幼馴染みの未来を知りました。
「テル、如何したのさ?最近心ここに在らずって感じだけど」
「いい加減お前さんの代理人扱いに疲れてきたのさ、昨日だって帰り道に見知らぬ女子にそう言われたしな」
「また? 流石に多いね、今度埋め合わせするから許してよ」
「フライドチキンをバケツで驕りな」
「うへぇ、見てるだけで胸焼けしそうだね」
「育ち盛りな高校生男子には余裕余裕」
いつも通りの日常、ハルとバカな話をしながら休み時間を消費していく。
無駄極まりないが居心地の良い空間だ。
友人と会話する。
そんな当たり前の、掛け替えのない時間、それが残り六日で終わるなど冗談でも認められるわけがない。
だが悩んでしまう、コイツを助けるために俺は自分を犠牲に出来るのだろうか。
※
「三浦晴はこの1週間以内に死にます」
「貴方にはこの1週間三浦晴の護衛をして欲しいのです」
「もう一度言います、三浦晴はこの1週間以内に死にます。なので貴方には彼を守って欲しいのです」
突然目の前に現れた美少女が電波な事を言い出した。
普通の人間ならば暫く硬直するような場面だ。
しかし、俺はこれでも親友のお陰と言って良いのか分らないがいろいろな女性を見てきた自負がある。
普通の恋する乙女からツンデレ、女王様系、メンヘラ、スイーツ(笑)。
数多の地雷を撤去してきた経験をもってすれば、大概の女性なら経験から最適解をたたき出す事が出来る。
そう、思っていた。
しかし、そんな俺でも電波系は初だった。
こんな時俺はどんなリアクションを返せば良いのだろうか。
俺は自慢の頭脳を高速で回して脳内シュミレーションをしてみる。
1・普通に聞き返す
これはダメだ。メンヘラ系にこれをやったら自分の都合の良いようにねじ曲げて好き勝手行ってくるからな。
疑問系の「はい?」をイエスの「はい!」に捉えるぐらいは軽くする。
コイツが電波系のメンヘラの可能性がある以上やめた方が良いだろう。
2・無視する
これは候補の一つだ。
相手にせずに家に帰ってハルに警告の一つでもしておけば良い。
しかし、これの場合最悪ストーカー行為に発展する可能性がある。
恐らく標的はハルなのでそこまで深刻ではないだろう。俺的には。
しかし俺に矛先が向く可能性があるので、ベターではあるがベストではないな。
3・人違いを装う
これも候補の一つだな。
しかしこれはバレたときに報復に遭う可能性が高い、ヘタをすれば2と違い俺を標的と見なしてストーカーする可能性が高い。
後でハルに押し付けることが出来そうだから今だけをやり過ごすなら悪くない。
4・訳の分らないことを叫びながら煙に巻く
『フッ、貴様も時の定めを覆す物か。しかし運命を変える者が貴様だけだとは思わないことだ希人よ』
その後高笑いをあげながら走り去っていく。
悪くない気がする。
俺の中の中二魂が復活しかけたがこれはこれで悪くない。
これでいこう。
「ちなみに私は電波でもメンヘラでもなければ中二病患者でもありません」
先んじて言われてしまった。
しかし、でなければ普通のイカレになるわけだが。
如何なのだろうか。
「もっと言えば三浦晴に告白するために貴方に近づいた訳でもありません」
ハルへの告白でもない。
となると中二病が爆発したJK(暫定)で決まりだな。
さっさと無視して帰るか。
「とは言えすんなり信じてもらえるとは思っていません、なので説明がてら貴方には魔法を使ってもらおうと思います」
……魔法……magic……手品、やっぱりアレな人だな
いや、そもそも先の発言の時点でアレだったが此処まで来るとマジでイカレかもしれん。
これは先程の2番目の案を使ってダッシュで逃げるべきかもしれん。
「ちなみに私を無視した場合には大声を出して貴方の名前を叫びます」
コイツヤベぇ、マジで。
俺を社会的に殺すつもりだ。
「ちなみに、残り時間は後五秒です」
「一応聞いてやるからカウントダウンはやめろよ」
「最初っからそうしてください」
「不審者に対する真っ当な対応だろうが」
性別が逆ならノータイム通報が常識だ。
性差別による現代社会の闇が見えるな。
「繰り返しますが三上晴はこれから1週間以内に殺されます貴方にはその護衛をして欲しいのです」
いろいろ聞きたいことはありすぎるがまず聞かなければならないことがある。
「結論だけを話すな、まずお前が何者なのか、未来人なのか超能力者なのか宇宙人なのか電波なのかを話せ。と言うかせめて自己紹介ぐらいしろ」
そう言うと少女は考えるように目を暫くつむるとため息を吐いた
「……分りました。まずは落ち着ける場所に向かいましょう」
※
何処にでもあるような喫茶店で美少女を目の前にしてカフェラテを飲む。
結構憧れのシュチュエーションなのに余り嬉しくない。
この時点で割かし不機嫌になりつつある。
「まず自己紹介からだな、俺のことを知っているようだが一応言っておくとしよう」
とは言え流石に理不尽すぎるので一応愛想笑いを顔に貼り付けて話しかける。
「高校二年の水城輝義だ。ハルとは小学校からの幼馴染みだ」
「……三上月」です」
三上?もしかしてこの子は。
「ええ、貴方の考えているとおり私は三上晴の親類になります」
「ああ、やっぱり。なんとなく雰囲気が似てるもんな」
俺がそう言うと彼女の持っていたコップがカタカタと振るえる。
彼女自身の顔も心なしか先程よりも表情が消えている。
そして俺を襲う謎の圧迫感と背中に伝う冷や汗。
「話を戻します、正確には私は三上晴の曾々孫に当たります。」
ああ、セ○シくんと同じ設定なのね。
そんな感想しか出てこない。
未来人(大穴)or電波(本命)が確定したわけだがそんな感想しか出てこない。
我ながら枯れてるなぁ。
「三上晴にはこれからの歴史上重要な役割があります」
歴史、歴史と来たか。
アイツは優秀だけど別に天才でも無いし女にモテる以外にそれほど特徴が無かったんだが。
何をやらかす設定なのやら。
「いえ、彼自体にはさして社会に貢献した訳ではありません」
そう言うと彼女は顔を歪めながら語り始めた。
そして俺は、まるで変顔を隠そうとしない残念美少女に泣きたくなってきた。
「彼はそれなりに良い大学に入りそれなりの就職をして普通に生活する予定です」
「しかし、彼は自前のイケメンフェイスを使ってこれから女をとっかえひっかえして、あっちこっちに子孫を残すのです」
「そして幾度となく刺されながらも三上晴は逃げ切り大往生を果たします」
それほど長くは無い、むしろさっさと話して切り上げたかったのか一息で無理に喋ったような話だった。
恐らく晴のしたことを箇条書きにして更に要約したのだろう。
ハッキリ言って何も分らないに等しい。
そもそも十中八九これは彼女の妄想の中の物だ。
そんな物で友人を乏しめるなど許しがたい事だ。
故に彼女には文句を言ってやらねばなるまい。
「端的に言ってクソ野郎だな」
「ええ、歴史的クソ野郎です」
ッハ!? つい本音が。
「とは言え彼をこのままむざむざと殺させる訳にはいきません」
「ああ、お前さん達生まれなくなるもんな」
SF物のタイムパラドックス的なアレか。
過去を変えることによって未来が変化する的な。
「いえ、どうあっても私達は生まれてきます」
「え?」
「私が未来で生まれている以上はどうやって過去を変えようとも私は生まれてきます」
「死んでるのにどうやって?」
「私の中の遺伝子情報が変わるだけです。多少見た目は変わるかも知れませんが私は生まれてきます」
ああ、ガチでドラ○もん設定な訳だ。
結婚相手がジ○イ子から静香○ゃんに変わってもセ○シは生まれるって言ってたもんな。
アレ? でも待てよ、それなら何故そもそもハルを助けようとしているんだ。
あいつ自身はそもそも歴史に名を残さないし、子供も問題なく生まれる。
何の問題も無くないか?
「しかし、彼の中には先祖から受け継いだ重要なDNA情報が含まれているんです。詳しくは言えませんが彼が遺伝子を残さず死んだ場合を未来の技術力を使いシュミュレーションした結果世界が滅ぶ事になるそうです。その彼が今死ぬのは困るんです」
「今じゃ無きゃ構わねぇのかよ」
実に壮大だが要はアイツがヤリ○ンになる協力をしろって事か。
なんて巫山戯た協力要請だ。
「DNAがばらまかれていれば問題ない。むしろばらまいてくれればさっさと死んでくれても構わない。」
「殺意高すぎやしないかアンタ」
殺気だった無表情の美少女ってやったら恐いんですけど。
周囲の人たちも店から出て行ってるし。
「正直アイツのせいで大分苦労している子孫達が大多数だからむしろ率先して殺したい位です」
「だったらアンタが直接守れば良いじゃ無いか、なんで俺に頼むんだよ」
それこそドラ○もんを持って来いよ。
猫型ロボットのサポートで女を落としまくるノビ○くんとか最悪だけど。
「三上晴には出来れば未来の技術を見せてはいけないというシミュレーションが出ています。未来が変わりかねないそうなので。それで私としては業腹ですが三上晴の唯一の友人である貴方に護衛を頼もうかと」
「わぁ、やる気がガンガン減ってきたぞ」
それこそ現代兵器を未来の兵士に持たせて護衛させればよくね?
もしくは金で現代のSPを雇うとか。
ていうかアイツ俺以外友達いなかったのか?
別にボッチじゃ無かった様な気がしたけど
「今の三上晴の友人関係は彼が女性関係に開き直った結果壊滅します」
「あぁ、やっぱりそこなのね」
「むしろアイツにそれ以外の特徴はありません、彼氏持ちとか関係なく手を出すクソ野郎です」
「わぁ、やる気がガンガン減ってきたぞ」
それなら俺も今からでも縁を切りたいんだけど。
いくら幼馴染みでも寝取り魔とか関わりたくねぇよ。
割かしマジで。
「私がこの時代に来たのもくじ引きですからね、クソみたいな確率でクソ野郎をの尻を拭きに来たんですよ」
汚ぁい、さっきからこの子クソクソ言い過ぎだろ。
仮にもご先祖様だろうに。
いや、流石に敬うのはむりか。
「業腹ではありますがアイツには生きて貰わなければならないのです」
そこで月は一息入れてコップの中身を飲み干すと視線を此方に向ける。
しかしそこには先程までの怒りは無かった。
今の視線には憐憫と同情心が込められているように思える。
「それで初代アイツの尻拭き係の貴方に白羽の矢が立ったのです」
「ごめん、それ断ってもいい? 割と真面目に」
「気持ちは痛いほど分りますが出来れば貴方にお願いしたいのです。2代目から初代へのお願いです」
「俺が初代なのは確定なのか!?」
※
結局の所俺は彼女、三上月の言うことを信じることにした。
正直信じられる物では無いし、信じたくは無いものではあるが。
証拠を見せられればそうも行かない。
目の前にいる親友、コイツに対していろいろな情報を得たが認識は変わりそうに無い。
寝取り魔とか色魔とかそんな事を聞かされても俺にとってはコイツは親友なのだ。
だが俺はコイツの為に命を賭けられるのだろうか。
危険だし、もしかしたら死ぬかも知れない。
俺は……。
「聞いてるのかいテル?」
「ん? ああ何だたっけ」
「何か他所のクラスの女子が君を呼んでるらしいよ」
ふと教室の出入り口を見るとそこには頬を赤らめた女子が当たり前の様にハルを見ていた。
「……」
やっぱり見捨てよう。