ヒーローその1〜デレるのが早いツンデレ担当〜
何もしたくない日は誰にだってあると思う。
現に今私はその状態におちいっている。
いつもなら、生徒会室で業務をこなしているか。
予備校に行き、勉強しているかのどちらかだったのに。
別にストレスがたまっているとか。
不満がある訳でもないと思っていましたが。
読む訳でもない本をペラペラとただめくりながら。
ただ、ただ、ボンヤリと夕暮れに染まる教室に居続けた。
何時間くらいそうやってボンヤリとしていたのだろう。
気付いたら、教室には私以外、誰も居なくなっていた。
夕暮れで赤く染まっていた空も夜の帳が降り、すっかりと暗くなってしまっている。
もうそろそろ、帰らないと。
そう思っているが、なかなか重い腰が上がらない。
と、その時、パタパタと走る音とともに、教室のドアが勢いよく開いた。
部活終わりの運動部員でも来たのかと、開いたドアの方へゆっくりと首を向けて見てみると、そこには1人の女生徒がキョトンとした顔をして立っていた。
ああ、確か彼女は先日編入してきた子ですね。
「あ、ごめんなさい。まだ人が残っているなんて思わなくて。勢いよくドア開けちゃって、うるさかったですよね。」
忘れ物でも取りにきたのか、そのまま自席にいき、机の中をガサゴソと探していた。
私はまたボンヤリとその様子を眺めていたら、彼女と目があった。
大抵の女子は私と目が合うと、何を勘違いするのか、すぐに頬を染めたり、こちらに言い寄ったりしてくる。
本当に勘違いも甚だしい。
今回もそのパターンを予測し、ため息をついた。
実際、彼女も何か考えているのか小首を傾げたあと、私の方へ近づいてきた。
ああ、本当に煩わしい。
どうせ、他の女子と同じように媚びた声で話しかけてくるのでしょう。
と、再度ため息をついたところに、コトンとタッパーが置かれた。
何でしょうか?これは。
今度は私が首を傾げた。
途端、蓋が開けられ、甘い香りが彼女と私を包んだ。
「これ出来立てだから、美味しいですよ。ため息出るほどお腹空いてるんでしょ?どうぞ。」
そう言いながら勧めてくるも、彼女は1枚摘んで目の前でポリポリと食べ始める。
飾りけのない入れ物に無造作に放り込まれた、素朴なクッキー。そして、更に輪をかけたように、飾りけのない物言いと行動。
それらに呆気にとられる。
今までにも何度も女子から手作りのお菓子を見せられた事はある。
それらは全て、お店で買ったように綺麗にラッピングされていて、中身のお菓子もそれに負けないくらい、綺麗にデコレーションされているものでした。
それを運んでくる彼女ら自身もお菓子のように綺麗な装飾品にラッピングされて、甘い言葉を紡いでいた。
「あ、甘いもの苦手?それとも、手作りダメな人?」
彼女が1枚食べ終わり2枚目を取ろうとした時に、未だに手にしない私を見てから、タッパーごと自分に引き寄せて自席に戻ろうとした。
それを慌てて止める。
「いや、せっかくだし頂きましょう。」
作りたてと言ってたように、そのお菓子はほんのりと温かく、どこか懐かしい優しい味がした。
「うん、美味しい、ですね。貴女みたいに優しい味がします。」
そう褒めると、急に顔をそらした。
どことなく頬が赤くなっている気がした。
照れているのだろうか。
そんな彼女が急に可愛らしく思えた。
彼女ともう少し話がしてみたい。
そんな気持ちが芽生えて。
「ねえ、あそこに見える星の名前を知っていますか?少しだけ、貴女と星について語りたいと思います。」
優しい味のお菓子のお礼に私が好きなものの話を、可愛い君に捧げましょう。