表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/43

7:吸血姫の力


「ふむ……どうやらそうみたいだな。まぁ、お前にそんな度胸はあるまい。精々、少し触るぐらいが限界だろう。……いや、それすらも無理そうだな」

「ぐっ……!」


 こいつ、なんて洞察力をしていやがるんだ。


「図星か? ふふっ、まぁいい。そんなことよりもお前、名前は?」

「俺?」

「お前以外に誰がいるんだ?」


 つくづく一言多い少女だ。


神夜(かみや)式久(しきひさ)だ」

「式久か……長いな。シキと呼ぶことにしよう」


 まぁ、その辺りは好きに呼んでくれて構わない。クラスの友人たちも『シキ』や『シッキー』、

『シキやん』などと、好き勝手に呼んでいる。


「お前は?」

「私はドラキュール=ルべリオン=シャルロット」

「ど、ドラキュ……?」


 予想より遥かに長い名前だった。


「ん? あぁ……、長くて覚えられないのか。そうだな、私のことはシャルと呼ぶがいい」


 哀れみの視線を向けながら、吸血姫――シャルはそういった。この終始一貫した高圧的な態度、もはや天晴と言うほかない。


「さて、早速だがシキ。お前にはこれから、我が一族復興のために、馬車車のように働いてもらわなくてはならない。手始めに、私たちの村に来てもら――」

「――断る」


 シャルが全てを言い切る前に、明確な拒絶を告げる。

 吸血鬼は『鬼族』――今もなお続く千年戦争を仕掛けた悪の一族だ。そんな悪い奴らに手を貸すことは、正義にもとる行為だ。

 すると、シャルは呆れたように肩を(すく)めた。


「はぁ……。お前は私たちの王――吸血鬼の王(ヴァンパイア・ロード)になったのだ。もはやその身は、お前の一人のものではない。わがままを言うな」

「わがままを言っているのは、そっちだろう。俺には俺の生活があるし、悪いが吸血鬼の事情なんて――俺は知らない」


 俺には愛すべき妹、緑里をはじめとした親しい友人たち。それに、やらなければならないこともある。吸血鬼のために大切な自分の人生を使い潰すつもりは、これっぽっちもない。


「そうか、そうか。それなら仕方がないな」

「わかってくれたか?」

「ならば――力づくで、連れて行くだけだ」


 鋭い眼光が俺を射抜く。その迫力に、少し気圧(けお)されてしまう。


「……俺には、吸血鬼の王の力があるんだろ? シャルに俺が倒せんのか?」

「はっ。思い上がるなよ、青二才が。吸血鬼の力は研鑽に研鑽を重ね、ようやく扱えるようになるもの。貴様のようなヒヨッコが私に勝つなど、笑い話にもならんぞ」


 シャルは自信満々に、まるで子どもに諭すようにそう言った。

 俺の背に一筋の汗が流れる。それがやけに冷たく感じた。


「安心しろ、殺しはせん。お前は長年探し求めた王の器だからな。――少し眠ってもらうだけだっ!」


 そういうとシャルは、力強く地を蹴り、こちらへ肉薄する。


「はっ!」


 繰り出されたのは手刀――俺の首筋を目掛けて、振り下ろされる。

 しかし――その速度はあまりにも遅かった。


(これは……フェイントか? いや、それとも接触時に発動する魔法?)


 俺はいくつもの可能性を考慮し、シャルの手刀を回避する。


「……ほぅ。私の一撃を避けるとは、全くの素人というわけではなさそうだな」

「ん? あ、あぁ。運動実技は、得意な方だからな」


 『魔法』については雑学、実技共にてんでからっきしだが、運動実技の成績だけは悪くなかった。

 いや、そんなことよりも今のは……避けようとした『判断』を褒めている……のか?


「しかし、付け焼刃の技術など、私の前では通用せん」


 言うが早いか、シャルは手刀に蹴りなど、様々な攻撃を仕掛けてきた。


「ふんっ! はっ! このっ! ……くっ、なぜ当たらん!?」


 しかし、そのどれもが遅く、まるで小さな子どもがじゃれてついているようだった。


「――こんのっ!」


 シャルが放った渾身の手刀を、俺は難なく掴み取る。


「なっ!? は、離せ! この下種(げす)めがっ!」


 するとシャルは罵詈雑言と共に俺の足を蹴り始めた。しかし、痛みは全くと言っていいほどない。まるで小さな子供が戯れてきているような感じだ。

 だが、こんな深夜遅くにドタバタと暴れられるのは困る。隣の部屋で寝ているシロを起こしてしまう。


「わかったから、そう暴れないでくれ」

「なっ!?」


 俺が突然手を離したからか、シャルはバランスを崩し、尻もちをついてしまった。


「あっ、悪い」

「痛つつ……。急に離すな! 馬鹿者が!」

「俺にどうしろと……」


 あまりにもあんまりな罵倒だ。


「そんなことよりもシャル……お前、さっきから何やってんだ?」


 彼女の手刀や蹴りには、全くと言っていいほどに重みがない。まるで見た目相応の――少女のような力だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ