1.異世界転生?
「え、だれ………」
いきなり現れた妖精系美少女に戸惑う俺を無視して、彼女は自己紹介をし始める。
「私はご主人様のサポートをするように神様に言われてやってきた妖精ヒミコです!これからよろしくお願いします!」
こいつは何を言ってるんだ。
「つまりここは異世界で、迷宮で、俺はなぜか迷宮を探索しなくてはいけないと」
大まかな説明を受けた俺はあまりの現実感のなさに張り詰めていた気が抜けてしまっていた。
この妖精曰く神様が間違って俺を殺してしまったのでお詫びに異世界に転生させたのだとか。
しかもこの世界には迷宮があって、なぜか俺は迷宮を探索することを強制されているらしい。
「そういうことです!早速探索に向かいましょう!」
酷く使い古されたその設定のあまりの胡散臭さにタチの悪いテレビ番組のドッキリを疑うが、確かに俺はトラックに轢かれたし、何より目の前の不思議生物がその考えを否定する。
「えーと、迷宮に行かないって選択肢はないんですか?」
はっきり言って俺は迷宮には行きたくない。
迷宮というからには多かれ少なかれモンスターがいるだろうし罠もあるに違いない、せっかく生き返ったというのになぜそんな死地に飛び込まなければいけないのか。
「え、ご主人様迷宮に行きたくないんですか?」
「はい」
即答する。
当たり前だ、2回も死にたくはない。
「でもご主人様はこの世界では根無し草ですよね」
「はい」
即答する。
冷静に考えるとそうだな。
「仕事がなかったら食べていけませんよね?」
「はい」
即答する。
あれ?
「じゃあ迷宮探索で稼ぐしかないんじゃないですか?」
「そうかもしれません。」
即答した。
確かにそうかもしれない。
仕事がなければ人は食べていけないのだ!
俺は迷宮探索で稼ぐしかない!
「というかここ迷宮ですし」
マジかよ!探索しなきゃ!
なぜあの時の俺はあんなに乗り気だったのだろうか。
俺は向かってくるゴブリンを、持っている盾ごと切り裂きながらつい先程の己の軽率さを悔やんでいた。
「流石ご主人様!ゴブリン程度なら一捻りですね!!!」
ヒミコと名乗る妖精は、ひとまず俺を街まで案内してくれるらしく、現在はこの洞窟の迷宮を攻略中だ。
「あぁうん。この剣のおかげじゃないかな」
あのありきたりな設定からしてまさかとは思っていたが、俺にはチートがある。
といってもそれは自分自身が強くなる能力というわけではなく、今まさにゴブリンを切り裂いたこの剣だ。
妖精曰く決して錆びず、決して折れず、なによりとてつもない切れ味を誇るこの剣は、"魔剣サード"というらしい。
正直言って人型の生物を斬り殺すなんて普通できるはずもないのだが、少し力を入れて横薙ぎに振れば何の抵抗もなくスラスラと切れるものだからイマイチ現実感がわかない。
「矢が来ました!」
しかも後ろでは飛んでくる矢を妖精が魔法で防いでいるらしく全くと言っていいほど手応えがない。
しばらくするとこのゴブリン殺戮事件も終わりが来たようで、見える限りに生きているゴブリンは一匹もいない。
「終わりました!素晴らしいですご主人様!!!」
コイツは先程からやたらと俺を持ち上げてくるが何か思惑があるのだろうか?
普段褒められ慣れていない俺としてはご主人様呼びだけでもかなり恥ずかしいというのに。
「あぁうんまあそうですね」
おれは妖精から目を逸らしコミュ障特有の曖昧な返事をするのだった。