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頑張りました。

 魔法少女ソレーユの目の前には人形で形成された球体ができあがっていた。

 まるで立体パズルの様だがパーツが人型だからか酷く不快感を感じさせる球体だった。


 「ヘタに動けば連鎖的に爆破するぞ、それに助かったとしても私の魔法で撃ち抜くがな」


 相手の能力は身体能力の活性、出来ることは接近戦のみ。

 それがこの三日間オートマータを使ってソレーユが得た情報だ。

 まして相手の魔法少女カグヤはこの間まで喧嘩程度しかしていない一般人。

 これで負けるわけが無いと判断しても油断では無いだろう。


 「フフフ、最初の提案の時に見捨てていれば命は助かった物を。みすみす命を捨てるとは」


 相手は人形の中で圧迫されている。

 何と言っても、未来の兵器を使った圧殺器具。

 並の相手なら一瞬で圧死するだろうが相手の能力を考えるととても油断できる物では無いとでも判断したのか腕を球体に向けて笑い出すソレーユ


 「これで障害がひとつ消える、その次は私の妨害を続けているあの女を。その後は三上晴を血祭りに上げてやる」


  完全に圧迫した後に爆破してとどめを刺してやる、とでも言わんばかりに周囲には人形がそこかしこから集まり球体の体積を増やしていく。

 内側の圧力が強まっているのかメキメキと硬質な物が軋み砕けていく音が鳴る。

 その音が耳に入る度ににやけ顔をしかめてていくソレーユ。


 「ふむ、思えば貴様も私と同じく被害者と言えるかも知れん。魔法少女カグヤ、三上晴の友人、水城輝義。ただ、三上晴の友人と言うだけで私に殺されたと言っても過言では無いと思えばシンパシーすら感じるよ」


 今更ながら目の前の球体にいるであろう魔法少女カグヤには憐憫を覚える。

 そう言外に言うソレーユの目は何処か悲しげだった。

 それも次の瞬間には元の他者を見下すような視線に戻る。


 「とは言え反省も後悔も懺悔もしないがな、せいぜい地獄で三上晴を呪え」


 「なら、お前も地獄に道連れだ」


 ガシッ!


 「なっ!」


 突然ソレーユの右足を酷い痛みが襲った。

 そこには地面から手が伸びており、足を握りつぶさんばかりの力で掴んでいた。

 誰だ? などと思う暇も無い。


 「そりゃー!」


 「ギャッ!」


 その手によってソレーユの身体が思いっきり下に引きずり込まれる。

 床を容易く砕きながら引きずり込まれる。


 「なっ! 地下だと!」


 そこは地の底ではなく広い地下空間が広がっていた。

 上には此方の異常を感知して人形が、下の空間にも目の前の魔法少女を追って来た人形がいた。

 上下で挟撃した形だがまるで意味が無い。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、その絶望的な状況に比べたら破片も問題にならない。


 「ようやく捕まえたぜ、魔法少女」


 地面に着く僅かな時間でソレーユの意識はアッサリと吹き飛んでいた。

 足を掴んでの片手ジャイアントスイングを開始したところで強烈なGの負荷に耐えられなかったのだ。

 気を失ったソレーユをカグヤは散々に振り回す、まるで台風のようなそれはカグヤを追ってきた人形共を弾き飛ばす。

 当然のように爆破するが、何かしら対策を施していたのか持ち主(ソレーユ)を避けるように爆炎がかき消える。

 それを理解した時カグヤはニタリと嫌らしく笑った。


 「……魔剣ソレーユ、いやモーニングスターだな」


 モーニングスター、その呼び名のように掴んだ足を鎖に見立てて振り回しながら近づいてくる人形共を迎撃する。

 まるで野球のバットのように鈍器(ソレーユ)を振り回して人形を殴る。

 人形はそれこそ野球のボールのように高速で他の人形達にぶつかり破壊されていく。

 当然のように連鎖的に爆破するがカグヤは今ソレーユ(盾兼武器)を持っている。

 先程追われていた鬱憤を晴らすかのように嬉々として人形達を殲滅する。


 「はっはっは! 楽しくなってきた!」


 よほど鬱憤が溜まっていたのか清々しい笑顔を見せるカグヤ。

 周囲の人形をあらかた殲滅出来たのか足を止めると手に持っている鈍器(ソレーユ)を見る。


 「うっ……う、あ」


 いくら爆風を無効化するとは言え散々鈍器として使っていたからか全身に傷を負っている。

 とは言え流石は魔法少女、その全てがかすり傷とも言えるレベルだ。

 やはり魔法少女にダメージを与えるには魔法しか方法が無いのだろう。


 「はあぁぁ!」


 故に放つのは全力の魔法。

 身体能力を爆発的に上げるそれだけが魔法少女カグヤの魔法、放たれるのは最も原始的な魔法(武器)

 臍下丹田より込み上げるものを、足に収束させては籠め、アキレス腱、臀部、広背筋を伝って増幅させ全力で拳を放つ!


 「……う、い……う、んっな!」

 

 ソレーユが起きたのは或は生命の危機による直感だったかも知れない。

 身に迫る危機に対して起きた防衛反応、それは正しく機能してソレーユを覚醒させた。

 最もそれが幸運かと言うとまるで違うのだが。

 起きたときにはいまだ掴まれた足を引っ張られ、タオルのように空中に放られる。

 高度が下がっていくのを他人事のように感じていくソレーユ、不幸なことに彼女の優秀な感覚器官は非常にゆっくりと現状を認識していった。

 息遣いすら感じられるほどの距離、目の前にはとても良い笑顔の魔法少女がソレーユを見ていた。

 実に楽しそうに拳を振り上げながら血まみれの笑みで見ていた。

 他人事のようにその拳が痛そうだと考えていると。

 次の瞬間にはソレーユの腹部にカグヤの拳が叩き込まれた。


 ※


 地下室が崩れている。

 俺は、先程自分が空けた穴を見上げながら膝をついていた。

 元々ヤクザがダミーの工場を設立して地下で麻薬の栽培をしていた地下室と言う悪い意味で地域の有名スポットまでは流石の未来人でも把握していなかったようだ。

 場所が場所なのでそこまで頑丈な物では無かったのかも知れないが、ここまで派手に壊して自然倒壊で済むかちと不安だ。


 「ハァッ……ハァ……」


 周囲の人形を魔法少女ソレーユを振り回す事で一掃した後に思いっきりぶん殴った。

 言ってみれば自分のしたことはそれだけだ。

 しかし、それを魔法で強化して行うと周辺への被害は尋常の物では無かった。

 思い出すのは、テレビで放送された過去の大事件の特集で見た浅間山荘だ。

 あの事件では鉄球を使い建物を破壊していたがそれを彷彿とさせる物が有った。

 頑丈な地下施設が崩れるほどの衝撃は明らかに過去の事件のそれを上回っている、鉄球が魔法少女、クレーン車役も魔法少女というのはシュールかもしれないが。


 「ガハッ! ペッ」


 骨が折れたのか、内蔵が傷ついたのか、気道が焼けたのか、或いはその全てか、俺はズタぼろの姿で血反吐を吐いた。

 先程の魔法少女を使った変形ジャイアントスイング。

 周囲の人形を巻き込んだそれは言ってみれば閉鎖空間での連鎖爆発という自爆に過ぎない。

 ソレーユを盾にして直撃を避けたとは言え爆風やら衝撃を全て無くすことが出来るわけでは無い。

 最後に素手で一撃入れた分此方に分が有るかも知れないがそれも今までの攻撃で五分だろう。

 いや、まだ人形が出てくるかもしれない分此方が不利か。


 「クソッタレが!」


 やはりというべきか先程の爆発で綺麗に消え去った一階の床の端から続々と人形が集まってきた。

 しかし、此方の体力は最早先程のジャイアントスイングで根こそぎ奪われた。

 例え本来なら物の数では無い人形であっても危ないかも知れない。

 それに


 ガラッ、 コン。


 「うっそだろ、お前」


 崩れた壁から出てくるのは太陽のような色合いだった金色が出てきた。

 輝いた、と言うには煤けすぎている髪、可愛らしかった黄色の服は今の俺とどっこいのボロボロ、至る所から血を流し、髪と服を汚している。

 振り回すときに掴んでいた足は砕けているのか、芋虫のように這い出てきたその姿は今にも死にそうな様子だ。

 しかし満身創痍と言って差し支えない状態でありながら此方を睨む目は強い敵意に溢れていた。

 やはり、純粋な戦闘者としての気概が此方とは違う。


 「ゲホッ……ハァ、ハァ。地下からの奇襲とは巫山戯たまねを! 今すぐ殺してくれる!」


 上空から襲い掛かってくる人形の群れ。

 先程の巻き戻しのようにも見えるが先程とは違い地下を使った回避も出来ず、爆破に耐える事も最早不可能だろう。

 例えまたソレーユを盾にして耐える事が出来ても地下が完全に崩れて生き埋めになるのは目に見えている。

 流石にその状況で生きていられる自信はない。


 人形の動きが先程以上にスローモーションに見える。

 或いはこれも走馬燈の一種なのかも知れない。

 過去の思い出を高速で振り返るとも、周りが超スローモーションに見えるとも言われる走馬燈。

 一説には死を避けるための機能とも言われているがこの危機に際して如何すれば良いのか。

 思い付かなければただ恐いだけだと思うのだが。

 此処は開き直って体当たりでもするべきかも知れない。

 相手も手負い、上に穴こそ空いているものの地下という閉鎖空間。

 自爆戦術を仕掛ければ或は相打ちぐらいは狙えるかも知れない。



 ……しかし、遅い。

 人形共も周囲で固まるだけでまるで動く気配すら無い。

 本当に止まっているようにも見える。


 「ええ、本当に止まっていますから」


 え? そんな間抜けな声が出てしまった。

 その声のした方に視線を向けると止まった人形共の上には美少女がいた。

 というか三上月だった。


 「美少女です、 ブイ」

 

 固まって動かなくなった人形を使ってのジョ○ョ立ちを意識したスタイリッシュ立ち姿をさらしながら無表情で此方に向けてVサインを送る三上月。


 「そしてチェックメイトです。 親戚さん。 まさかこんなに早く仕掛けてくるとは思いませんでしたよ、まして魔法少女になるなんて」


 その、あんまりにも巫山戯た登場のせいか、魔法少女ソレーユの怒声が響いた。


 「三上月! 貴様ぁ!」


 「そんなに怒らないでください、親戚さん」


 「巫山戯るな! 私の復讐の邪魔をするつもりなのか?」

 

 「はい、全力で邪魔をさせていただきます」


 「ほざけ! 私の邪魔をするな三上月! 貴様だって、貴様だって」


 「ええ、あの男の被害者ですよ。でもそれで人生を棒に振るなんて御免ですから」


 「だったら放っておけ、私だけで事を為す。私が復讐を為す」


 「そんな事をしたら更に悪名が増えるだけじゃ無いですか、私は嫌ですよこれ以上悪名が上がるなんて」


 突然蚊帳の外になった俺は空を見て居た。

 近くでギャーギャー騒いでいる彼女たちを脳内から出来るだけ排除する。

 そして小ぶりの雲がポツポツと浮かんでいるのを見て俺は思いをはせる。

 買った揚げ物の材料は無事なのだろうか。と。

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