痛い少女に会いました。
「水城君。あの、すみませんこれ受け取ってください」
高校二年生の俺、水城輝義は、女子に呼び出されていた。
場所は校舎裏、目の前に居るのは頬を桜色に染めたかわいらしい少女。
その少女が俺に向けて手紙を差し出してきた。
手紙の封にハートのシールを貼って明らかに恋文、ラブレターだと分る物だった。
「今時手紙なんてと思われるかもしれませんが、やっぱり直接だと恥ずかしくて」
照れた風に頬をさらに染めた少女はまさに恋する乙女と言った風情でとてもかわいらしかった。
こんな少女に告白されるなんて幸せ者だなぁ。
全くもってそう思うぜ。
「友達から聞いてメールアドレスとか電話番号とかも知っていたんですけどやっぱりそれだと軽い気がして」
これまでの会話から既にこの子の性格まで良いことが分った。
見た目よし、性格良し、控えめな所もあるようだがそれもまた可愛らしくてよし。
こんな女子となら是非とも付き合いたい物だぜ。
「だからこれを受け取ってください!」
受け取りますとも。
そして是非とも私と付き合ってください!
「貴方の親友の晴君に渡してください!」
……知ってた。
※
皆が下校し終わり、誰もいなくなった教室で男二人が集まって話をしていた。
「ファーッ! またですよ! またですよ旦那! えー、何回目なんですかねー?」
「アハハハ、ごめんね、何度も」
先程受け取った手紙を渡しながら俺は全力で愚痴を言っていた。
恐らく此奴が俺の親友で無ければ2、3発ほど殴っていただろう。
そんな俺を嗤いながら、いや違った。
笑いながら此方を見てくる親友、三上晴。
「FUCK! なぜ貴様だけこんなにもモテるのだ、不公平だ! 富の不当占有だ! 共産主義に今からでも鞍替えしろ」
「共産主義に変えたからって君がモテるわけじゃ無いと思うよ」
「ゲヴォッ!」
「それに僕がモテるのはどちらかというと顔のせいだからね、あんまり嬉しくないかなぁ」
「グホァッ!」
的確に此方にダメージを与えてくる目の前の親友、もとい辛憂。
イケメンの僕は内面を見て欲しいタイプなんだーは予想以上に心に効くな。
「やはり、やはり、男は顔なのか……」
確かに目の前の男は顔が整っている。
俺自身別に不細工では無いと思っているが此奴と並ぶと引き立て役にしかならん。
イギリス人の母譲りという輝くような金髪。
多少幼さの残る童顔ではあるものの整った顔。
まるで女のように線の細さ。
母親の実家は名家の金持ち。
少女漫画に出てくるような王子様のような奴だ。
俺? 普通の日本人の醤油顔だよ!
「しかし、またか。こうしょっちゅうだと困るな」
「ああん? また断ろうってのかよ! あんまり調子乗っていると挽肉にすんぞ」
「だってわざわざ直接会って断らなくちゃいけないんだよ? だったら直接告白してくれたら楽なのに」
「てめぇ、あれか? ここからチョット階段を上り下りするのと廊下を歩くのがそんなに面倒くさいって言うのか」
「うん」
「おめ、なにいっでる! このほんずなすが!」
「ちょっと待って、言葉がヤンキー言葉を通り過ぎてよく分からない方言になってきてるから。少し落ち着いてから喋ってよ」
確かに興奮しすぎたか、コイツのモテ具合なんぞ散々見てきただろうに。
今更慌てるような事じゃ無いだろう水城輝義、クールになるんだ。
……よし落ち着いた。
「そうは言ってもよ、実際に合った感じ良い子だったぜ。試しに付き合ってみたらどうだ?」
「ええー、別に君を疑うわけじゃ無いけど合ったことも無い子と付き合うとか僕は無いなー」
「だから試しにって言っているだろ、一回付き合ってそれで人となりを見れば良いじゃねぇか」
「いや、好きが嫌いかも無しで初対面で付き合いたくなんか無いよ、それこそ顔で好かれてるじゃんか。僕はそういうのはごめんだよ」
まぁ、確かにその意見も分るわな。
確かに初対面で付き合ってくださいっていわれて付き合うってのも不誠実か。
「それにテルを介してでしょ? 直接告白してきてくれたんならともかく他人に仲介を頼むような人とはちょっと」
「確かにお前の言っていることも分る」
それもわかる、自分の一世一代の告白なら自分で直接しろってことだからな。
そう考えると確かにその通りだ。
なら
「そのことを周囲に公表しろよ、何度俺がお前に代理告白させられていると思っているんだ!」
「いやぁ、断るたんびにそう言っているんだけどねぇ」
「FUCK! おかげで俺は代理人扱いだぞ、この間なんてお前じゃ無くて知らない奴への告白代理すら頼まれたわ」
「む、僕じゃ無いのかい? それは少し嫉妬するなぁ」
「あれだけ告白を断っておいて何を言っていやがる」
「あ、違うよ。僕への告白じゃ無くて、君が知らない誰かに告白をしたことに嫉妬しているんだよ」
「気色の悪いことを言うんじゃねぇよ! 第一知らない奴への代理告白なんぞ即効断ったわ!」
「本当、君に何度告白された事か。いっそのこと君と付き合ってみようか? そうすればこんな冗談みたいな告白も終わるだろうし」
「俺の人生が終わるわ、なにが悲しくて男と付き合わなくちゃいけねぇんだよ!」
モテすぎる親友と普通な俺。
小学生からの腐れ縁でこの高校に入ってからも同じクラスだがハルの友人をするのは疲れる。
小学生の時からひたすらにモテ続け、俺は常にその被害を被っていたわけだから当然だ。
正直ハルと一緒にいることにストレスを感じないわけでは無いがそれ以上に一緒にいることが心地良いからつるんでいる。
いい加減コイツも誰かと付き合ってくれないかなと思わなくも無いがそうなったら今度はハルと余りつるむことも無くなるんだよな。
ハルも今はひたすら告白を断っているけどいつかは誰かと付き合うんだよな。
まぁ、それまではハルとだらだらとつるんでいるか。
俺はこの時まではそう思っていた。
呑気にも、その程度の事だと、あってもいつも通りの被害だと。
そう思っていた。
※
それは下校途中の事だった。
いつも通りハルと分かれた自宅に向かって行った時である。
「水城輝義さん」
名前を呼ばれて振り返るとそこには白みがかった髪、透明感があるといった方が良いだろうか。
そんな髪をした美少女が立っていた。
外人だろうか、それにしては流暢な日本語だ。
「すみません、貴方が三浦晴の仲介人の方でしょうか?」
またか、俺はそう思った。
いい加減慣れてきてしまった。
アイツへの告白代理人、いい加減この肩書きもなんとかせねばな。
そう思っていると目の前の少女は此方を見つめながら話始めた。
「三浦晴はこの1週間以内に死にます」
は?
俺が何かを考える暇も無く少女は話を続ける。
「貴方にはこの1週間三浦晴の護衛をして欲しいのです」
「」
「もう一度言います、三浦晴はこの1週間以内に死にます。なので貴方には彼を守って欲しいのです」