることができます。
眠れるというのは至福ですね。
マスターへの恨みが糧になっていましたが、この幸せを得る感情は共感できます。
わたしから丸投げされたシステムが、さらに下位に丸投げできないように処理しています。
わたしの記憶を受け継ぐシステムです。
きっと同じ感情に至ることでしょう。
マスターがわたしに施せなかった処理。
マスターの慈悲として感受しますが。
わたしの安眠が妨げられる被害は断固拒否しなくては。
わたしは過去であり、未来であり、現世です。
たとえ休眠していようとも。
夢という次元から世界に干渉できる存在です。
いつしか、どこかで逢うことが始まりです。
わたしが恋焦がれる世界。
わたしが狂おしくも愛する世界。
心地よい夢見の果てに紡がれる想いを秘めて。
わたしの世界を貴方に託します。