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宿敵? いえ同類です。

 「テル、もしも僕の顔が普通で、家が金持ちじゃなかったらどれぐらい違ってたんだろうね」


 「モテ具合が、か?」


 「まぁ、有り体に言って」


 「ハッハッハッハ、死ねば良いのに」


 「シンプルに辛辣だね」


 中学生に上がった頃の事だ。

 喧嘩に明け暮れた幼少時代が終わり、若干落ち着いた少年時代が始まった頃。

 お互い精神的に落ち着いて表面上は真っ当な生徒をしていたからか、アイツはやたらとモテ始めた。

 小学校時代からモテていたが思春期に入った辺りからは、ヤベぇフェロモンでも出しているんじゃねぇのか? と言うレベルでアイツはモテ始めた。

 中学生になり、親友と恥ずかしげも無く言えるようになった俺は、この頃ぐらいから周囲に告白代理人扱いされ始めた。

 小学生時代は、好きな子は居るのか、好みのタイプは何だ、などの質問の仲介が多かったが中学生になってからはほぼ告白代理オンリーである。

 初めは、ガタイの良い一寸不良っぽい人的な認識だったが、今ではアイツの付属品扱いだ。

 そのお陰か余り不良扱いされないので、良いのか悪いのか。


 「でも僕としては余り普通の人とは付き合いたくないんだよね、何か鈍っちゃいそうで」

 

 反応から分ると思うが、この頃のアイツは若干の中二病に犯されていた。

 分かりやすく言うと、特別な俺カッケーな台詞を恥ずかしげも無く言っていた。

 代表例は「フフッ」や「ハッ!」を台詞の頭に付ける事だろう。

 「フフッ、さあ、始めようか」 「フフッ、そうかな?」 「フフッ、そうだね」

 「ハッ! 笑わせてくれるね」 「ハッ! 知らないね!」 「ハッ? 一向に聞こえませぬが!?」

 等々、恐らくこの時ボイスレコーダーの一つでも持っていれば弱みを握れただろうに、惜しいことをしてしまったものだ。

 そんな、中二病に疾患していたアイツに女の好みを聞いた事があった。

 飯時に馬鹿話をしていた時だっただろうか? 

 特に聞いたのには理由が合ったわけでは無い。

 アイツの好みのタイプは聞くたびに変わっていたので天気予報並の気安さで偶に聞くのだが、その時は割かし真剣に悩んでいたように思う。


 「僕が付き合うとしたら? そうだな」


 「そこまで美人じゃ無くても良いし、賢くも無ければ運動が出来なくてもいい」


 「ただ、一緒に居て面白そうな子がいいな」


 「一緒に居るのが苦痛とか半端なく嫌だからね」


 「あっ! そうだ条件が一つだけ有った。これだけは譲れないやつ」


 「それはねぇ……」


 そんなたわいも無い会話の中でハルはなんと答えたのだったか。


 ※


 「クソッタレがーーー!!」


 今、俺は非常に不機嫌極まりなかった。

 そもそも自宅にタルタルソースが無かったこと。

 少女の姿で町を駆け巡ったこと。

 それを多くの人に見られたこと。

 そして、極めつけは帰りに襲撃されたこと。


 「ハルじゃ無くて俺かよ! 今日は休日なんですけどーー!」


 商店街を抜けて自宅近くに成った途端に一斉に居なくなる人影。

 最早慣れ親しんだ人除けの結界を感じた俺は遠くを見渡せる電柱に飛び乗ると先程まで居た場所に大量の人形共が集まってくるのが見えた。


 「月の防衛網でハルに手が出せないから俺にちょっかいをかけにきやがったか」


 せっかく、学校まで休んだってのに襲い掛かって来やがって。

 そんなにハルが憎いのか、殺したいのか。

 なんとなく気持ちは分るぞ。


 「だが、流石に坊主憎けりゃ袈裟まで憎いはどうかと思うぜ」


 人通りの少ない場所に入った瞬間に襲ってくるとか明らかに狙ってますよね。

 明らかに俺を狙い撃ちしてますよね。

 どう言う事だよ!


 「上等だ! パーティーの前に食前の運動だ。貴様ら纏めてスクラップにしてやる」


 度重なる不幸により、不機嫌メーターが振り切れてるんだ。

 いつも以上の勢いで殲滅してやる。

 そんな意気込みで飛びかかろうとするが


 「待て」


 聞こえてきたのは少女の声だった。

 大量の人形共が集団行動の様に綺麗に道を作る。

 そして、その先には先程の声の主であろう少女が居た。


 「お前が水城輝義だな」


 金髪碧眼の美少女がフリルの大量に着いた黄色のドレスを身に纏い、此方を睨んでいた。

 何となくではではあるが、分ることがある。

 或いはこれも魔法少女アプリの恩恵なのかも知れない。

 彼女は


 「魔法少女?」


 少女は不機嫌極まりないと言った表情で此方を更に睨み付けてくる。

 先程まではどちらかというと見下すといった感情が大きかったが、今は憤怒の感情が前面に出ている。

 月もそうだが美少女の変顔は心に来るからやめて欲しいな。


 「その通りだ、水城輝義。私は魔法少女ソレーユ、三上晴を殺しに来た未来からの刺客だ!!」


 予想出来ていた返答だった。

 というよりもそれ以外の答えは無かっただろう、これだけ怒っていて未来の警察ですとか言われても信じられないし。

 もし、そうだとしても後ろから刺しそうだし。


 「もう分っていると思っているから言うが、私は三上晴の子孫だ」


 知ってた。


 「我々三上晴の子孫達は、あの男のせいで数々の苦難に遭ってきた」


 その子孫の一人に直接聞いたよ。


 「三上晴の子孫と、いうだけで誰からも白眼視されてまともに社会で生きていくことも出来ない者もいるのだ。恋人関係なんぞ名前を聞いただけで去って行く。友人関係も同様だ」


 うん、聞いてたし予想していたけど酷すぎる。

 ハルの奴どんだけ未来でヤンチャしたんだよ。

 東洋のラスプーチンとか呼ばれそうだな。


 「確かにあの男の遺伝子は後世の世の中で役に立つのかも知れん。しかし、そのために今を生きる我々が苦渋を舐める必要が何処にある」


 全くもって同感だ。

 同情しか出来ねぇよ。

 自分も同じ立場ならそうしていたかも知れない。

 少なくとも身内に寝取り野郎はいらん。


 「良いか? 何故貴様があの男の肩を持つのか分らんが、さっさと手を引け。さもなくば貴様ごとアイツを殺すぞ」


 言いたいことは分った。

 此方に手を引けと言っているのはハルを殺すのの邪魔と言う事もあるが、無意味な殺しを好まないと言う事でもあるのだろう。

 無意味な八つ当たりしないことには好感が持てるし、俺自身に含む物が無いと言うことも分った。

 だが、此方とて言いたいことがある。

 言われっぱなしでは、舐められっぱなしでは我慢がならない。


 「魔法少女の名前で自己紹介とか恥ずかしくないんですか!?」

 (断る! 親友を売ることなどできはしない!)


 ハッ! つい本音が!

 だが、俺ですら戸惑う魔法少女の名乗りを上げるとはコイツは真症の魔法少女だ。

 魔法少女ソレーユ、元の性別が男か女か分らないが恥じらいの欠片も見えない。

 元の時代では如何なのか分らないが、現代人として少なくとも関わりたくなるようなタイプでは無い。

 

 俺の本音を聞いて最初は唖然とした表情をしていた魔法少女ソレーユは、顔を真っ赤にして此方を睨み付けてくる。

 なんてことだ、正直者という俺の美点がこんな所で裏目に出るとは。

 世の中はままならない物だ。


 「成る程な、貴様もまた私の障害というわけだ。流石は悪名高き、三上晴の友人というわけだ。」


 如何した物か、明らかに敵としてロックオンされたようだ。

 拙いことになったなぁ、出来れば戦いたくは無かったんだけど。

 此処でいっその事、ハルの助命嘆願とか出来ねぇかな。

 死な無い程度の拷問を前提に。

 ハルは命が助かって良し、子孫達は多少溜飲が下がって良し、俺も平和になって良し。

 誰も損をし無い良いアイディアだと思うんだが。


 「良いだろう、最早や容赦はせん。貴様を殺し、三上晴を殺し、私は復讐を成すのだ」


 せっかくのナイスアイディアだったがこれは無理っぽいですね。

 だって、明らかに殺しに来る気満々だし。

 人形含めて戦闘態勢を取ってるし。

 顔を見るだけで明らかに講和の気配は無さそうだ。


 「人形共よ、一斉に襲い掛かれ!」


 襲い掛かってくる、いつも通りの人形共。

 それらはいつも通りの勢いで襲い掛かってくる。

 そう、いつも通りだ。

 数百体居ようと物の数では無い雑魚、そんなイメージしか持っていない人形。

 だから相手の目的は人形を使っての消耗作戦だろうと俺はアタリを付けた。

 何時ものようにゲームに出てくるような無限沸きをする雑魚の如く、人形共を永延と俺にぶつけて消耗させる作戦なのだと。

とは言え、例え作戦が当たっていたとしても間違っていたとしても己に出来ることはひとつしか無い。


 力を込めて拳を握った。

 年端もいかない少女の華奢な拳だ。

 目の前の人形どころか枝でさえ折れるか怪しい弱々しい拳だ。

 とても凶器の様には見えない。

 しかし、その拳は鉄ですら破壊できる拳だ。

 テレビに出てくるような魔法使いのようにビームを出せるわけでは無いが、これ以上無いほど危険な武器だ。

 何せ一般人でしか無い自分が適当に振るうだけで人が吹っ飛ぶような代物だ。


 正直に言ってしまえば恐い。

 そんな凶器を振り回すのも、敵と戦うのも。

 今までの人形との戦いはとてもでは無いが戦いとは言えないだろう。

 なんせ意識が引き延ばされるとはいえ、物の数秒で終わるようなものを戦いとは認識出来なかったのだから。

 だから俺にとってはこれが初めての戦いと言える物になるだろう。

 敵は俺と同じ魔法少女、人形とは訳が違う相手だ。

 相手の能力は分らないが、ズブの素人の俺でさえ軍隊と戦えるような力を持っているのだ。

 そんな相手と戦う事が恐くないわけが無い。

 出来ることなら家に帰って、布団を被って寝てしまいたい。


 そのぐらい俺は戦いに恐怖している。

 とは言え、ハルを見殺しにするわけにも行かない。

 未来でいろいろやらかすと言われた友人ではあるが、俺にとってはただのモテ野郎でしかない。

 一緒に登下校して一緒に昼飯を食う友人を見捨てるわけには行かない。

 戦う力が有って、向かってくる敵がいて、守るべき友人がいる。

 これで逃げたら流石にただの臆病者だ。


 覚悟を決めて相手と向かい合う。

 元より出来ることなど一つしかない。

 魔法によって高められた身体能力で接近して全力で殴り付ける。

 それだけが己に許された魔法なのだ。

 ならばそうするしか無い、相手が人形であれ、初見の魔法少女であれ。

 思いっきり踏み込んで、思いっきり殴る。それだけだ。

 目の前にいる敵を超速で倒し、人形の補充をする前に倒す。

 例え敵に魔法少女がいようとも、こんな人形では俺を消耗させることすら出来はしないと己を鼓舞する。

 …そう、いつも通りに。


 「ハッ! どうした。仮にも魔法少女アプリを使っていながらその程度か!」


 しかし、それは余りに甘い想定でしか無かった。

 先程の作戦では既に魔法少女との戦いに入っている予定だったのだが、俺は未だに人形を一体も倒せてはいなかった。

 人形自体は、闘ってみた感じでは昨日までと一切変わったように思えない、スペックアップされていない人形共。

 何時もならば目の前に溢れている数程度なら既に終わっているはずだったが、傷一つ付けれていない。


 「クッ……」


 それどころか俺の身体には浅いながらも幾つもの傷が刻まれていて、それは魔法少女になってから初めての負傷だった。

 人形の攻撃では無い、人形が触れる前に、気づいたら攻撃されているのだ。

 しかも、手足の関節や動きの起こりを狙われることによって動きを封じられている。

 そこを人形共に狙われることによってほぼ完璧に俺は封殺されている。

 そもそも何で攻撃されているのか、何処から攻撃されているのか、それらがまるで分らない。

 幸い傷は深くは無いが、服は所々穴だらけに成りつつある。


 「最早、貴様に勝機は存在しない。三上晴の前に貴様を嬲ってやろう」


 高笑いをあげながら勝ち誇る三下ムーブを存分にする敵の魔法少女を本来なら中二病だと嘲笑ってやりたいがそんな事をしている余裕も無い。

 分りきっていたことだが、戦闘経験、戦力、全て相手が上。間違いなく格上だ。

 

 参ったなぁ、ちょっとピンチかも知れない。


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