41:Aランカー鏡白夜
競技場の中央を見ると、魔法で作ったのであろう椅子に座り込み、苦い顔でこめかみをさする赤威。そしてその対面に息を切らしながら、刀を握る威霧高校の生徒の姿があった。
「はぁ……遅いよ、シキヒサ……。おかげで無駄な体力使っちゃったじゃん……」
俺の到着に気付いた赤威は、気だるげに立ち上がり、こちらに顔を向けた。
「ちょっ、赤威、後ろっ!」
その隙を逃すわけもなく、対戦相手が刀を上段に構え斬りかかる。
「舐めてんじゃねぇぞっ!」
「ん、あぁ。君もおつかれさま」
赤威が右手で指を鳴らした瞬間――相手はまるで砲弾のような速度で背後へ飛び、凄まじい轟音と共に壁に打ち付けられた。
あまりにも衝撃的な光景に観客はもちろんのこと、審判までもが息をのむ。
「……しょ、勝者赤威帝!」
そして数秒遅れて、審判が勝敗を宣言した。
『し、試合終了ーっ! 赤威帝選手、圧倒的、まさに圧倒的勝利ですっ!』
「な、なんだよ、あれ……?」
「詠唱破棄した魔法か……? いや、それにしても……」
「あぁ、威力も発動速度も速すぎる……」
会場の注目を全く気にする素振りも見せず、赤威はこちらへと向かってくる。
「あー、疲れた……」
「悪いな、迷惑をかけた」
「本当だよ……。まったく、今度の昼飯はシキヒサのおごりね。さて、そんなことより気を付けなよ。次の相手は多分Aランカー――鏡白夜だよ」
そういって振り返った赤威の視線の先には、真っ白なスーツを身に纏った男が立っていた。おそらくあいつが鏡白夜なのだろう。
「あぁ、ありがとう。――でも多分、大丈夫だ」
「おー、さっすが式久! 期待してるよ」
そして十分間のインターバルもあっという間に終わり、ついに第五試合――大将戦のときがやってきた。
『さぁつーいーにぃ、やってまいりましたっ! 泣いても笑ってもこれが最後っ! 第五試合、個人戦を開始しますっ! まずは各校の出場選手の紹介からっ! 帝辺高校からは――おっと、これまた有名人の登場ですっ! 一年C組、神夜式久選手っ!』
「神夜式久……一時期噂になっていたあの不良か……。まさか帝辺高校に通っていたとはな……」
「大将戦に出てくるってことは……赤威帝よりも強いのか……?」
「いやぁ、それはないだろう。おそらく、帝辺高校は第四試合で勝負を決めるつもりだったんじゃないか?」
「それにしても……今年の帝辺高校、中々におもしろい生徒が揃っているじゃないの」
『そしてそして対する威霧高校からは、みなさまご存知っ! 威霧高校の絶対なるエース! 強大なAランクスキルを有するAランカー――鏡白夜選手ですっ!』
「白夜様ーーっ! こっち向いてーっ!!」
「出てきたな、鏡! 俺はこいつを見に来たんだっ!」
「いつものショーを頼むぜっ!」
観客からは割れんばかりの声援が鏡に飛ばされる。ずいぶんと人気があるじゃねぇか……。
「よぅ、大人気だな。まぁ、よろしく頼むよ」
俺がそういって右手を差し出すと、鏡は両手で顔を覆い、天を仰ぎ見た。
「……恥だ」
「え?」
「観っっっ客のみなさまはっ! このようなくだらないシーソーゲームなど望んでいなかった! 僕たちが、君たち底辺を踏みにじる凄惨で残虐、愉快で痛快なショーにしなければならなかったんっっっだっ!」
「お、おう……」
整った外見とは裏腹に、中身は相当やばいやつだった。
「はぁ……はぁ……。ショーを……最高のショーをお届けなければ……っ!」
肩で息をしながら鏡は俺を鋭く睨み付けた。
『さぁ、それでは両者の準備が整ったところで、対校戦第五試合大将戦――開始っ!』
試合開始と同時に、鏡は頭上に手を伸ばし――指をはじいた。
「――さぁ舞台の幕開けだっ!」
するといくつもの巨大な長方形の鏡がニョキニョキと地面から生えていった。鏡はみるみる内に俺と鏡は囲っていき、円形のドームを形成した。
『おーっと! いきなり出ました! 鏡選手のAランクスキル――<鏡の世界/ミラーワールド>です! こちらから神夜選手の姿が見えることから、これはマジックミラーのようですね! さぁとにもかくにも神夜選手、これで逃げ場は無くなってしまいました!』
「……さすがにすげぇな」
Aランクスキルというのは伊達ではない。これほど大量の物質を一瞬にして展開するとは……。
「観客のみなさまはっ! この僕の華麗な勝利とっ! 君の無様な敗北を望んでいるっ! ふぅー……君に恨みはないが、素敵なダンスを踊ってもらうよ」




