魔法少女になりました。
火曜日の朝、彼女(三上月)の言っていた1週間が今日から始まる。
とは言え今日も今日とて高校生の俺は規則正しく幼馴染みのハルと一緒に登校である。
それは例え未来から来た電波型美少女と出会ったからといって変わらない。
むしろ彼女の言を信じるならばなおさらハルと一緒に行った方が良いだろうし。
そもそも、もしかして何かやらかすかも知れないからと、友人を嫌うとかはしたくないしな。
「テル、何にか怒ってる?」
「ああ?」
「うぇ! やっぱり何か怒ってる!」
怒ってないよ!
守ろうか守るまいか悩んで悩んで悩んで、最終的にぶっ殺した方が良いんじゃ無いのかとか思いかけたけど怒ってないよ!
割かし不機嫌極まりないけど怒ってないよ!
守ろうと思った直後に何時もの告白代理をさせられてぶっ殺そうと思ったけど
「怒ってないよ!」
「わぁ、なんて白々しい笑顔なんだ。僕小学生からの付き合いだけどそんな表情初めて見たよ」
本気で不思議そうな顔で此方を見るコイツを見てると、さっきまでの不機嫌さが抜けていくようだ。アホくさくなって。
例えコイツが将来クソ野郎になるのだとしても今のコイツは何もしていない只の友人だ。
そう思えば気を張るのも馬鹿らしくなってくる。
しかし、コイツがクソ野郎になるのかも知れないと思うとやっぱり……
「怒ってるよ!」
「いきなり認めた!」
「ぶっちゃけ今の内去勢してやろうかとか思ってるよ」
「しかも何か恐いことを言い始めた!?」
はっ! つい本音が飛び出てしまった。
これからは気をつけねばならない。
「……やっぱり代理告白面倒くさい?」
「かなりな!」
「ああ…… 君ってそこら辺ハッキリ言うよね」
「むしろ俺はお前が今更聞いてきたことにビックリだわ。今まであんまり関わらなかったし」
コイツの言い分としては直接告られれば普通に振るが代理の場合自分を経由しないので手の出しようが無いと言う事らしい。
まぁ、確かに普通に俺が代理告白を断れば言いわけなんだが。
小学生の時にやってから完全に作業になってたからな、断らないのが普通みたいな。
つまりは半分以上自業自得な訳だ。
これでハルを攻めるのはダメだろう。
「だけど言う! 俺は割かし心が狭いしみみっちいからな!」
それに妬ましいし。
「……自信満々で言える君を尊敬するよ、割と本気で」
そう言って沈んだ顔をするハルを見るに本当にそう思っているようだ。
コイツはええかっこしいなので俺みたいに開き直れないんだろう。
俺しか居ないんだから別に本音ゲロっても良いと思うがね。
「……考えておくよ」
コイツも自分の中に貯め込むタイプだからな。
これで少しは吐き出せると良いんだが。
……ちなみにこれでコイツが開き直って女に積極的になったら俺のせいなのだろうか。
※
今日は素晴らしい日だ。
教師に問題を当てられず掃除も無い代理告白もない、そんな最高の日だった。
朝の占いで二位だっただけはあるな。
ラッキーカラーはショッキングピンク、ラッキーアイテムはひよこだけど。
カラーひよこでも買えってか?
「流石Mr.ヒモロリの朝占いは当たるな」
「何そのイカレた名前の占いは」
なんと! 教育委員会に喧嘩を売ることに定評のあるプロデューサー『勝手武』が手がけた今一番の話題作を知らないとは。
番組内容としては司会者のMr.ヒモロリがニッチな性癖で今日の運勢を占うと言う朝の七時から流したらダメな物筆頭番組である。
Mr.ヒモロリは見た目ナイスミドルなオッサンだけど将来の夢は合法ロリ嫁を貰ってのヒモ生活らしい。
そんな奴を朝から地上波にのせるなんて日本って未来に生きてるよな。
それを思えば本物の未来人が言ったハルの人生も日本の将来を暗示しているようにも思えるな。
しかし、ハルが社会現象になっている話題の番組すら知らんとは。
放課後の帰り道にハルと馬鹿話をしているとコイツの世間知らずっぷりがよく分かるな。
コイツの部屋どころか家にはテレビが無くて新聞のみ、携帯すら持たせてもらえないという教育方針らしいが。
それなら名門の学校に通った方が良いんじゃ無いかと思わなくもない。
うちの学校普通の公立高校だし。
金持った私立に通うのが普通なんじゃないかなと思う。
金持ちの教育方針なんて知らんけど。
案外こう言う抑圧がハルの未来の暴挙に繋がっているのかも知れない。
「今度家に寄って見るか? 録り溜めてるし」
「ええ……気にはなるけど……ちなみに今週の一位は?」
「何時もロリ系が一位だよ。だから実質二位が一位みたいなもんさ」
Mr.ヒモロリ曰く幼女はこの世に、一日ごとに消えていき女になり、母になり幼女を産んでいく。
一日に千の幼女が消えていくが一日に千五百の幼女が生まれていく。
目に映るだけの性癖と違い生誕の祝福を生きるだけで感じられる聖なる性癖がロリコンらしい。
ロリコンは生きているだけで幸せを感じられる故にどんな不幸が降りかかったとしても幸福であると言う理屈で不動の一位なのだ。
これにはイザナギもにっこりだろう。
「そのロックな生き様に俺は尊敬を禁じ得ないよ」
「他のロックな人たちに殴られそうだよね」
ロックとは一体……。
そんな哲学的な事をハルと一緒に考えていたら胸ポケットのスマホが振えた。
それに気づいた俺はの機嫌は上機嫌から急転直下パラシュートなしの気分だった。
朝の占いもやはり役に立たねぇと思いつつ右足側のポケットからスマホを取り出した。
「うん? 如何したのさ?」
「親からのメール。途中で買い物してこいって」
「着いていこうか?」
「いや、いいや。そんな対した物じゃ無いし。お前の家そこだし。」
「そうだね。それじゃあまた明日」
離れていくハルを尻目に俺は近くの路地裏に入り胸ポケットのスマホを取り出す。
スマホの電源を入れると画面に映るのは変身しますか? の文字のみ。
一瞬の躊躇を挟み俺はスマホの画面をタップする。
「……変身」
すると目を焼くほどの光がスマホから溢れ出す。
その光がまるで意思を持つかの如く俺の全身を包み隠す。
光自体に質量があるかのような感覚がある、まるで暖かいお湯に浸かっているような心地よさを感じながら俺は目をつむった。
俺の全身が震える。
手足とか全身とかだけでは無く、まるで己の魂が変質しているような気さえする。
「完了……」
身体から迸るほどの力を感じる。
いっそ視覚化出来るのでは無いかと思うほどに身体に力が巡っていく。
拳を力いっぱい握る。
その動作だけで如何に自分の力が強大かが分る。
全身をみなぎる全能感。
しかし、それに反して俺の中にあるのはやるせなさだけだった。
「魔法少女カグヤ」
光が収まっていく、先程まで
そして光が収まった路地裏にはふりふりのピンクのミニドレスの様な物を着た14・5歳ほどの美少女がいた。
腰まである長い黒髪を持ち確認する美少女がいた。
近くにあったカーブミラーで確認したがやはり美少女だった。
先程までいた男子高校生と兄妹か? と思われる程度に似ている美少女だった。
いやぁ、実に美少女だなー。
10人中10人振り返るレベルで美少女だなー。
町で見かけたらナンパしちゃうかもなー
一体誰なんだろうなー。
「俺だよバーカ!……ファーーーック!!」
朝の占いが役に立たないと証明された瞬間だった。